スズキ
GSX-S125ABS

GSX-S125ABS単独評価
 長所: 1足着き性 2軽快感 3柔軟性
 短所: 1変顔 2加速の溜め 3照射力 4収納・積載性

ジクサーと比較して
 長所: 1足着き性 2サウンド 3限界性能 4質感
 短所: 1安定性 2中速トルク 3燃費 4後席居住性

 今回試乗したのは2017年にインドネシアで生産されたGSXの末弟:GSX-S125ABSである。スズキが125ccスポーツバイクにフルカウル版R125とノンカウル版S125の双方を開発するのは、2st200ccモデルと同時開発されたRG125Γ/WOLF125以来である。海外ではGSX-R/S125の150ccモデルが存在するという。

 インジェクションなので冬場でも始動性は良好である。ギアが入ったままサイドスタンドを下すとエンジンが自動停止するのはジクサーと同じだが、クラッチレバーを握らなくてもエンジンがかかる点が異なる。スズキはこれをイージースタートシステムと呼んでいる。バーグラフによればアイドリングは約1,500回転。クラッチレバーを繋ぐだけでは1速でもエンストしやすいが、125ccではそれが標準的。ハーフスロットルなら2速発進も可能ではあるが、ちょっと無理させてる感じがある。どのギアでも1,500回転を下回るとノッキングし始め1,000回転あたりで即エンストする。ちなみに2,000回転付近で軽くノッキングしながら再加速できるギアごとの最低速度はメーター読みで1速=5km/h、2速=8km/h、3速=11km/h、4速=15km/h、5速=20km/h、6速=25km/hあたりだった。具体的な数字を挙げてみるとそんなに低回転が弱いわけではないようだ。

 元気に加速したいなら回すに越したことはない。レッドゾーンを超えても頭打ちするまでエンジンは良く回るので、10,000回転まで回しても全く差し支えない。Suzuki Eco Paformanceを標榜するシリーズだけあって回転自体は非常に滑らかである。全域でジクサーよりも静かで官能的なエンジンサウンドを発するが、4,000〜6,000回転でいわゆる“加速の溜め”がある。これは加速騒音規制が厳しかった頃のスクーター勢に見られた“加速の谷”に似ている。この“もたつき”を高回転の楽しみがあると解釈するか、5,000回転で測定する近接排気騒音(注1)の犠牲になったと解釈するかでGSX-S125に対する評価が分かれるだろう。ちなみに高回転域の加速感はジクサー以上である。

 発進加速。85kgの負荷をかけて上体を伏せないで平地でアクセルを全開にしたところGPS表示は次のとおりになった。100mで67km/h(3速)、200mで81km/h、300mで87km/h(4速)、400mで94 km/h(ここまで約22秒)、500mで95km/h(5速)、600mで97km/h、700 mで98km/h、800 mで99km/h、900 mで100km/h、1,000mで101 km/h、1,100〜1,200mで102 km/h、1,300〜1,400 mで103 km/h、1,500〜1,600 mで104 km/h、1,700〜1,800 mで105 km/h、1,900mで平地最高速106 km/hを確認した。このときGSX-S125のデジタルメーターは114 km/hを示しており、GPSを基準にすると速度計の誤差は(114−106)/106=+7.5%になった。別の平地ではメーター読みで4速106km/h、5速117km/hまでは見ているので、もう少し伸びるような気もしている。

 市街地走行ではジクサーの方がスイスイ加速する感じだったが、むきになって高回転をキープすればGSX-S125の方が進行距離ごとの到達速度が高いことが分かった。ジクサーは5段しかギアがないものの5速の守備範囲が広いのに対し、GSX-S125は6段あっても6速はほとんど巡航用で、5速で引っ張り上げた速度を更に上乗せする力はなかった。フルカウルで風の抵抗を減らすGSX-R125ならもう少し事情が異なってくるかもしれない。

 比較対象区間(新)307.1kmを走行したところメーターは311.2kmを示した。距離計の誤差は+1.3%と推定、その区間の平均燃費は46.0km/Lとなった。余裕がない分、燃費はジクサーに譲る形となった。ジクサーにはない平均燃費計が装備されていて実燃費よりかなり控えめな40.2km/Lと表示されていたが、、、、、、あっすいません給油時にリセットするのを忘れていました(笑)。マイカーは自動的にリセットしてくれるものですから(汗)。

 シフトペダルもクラッチレバーも軽いタッチで、私が試乗した2台ともシフトの精度は高かったが、卸したての個体については、停止中や極低速域で高いギアから1速まで下げる際は1段下げるごとにガチガチと2段階の踏み応えがあった。1−N−2速間の引っかかりは、卸したて個体でも生じなかった。

