セグウェイ
PT i2 SE / PT x2 SE

 長所: 1自立安定性 2操縦性 3航続距離
 短所: 1まだ高い 2まだ買えない 3まだ乗れない

 Segway PT(セグウェイ パーソナルトランスポーター)は、鳴り物入りで登場したSegway HT(ヒューマントランスポーター)に改良を施した電動立ち乗り二輪車である。バランススクーターとも呼ばれる商品で、市場では桁違いに安い類似品がミニセグウェイという総称で出回っているが、セグウェイブランドにミニセグウェイというモデルは存在しないし、セグウェイ自体も一般向けには未だ販売していないし、現時点では一般公道を走ることも認められていない。今回はクローズドコースでオンロード向けタイヤを装着したi2 SE(SE=セカンドエディション)とオフロード向けタイヤを装着した x2 SEに試乗した。

 車軸より低い所にフロアステップがある。ホイールインモーター採用でデファレンシャルがないから最低地上高を低く設定でき、しかもエンジンと違っていきなりトルク全開の電動モーターだから、平行二輪車でもリアルタイムにバランスを取ることができるのだろう。驚いたのは乗車時間が長くなるほど両手を離した際の安定性が高くなってくる事。両手を離すと最初は前後にチビチビ揺れていたのに気付いた頃には全く動かずに安定していた。人間の平衡感覚がこんな数分間で進歩するわけがない。おそらくSegway PTが搭乗者のクセを学習しているのではないだろうか。内燃機関では絶対に製品化できなかったことは想像に難くない。体重を乗せて体を揺すっても軋んだりしない。車体剛性も問題なさそうだ。

 運転席。立ち席なのでケツは痛まない(笑)。
 居住性。立てるスペースしかないから、狭いとか広いとかは感じない。しかしx2 SEで派手にスラロームすると下肢がフェンダーフレームに当たるのが鬱陶しかった。ハンドルの高さだけは上下に12cm調整できるようになっている。170cmない私が一番下で丁度良かったので、女性や子供だともう少し低くてもいいかなと思う。欧米人体型を想定しているのだろうか。なお、正常に動作させるために、荷物を含めて下は45kgから上は117kgまでの重量制限を設けている。

 操縦性は素晴らしい。乗り降りさえできるなら楽にSegway PTを操縦できるだろう。体重移動によって体を前傾させれば車体が前に進み、後ろに倒せば車体が後ろに進む。リーンステア(=バーハンドルと一体化したハンドルシャフトをそう呼ぶ)を倒せばその場で転回する。基本操作はたったこれだけである。進行中に右に進路変更をしたければ体重移動しつつリーンステアを右に倒せばいい。

 Segway PTのバランス保持機能は前後方向にしか働かない。左右方向は搭乗者自身がバランスを保たなければならない。
 ただし低速ロール補正と呼ばれる機能がある。左右に傾斜している路面でリーンステアを鉛直に立てても(=車体とリーンステアに角度がついていても)転回しない。これは左右に傾斜している路面でリーンステアを車体に対して直角の角度に保つと搭乗者の姿勢が不安定になるので、リーンステアと搭乗者がともに鉛直に立って乗車姿勢を保てるようにしているのである。もちろん鉛直よりさらに倒せばそちらに向かう。速度が上がるほどに補正は強く働く。

 運動性能。初心者機能を設定するかどうかでリーンステアの反応速度が変わる。初心者機能を解除すれば、搭乗者次第で運動性能が変わる。バイクや自転車に乗っている人ならばスラロームもブレーキングもすぐに思いのままになる。

 旋回性。旋回というより転回と表現したほうがいい。取扱説明書では回転半径は『なし』と豪語している。左右輪が相互に逆回転するためである。自分の尻尾を追いかける犬のようにクルクル小回りするならi2 SEの方が速い。やはりバギータイヤみたいなx2 SEはだいぶ大きな抵抗を受けるようだ。

