スズキ・GIXXER

 長所: 1機敏性 2操縦性 3経済性 4標準タイヤ
 短所: 1足着き性 2吸気音 3高回転時の排気騒音

 GIXXERと書いてジクサーと読む。GSX-Rのスラング発音をそのまま命名に使ったという。今回試乗したのは2017年にインドで生産されたGSX150L7の卸したてディーラー試乗車である。

 インジェクションなので冬場でも始動性は良好である。アイドリングは約1,500回転。1速でゆっくりとクラッチを繋げばスロットルを回さなくてもエンストしないで発進することができた。スロットルを回しながら半クラッチで繋げば2速発進も可能である。2速以降はどのギアでも1,500回転を下回るとノッキングし始め1,000回転あたりでエンストする。2,000回転以上ならノッキングせずに再加速することができ、3,000回転以上をキープしていれば元気に加速することができる。6,000回転くらいまではとても静かである。ちなみ5速6,000回転でメーター読み85km/hである。9,500回転以上だと逆に回転が落ち込むので、9,000回転までにシフトアップしたほうがよさそうだ。スロットルレスポンスは大変素晴らしく、エンジンオイルに添加剤を注入したかのようにエンジンが滑らかに回転するのを実感できた。125cc+29cc=154ccというだけでは説明のつかない力強さがある。Suzuki Eco Paformanceを標榜するだけあって伊達ではない。

 発進加速。85kgの負荷をかけて上体を伏せないで平地でアクセルを全開にしたところGPS表示は次のとおりになった。100mで62km/h(3速)、200mで75km/h、300mで83km/h、400mで86 km/h(ここまで約23秒)、500mで90km/h、600mで92km/h、700〜1,000mで93 km/h(4速)、1,100〜1,300mで94 km/h、1,400〜1,600mで95 km/h、1,700mで96 km/h、1,800mで97 km/h、2,300mで98 km/h、2,400mで99 km/h、2,500mで100 km/h、高速道路で平地最高速116km/hを確認した。いかんせん強風のなかでの走行だったので、もっと伸びる可能性がある。速度計の誤差は高速域になるほど減っていった。GPSを基準にすると1,500m地点では(102−94)/94=+8.5%。2,500m地点では(108−100)/100=+8.0%。平地最高速地点では(123−116)/116=+6.0%になった。

 比較対象区間(新)307.1kmを走行したところメーターは313.4kmを示した。距離計の誤差は+2%と推定、その区間の平均燃費は52.8km/Lとなった。単独乗車で高速道路を流れに合わせて走行したところ、34.1 km/Lになった。流れに合わせると言っても14psしかないジクサーではアクセル常時ほぼ全開である。しかも約800mの標高差を一気に駆け登っている。同じ条件でPCX150は32.3km/L、マジェスティSは29.7km/Lだった。この復路を85km/h前後で走行したところジクサーは51.2 km/L、マジェスティSは41.3km/Lになった。PCX150はデータ無し。

 高速道路では、ニーグリップをしていても足元を掬われるような強風に煽られると走行ラインが一瞬にしてズラされることもあり、高速道路を常用するには車体がちょっと軽すぎる。しかし恐怖感はスクーターほどではない。PCX150マジェスティSだと路面の繋ぎ目で受けた衝撃で体が浮き上がるのでシートベルトが欲しくなるが、ジクサーにその恐怖はない。左車線で大型貨物車に後続するような走り方なら3車どれでも至って快適である。やはり150ccクラスの高速走行はオマケであり、保土ヶ谷バイパスで通勤とか、休日に大垂水峠を通るとかを想定した方が良さそうだ。

 シフトペダルもクラッチレバーも軽いタッチで、私が試乗した個体はシフトの精度が高く、卸したてであるにもかかわらず1−N−2速間でギアが引っかかるような症状も一切発生しなかった。