 着座姿勢は良好である。ハンドルを握る両手が痺れない程度に上体を軽く前傾させ、二の腕はジクサーより絞られている。タンクやシートもスリムでステップはジクサーよりバックステップになっていて、それに合わせてシフトペダル・ブレーキペダルの位置も下げられている。その結果、170cmない私が着座して、両足共にべったりと接地できる。その一方でシートの高さはジクサーと同じなので、ジクサーより腰高感がある。
 ジクサーよりシート表皮はグリップするが、クッションは薄くて硬い。長時間乗車ではケツが痛くなるのとニーグリップする内股も少々疲れてくる。走行中にスタンディングしたり、着座位置を前後に調整することでケツの疲労は軽減できるものの、やはりジクサーより疲れやすいのは否めない。それでも125DUKEのように足着きで股が痛むこともないし、CBR125R(JC50)より前傾はきつくないし、増してYZF-R125の前傾に比べれば天国のように楽だ。車格感や車体剛性は125DUKECBR125R(JC50)の方が上だと思うが、奴らの方が兄弟車の排気量はデカいので当たり前。今まで取り上げた4st125ccのなかで、GSX-S125が最も軽快で柔軟ではないかと思う。

 運動性能はとても良いのだが、ジクサーのようにただ座っているだけでは速さを引き出せない。走行中にわざとハンドルを左右に振ってみると前輪の方向性と後輪の方向性に違和感が発生し、上体が不安定になってくる。その一方でケツを振って操縦する分にはクイックに向きを変えるのだが、フロントの立ちが少し強いのと低中速トルクが弱めなので、スロットルを維持しつつ、自分の体をイン側に持っていくなどして、変化を与えていかなければならない。GSX-S125はそういう積極的な操縦に対しては機敏に反応してくれる。何もしないで操縦がラクなのはジクサーだが、何かをして限界が高いのはGSX-S125である。リアサスがフレーム直付けのジクサーでも路面追従性はそう悪くないのだが、路面が悪くなるほどに、速く走ろうとするほどに、リンク式リアサスのGSX-S125路面追従性乗り心地の良さが光ってくる。フロントサスのチューブ径はジクサーの方が太くて剛性は高いものの、しなやかさではGSX-S125の方がいいと思う。

 制動力は非常に強くて安心感もある。前後輪ともにABSを装備しているので意地悪く後輪のみフルブレーキしてもほとんど滑らせることができなかった。フロントのみフルブレーキするとタイヤのグリップを使い切ってないのでは?と思うほど早めにABSが作動することがあった。むしろリアの方がABSの作動が遅かった。標準タイヤはダンロップ:D102を装着していた。サイズはジクサーよりワンサイズ細いF:90/80-17、R:130/70-17だった。前輪が細いから少々心配していたが、凍結防止のため縦溝が掘ってある路面でも縦溝を拾いにくかった。D102、前後ABS付きディスクブレーキ、リンク式リアサスで足回りの安心感は非常に高い。フロントディスクローター径もジクサーより大きい。ここまで来ると同価格帯のGROMがもはやゴミに見えてくる。

 

 まだCB125RGSX-R125も登場していないので、ジクサーと悩む方が多いと思う。どちらも軽快に走るが、この2台を比較してしまうと結構違いがある。

 低中速トルクが太く、全域にわたってフラットな特性を持つジクサーの方がテンポ良く加速出来て市街地走行は楽である。GSX-S125は発進時にわずかでもアクセルを回していないと1速でもエンストしやすいし、中回転がもたつく。7,000回転以降でようやくスペック並みの力強さが出てくる。登坂ではジクサーがギア1段下げれば力強く再加速できる勾配でも、GSX-S125になると2段下げないと失速してしまうことが多々ある。GSX-S125ジクサーより静かで官能的なエンジンサウンドを発するが、音量と速度がリンクしていない。2バルブ・ロングストロークで低中回転が得意なジクサーと、4バルブ・ショートストロークで高回転が得意なGSX-S125の違いがはっきりと出ていた。

 路面状態が良ければ安定性ジクサーの方が高い。走行中にわざと“ハンドル”を左右に揺らしてみても、ジクサーは落ち着いたものだが、GSX-S125スーパーカブ110ほどではないが上体が不安定になってくる。走行中にわざと“ケツ”を左右に振ってみると、ジクサーはおだやかにスラロームするのに対し、GSX-S125はひらひらと素早く向きを変える。着座位置は近い両車だが、ジクサーは馬の鞍のようにラウンドした高めのシートと大きなタンクに阻まれておっとりしているが、GSX-S125はスリムな車体・タンク・シートで変化に対応しやすい。挙動の違いが出るのはタイヤサイズの前後比にもあると思う。GSX-S125は前タイヤを細めることで切れ味を重視したのかもしれない。操縦性については、安定性ジクサーに対し、機敏性GSX-S125となろう。