 最高速。舗装路面でのi2 SEに73kgの負荷をかけて体を大きく前傾させたところ15m程度で平地最高速の21km/hを確認した。砂利道や牧草地でのx2 SEは同様に平地最高速の22km/hを確認した。これはなんとか最高速を出そうとメーカーが推奨しないハンドルに寄りかかる姿勢をとってGPSで瞬間的に確認できた数値である。20km/hに到達すると体を前傾させてもセグウェイが仰け反って押し戻してくるので、公表最高速の20km/hをキープするのは易しくない。乗車姿勢も含めて安全かつ安定して出せる速度は17〜19km/h程度と考えた方がいいと思う。

 20km/hに設定した理由は何だろう?将来的に公道を走れるようになったとして20km/hは保安基準を緩和できるラインだし、ママチャリの巡航速度がそれくらいで丁度良いし、立ち乗りでの安全性を考えて、ということだろうか。電動モーターなのでストレスは全く感じない。ちなみに初心者モードにおいては、6.5km/hから13km/hまで0.8km/h刻みで最高速度を任意にセットできるようになっている。

 制動力。前後に車輪を配置するバイクだと、2つ車輪があっても主に前輪の摩擦力で慣性重量を受け止めなければならないのに対し、Segway PTは平行する2輪の双方で摩擦力を使えるうえに、体重移動によって慣性重量を余すことなく2輪に乗せることができる。しかもモーターならではの逆回転力で減速させることができるのだ。制動力が“強い”というか制動するのが“早すぎる”と感じた。20km/h出していても素早く腰を落とせば空走距離を含めて3m位で止まれる感覚である。絶対速度が低いから当然といえば当然だが、舗装路面でのi2 SEも泥濘地でのx2 SEもスリップしなかった。
 標準装着されていたタイヤの銘柄とサイズはi2 SEが、CSTチェンシン:C-6557-2 100/65-14 直径48.3cmのチューブタイプ。x2 SEが、CST:C-9201N-2 All-Terrain 21×7-10 直径53.3cmのチューブレスタイヤであった。

 走破性。走りやすい順に路面を並べてみると次の通りだった。舗装路>芝生>砂利道>泥濘地。オフロードタイプのx2 SEはどの路面でも楽勝だったのは言うまでもないが、オンロードタイプのi2 SEでも芝生までは楽勝だった。砂利道も走れるには走れるが、乗り心地に差が出るし、増してや泥濘地を走って片輪が嵌ればバランスを崩す危険があるので、やはり不整地を走る可能性があるのならx2 SEを選んだ方がいいと思う。

 乗り心地。タイヤの空気圧と搭乗者の膝がサスペンションである。オールテレンタイヤのx2 SEだとかなり乗り心地はいい。車軸がひとつしかないのでピッチングという概念がない。左右輪どちらかが凹凸に嵌らない限り、衝撃も受けないし、予期しないロールもない。オフロードバイクよりずっと乗りやすいし、ハンドル以外前後に何もない開放感のためか20km/hという低速でもけっこう楽しめる。

 積載性。搭乗者がデイパックを背負うか、ハンドルに小物をぶら下げるか、左右フェンダー部分にキャリアを装備することで積載性は向上する。本体に収納箇所はない。

 被積載性。3列目シートを跳ね上げた5人乗車状態のミニバン(ME51エルグランド)に2台のx2 SEと2本の折り畳みアルミラダー(アルミスロープ)を積載できたし、画像のスロープ角度なら搭乗したまま登坂できる駆動力があった。
 ちなみに、スペーシア車椅子仕様車リアシート無しモデルであれば、あくまで寸法上ではあるが、2台のi2 SEが別途スロープを用意せずに積載できそうな感じである。N-BOXプラス車椅子仕様車だと普段は4人乗車できるがスロープ幅がわずかに足りない。

 ライトに代わるものとして、車体下部の前後に常時点灯するライトを装備しているが、装着位置が低すぎて日中はほとんど役に立っていない。公道デビューの際にはヘッドライトはハンドル付近に、テールライトは左右フェンダー付近への移動したほうがいいと思う。

 航続距離i2 SEで最大39km、x2 SEで最大12kmと公表している。仮にx2 SEで最高速で走り続けたとして12km/20km=36分/60分。これは40分という体験乗車時間でバッテリーを使い切る計算になるが、1時間ぐらい走りっぱなしでもバッテリーを使い切ったことは無いという。バッテリーの耐久性も、毎日充電したとして1,000回÷365日/年≒3年しか持たないようなイメージがあるがハードユーザーたる警備業者でも5年は持っているし、ライトユーザーな業種であれば10年以上持っている例も多いという。バッテリー代は現時点で128,000円×2個=256,000円 である。

 Segway PTはとても魅力的な移動手段だ。自転車並みの速度で移動できるのに自転車ほど駐輪スペースをとらない。自転車みたいに汗をかかないけど、立ち乗りだから多少の運動効果は期待できる。『膝の具合が悪くて長い時間歩くことはできないが、立ってバランスを保つことはできる』という人にとっても杖以上・電動車椅子未満の歩行補助器具にもなりうる。Segway PTが近距離移動手段の主力になる時代も夢ではないかもしれない。

 現在、Segway PTの試乗は公園内を中心として各地で行われている。セグウェイジャパンの主催だと、講習30分を含む120分で9,000円もするので、個人的にお勧めしたいのが、以下の2つである。

 i2 SE 神奈川県宮ケ瀬 講習30分を含む90分で3,500円。時間は長いがどちらかというと観光案内が主眼か。土日のみ。
       https://www.miyagase.or.jp/news/1501988098.html
 x2 SE 茨城県さかいまち 講習含む40分で3,000円。短時間だけど存分に走れる。金土日のみ。
       http://www.asoview.com/company/3000005597/

 日本総代理店セグウェイジャパンURL http://www.segway-japan.net/model.html 

 講習を受けた搭乗者がSegway PTで公道を走らせたとして、どんな危険を想像できるだろうか。
 Segway PTの車幅は搭乗者の肩幅よりだいぶ広いので、狭いところでの歩行者追い越しすれ違いに自転車以上の注意が必要だと思う。モーター音が十分に大きいので近接された歩行者は大抵気付くと思うが、両耳にイヤホン付けた歩きスマホが、、、。マナーの悪い自転車との衝突も考えられる。幼児を乗せて爆走する若ママ、車道の中央で揺らいでる高齢者の多いこと多いこと。
 この際、両耳をイヤホンで塞いだり、画面を注視しながら移動したり、通信機器、開いた傘、酒、煙草を持ちながら移動したり、安全確認しないで歩車道に進入する行為を、車両や歩行者を問わず全ての移動手段ではっきりと禁止し、それを遵守しない交通弱者・無免許者に対しても対策を講じるべきではないか。

 直感的に操作できるからいいものの、100万円もする商品の取扱説明書としては分かりづらい。以下、取扱説明書を要約してみたので気が向いたら読んでみてください。

 キー、メインスイッチ、メーターパネルに代わるものとしてインフォキーコントローラーがハンドル中央にある。

 インフォキー右上の情報表示ボタンを押すごとに表示内容が次の順でスクロールする。
時間→日付→現速度(単位が点滅表示)→平均速度(リセットするまでの平均速度で単位が常時表示)→区間走行距離(単位が点滅表示)→累計走行距離(単位が常時表示)。
 インフォキーを本体から脱着するか、インフォキーの電池(CR2430)を交換すると、累計走行距離を除き全てがリセットされる。

 インフォキーコントローラ左下のパワー/スタンバイボタンを押す。
発信音が鳴るとスタンバイモードに入る。
 この状態でハンドルバーを引いても電源を切っているときと同様に、車輪は動かせるもののモーターの抵抗があって車体は重い。足下にあるバランスインジケータライトは、それぞれが前・後・左・右・中央の方向を意味する5つのランプで構成される。前後左右いずれかのランプが赤く点灯しているときは、その方向に車体が傾いていることを意味するので、点灯しているランプと反対方向に車体またはハンドルバーを傾けて平衡状態をつくる。