 以上のことをまとめるとジクサーは市街地走行から高速巡航までを卒なくこなすライトウェイト・イージースポーツであり、GSX-S125は、ライトウェイト・スーパースポーツ:GSX-R125のノンカウル・アップハンドル版、言ってみれば副産物であり、高回転域を多用し乗り手が積極的にマシンをコントロールして走らなければ真価を発揮しない。誤解のないように言っておくとGSX-S125でも十分に乗りやすい。『ジクサーだと足が届かないからGSX-S125にする』でもいいくらい乗りやすい。ただし2台を比べてしまうと、あらためてジクサーの(足着き以外の)乗りやすさが際立つのだ。

 

 走りはいいのだが、GSX-S125は実用性が少々厳しい。
 まず後席は完全に飾り物である。座面は狭いし、クッションも薄いし、乗降性も良くない。

 収納・積載性ジクサーより弱い。ジクサーは前後一体となったシートを外せば工具、書類、ウェス、手袋くらいなら詰め込めるが、GSX-S125はリアシートを外しても工具、書類くらいしか入らない。タンデムステップ付け根とリアフェンダーにゴムネットを引っかければ辛うじてシート面積と同等の小荷物を固定できる。メットホルダーは無いわけではないが、外したシートの裏側にある爪にDリングを引っかけて、ヘルメットが落ちないように抑えながらシートを再設置しなければならない。ヘルメットを2つ固定しようと思ったら、同乗者の手を借りなければできない。しかも爪が短いので確実にフック出来ているのかどうかも怪しい。鍵が増えてしまうが素直に社外メットホルダーを取り付けた方が良さそうだ。

 操作性その他の装備。
 メーターに必要な情報はほぼ揃っている。警告はランプでエンジン回転はバーグラフで、残りの情報は全てデジタル表示である。2つのTRIP計に加え、それぞれの平均燃費計が加わった。シフトポジションインジゲーターも便利だ。どのギアにも入ってない時は数値が表示されないし、ニュートラル時は数字の0と緑ランプの双方で教えてくれる。任意のエンジン回転で警告灯を点滅させる機能は正直要らないと思う。ジクサーと違ってADJust、SELectボタンはさほど強く押さなくとも表示が切り替わってくれた。
 燃料計はメインスイッチをONにすると5つ目盛りがある。5つの目盛りが4つに減るまで120km“前後”の走行を要した。そこから80km“前後”走って4つの目盛りが3つに減り、さらに100km“前後”走ると3つの目盛りが2つに減っていった。“前後”というのは一度減った目盛りが20〜30kmの範囲で戻ってしまうから目盛りが再び下がるまでの中間位置を取ったという意味である。燃料計が多少不正確でも気にならないくらいに航続距離は45km/L×11L≒500kmと長い。

 バックミラーは振動で動いたり、淵が歪んだり、等はなかった。ジクサーと同じものだが、変にエッジを効かせるよりも四角いほうが見やすいといつも思うのだが、どのバイクもおしゃれに走ってしまう。

 その他装備の違いとして、GSX-S125にあるものとして平均燃費計、ABS、リンク式リアサス、LEDヘッドライト、シャッター付メインキー、イージースタートシステム(クラッチレバーを握らなくてもエンジンを始動できる等)、センタースタンドはオプション設定。燃料タンク外装は樹脂でないので、ジクサーのように早々傷は付かないと思う。一方でジクサーにあるものとして、パッシングスイッチ、クラッチスタートシステム(クラッチレバーを握らないとエンジンを始動できない)、センタースタンドは標準。

 残念ながらヘッドライトはLEDを採用した。左側を照射するLED+右側を照射するLED+中央上のロービームLED=以上の3つが常時点灯している。ディマスイッチをハイに切り替えると、これに加えて中央下のハイビームLEDも合わせて点灯する。左右のLEDはポジションランプ的なもので至近距離の照射範囲の狭さを補っているか、被視認性を補っているに過ぎないと思う。肝心のロービームの照射範囲は左右にわずか40°程度。照射距離は5〜18m程度しかない。ハイビームでは照射範囲が上下に拡大し遠方の青看も足元もうっすら照らすようになるが、左右40°は変わらない。暗黒の峠道では、すれ違う時以外は常時ハイビームにしたが、それでも納得のいく照射力を得られなかった。白くても広がらないLEDより35Wハロゲンの方がまだマシである。NMAXといい、GSX-S125といい、ABS作動のための電力をLEDの省電力で賄おうということか?

 足着き性の良いジクサー125を期待していたら、それ以上のものが登場した。ABSやリンク式サスを採用してこのプライスはとても魅力的である。しかしGSX-『R』125を同時に販売する予定があるのなら、GSX-『S』125はもう少し実用性に振ったモデルにしてくれると有難い。

(注1)参考資料 https://www.env.go.jp/council/07air-noise/y071-17/mat%2002_4.pdf/05_%E8%B3%87%E6%96%9917-2-4.pdf

2017.12.8 記述

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