 バランスが取れて中央のランプが緑色に点灯するとバランスモードに入る。
この状態で手を離すと、車体が自ら安定してAT車のクリープ現象のように微速前進するが、水平な場所を見つけると自動的に止まる。
 この状態でハンドルバーを操作すると、車体を軽い力で移動することができる。障害物、階段、急勾配、低μ路面で降車して本体を誘導するための搭乗者なしバランスモードと呼び、5個のバランスインジケータライトが緑色で点滅している。
 誘導のコツは本人がSegway PTより高い位置を保つこと。登るときはSegway PTのハンドルバーを引いて本人が後退する。下るときはSegway PTのハンドルバーを押してSegway PTを後退させる。万が一誤作動しても本人がSegway PTに轢かれる危険がない。

 バランスモードに入った状態でハンドルバーを握り、片足をマットに置き、ゆっくりと体重を移動する。ハンドルバーを動かさずにもう片方の足もマットに乗せれば準備完了。この状態では4 個のバランスインジケータライトが緑色で回転している。前に体重移動すれば前進し、ハンドルバーを倒せばその方向に転回する。
 操縦のコツは以下のとおり。
 乗降走行時は、足下ではなく前方を見る。
 転回進路変更の際は膝を軽く曲げる。
 制動は後方に仰け反るのではなく、腰を落としてその場にしゃがみ込むようにする。万が一、後方に転倒しても尻餅で済む。
 後退を続けるとインフォキーに警告表示が出るとともに減速する。Segway PTは後退を良しとしない。

 スタンバイモード、搭乗者なしバランスモード、バランスモードと名付けて説明書で解説しているが、要は足下のランプが緑色になれば搭乗可能であり、搭乗者の有無を認識して足下の光り方が変わる、というだけのことである。難しく考える必要はない。乗ってしまえばわずか数分で貴方の体の一部になってしまう。

 Segway PTには、駐車時のセキュリティ機能がある。インフォキー右下のセキュリティボタンを押した後に本体を移動しようとすると警告音を発するとともに、モーターを逆回転させて移動を阻止する。インフォキーを本体に装着したままその場を去るとセキュリティを解除されてしまうので、駐車の際はインフォキーを本体から外して持ち歩く。インフォキーがないと本体を起動できないが、持ち逃げは防げないので、警報が聞こえる近距離限定のセキュリティ機能である。

 Segway PTは、搭乗者無しバランスモードで素早く引っ張ると振動警告を発し、スタンバイモードに入る。誘導中にスリップするとスタンバイモードに入ることがある。モーター、センサー等の異常を検知したり、著しくバッテリーが消耗したり、著しくピッチング・ローリングすると、本体の電源が落ちる。

 このような安全設計を施しているが、最大の安全対策はソフト面にあると思う。(まだ)高額であること、一般向けには(まだ)販売しないこと、損害保険加入を導入条件にしていること、試乗会では有資格者による講習を受けてからでないと自由に乗せてもらえないこと。セグウェイを公道で自由に乗れる頃には、興味ある人みなが既に試乗経験者であるかもしれない。

参考データ
バッテリー重量 (ペア): 10.3 kg
バッテリー寸法: 35.7 x 19 x 8.2 cm
電池容量・電圧: 5.2 Ah・73.6V
必要電源:100 V〜240 V、50 Hz〜60 Hz
充電時間:最大8 時間
充放電回数:600〜1,000回
動作保証温度:運転時0〜50℃、充電時10〜50℃、保管時・輸送時−20〜50℃

本体寸法:i2 SE=長さ65×幅63×高さ117〜130cm  x2 SE=長さ67×幅84×高さ119〜132cm
本体重量(電池を除く):i2 SE=37kg  x2 SE=44kg

2017.9.20 記述

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