 着座姿勢は良好である。ハンドルを握る両手が痺れない程度に上体を軽く前傾させ、二の腕は若干開き気味となる。コーナーで倒し込みやすい高めのシートはストリートファイターと呼ばれるようになったネイキッド車の運転姿勢である。この運転姿勢や高回転時のエンジン音がかつて試乗したKTM・125DUKEを想起させた。足着き性が悪い点も似ている。125DUKEのように足を地面に接地させても内股は痛くならない。タンクは必要以上に尖がってないしシート全体の角も取れていて、ニーグリップもしっかりと決まる。シート表皮のグリップは標準的で、クッションの厚みは薄いものの、長時間乗車でもケツが痛くならなかった。馬の鞍みたいにラウンドしていて幅も広い。

 このクラスだと二輪免許を取って初めて乗るスポーツバイクとして選ぶ人も少なくないと思う。170cmない私だと、片足をべったり接地させるともう片方はつま先がちょっとしか着かない。清掃の行き届いた乾燥路面ならそれでもいいが、たまたま信号停止した左側端に砂利が転がっていたりして接地した瞬間に足が滑ることもある。運動性能が若干犠牲になるおそれもあるが、是非ともローダウン仕様の併売も検討して頂きたい。

 運動性能はかなり良い。走行中にわざとハンドルを左右に振ってみても前輪の方向性と後輪の方向性に違和感は発生しない。キャスター角は立ち気味で停止寸前まで速度を落とすとハンドルは若干ふらつきやすい傾向があるが、ハンドルでコントロールしようとせず、自分の体の中で重心を移動するようイメージすればオフ車のように足を接地せずに数秒間停止状態をキープすることもできる。

 前後ディスクブレーキを奢るものの、なぜか前後キャリパーがF:バイブレ(ブレンボ)、R:ニッシンと別メーカーだった。標準タイヤの銘柄とサイズはF:K275F 100/80-17、R:K510B 140/60-17、メーカーはなんとダンロップしかも日本生産品である。どうりで接地感が高いわけだ。凍結防止のために縦に溝が彫ってある路面で、フロントのほうは若干溝をなぞってしまう傾向があった。その路面が濡れてはいたものの、滑り出すまでには至らなかった。

 制動力は十分である。後輪のみフルブレーキすればリアは流れるものの、リアディスクがコントロールしやすいのですぐに体勢を立て直すことができよう。濡れた路面や砂利道でフロントのみ制動すれば滑り出すことはあるが、乾燥路面で常識的な運転をする限り心配無用である。

 直進安定性、旋回性、操舵安定性、全て良好である。走る・止まる・曲がるという基本走行を想定しているようで、ジャックナイフは125DUKE、D-TRACKER125ほどやりやすくはない。寒い中、小雨も降る中、比較対象区間の半分を一気に走行したのはジクサーが初めてだった。標準タイヤの接地感、フロントフォークの太さやリアディスクなどが無意識のうちに、肉体的・心理的疲労を減らしているのだろう。格安輸入原付二種の1.5倍以上値段が高くてもジクサーの方が安いと思える最大の理由が、この足回りの安心感である。

 運転していて気になるのは騒音である。スロットル量に比例してケツの下でシューシュー音が大きくなる。排気ブレーキを掛けたときのような、あるいは隙間ノズルを取り付けた掃除機のように。これは吸気口からの音だろうか。また、排気音も8,000回転以降は凄まじいので高速長時間走行はお勧めできない。

 後席は面積が狭いし、シートクッションも薄くて座り心地は良くない。リアステップが高くて乗降性も良くない。グラブバーがあるから一応実用になる後席だけど短距離・短時間の非常用と割り切ろう。

 標準状態では積載性は弱い。リアシート上に荷物を載せて、その上からゴムネットをタンデムステップ付け根とリアフェンダーに引っかけるしかない。グラブバーと交換装着できるような頑丈な純正リアキャリアを是非とも発売して欲しい。シート裏には車載工具が取り付けてあり、シート下にファーストエイドキットを入れるようなわずかな収納空間があるが、配線やら吸気口が近くにあるから要注意である。メットホルダーはシートを取り外すと左側内股付近にあるが、シートの脱着がけっこう渋いのでメットホルダーを使うのが面倒になりそうだ。

 操作性その他の装備。
 メーターに必要な情報はほぼ揃っている。警告はランプでエンジン回転はバーグラフで、残りの情報は全てデジタル表示である。2つのTRIP計やシフトポジションインジゲーターも便利だ。任意のエンジン回転で警告灯を点滅させる機能は必要だろうか?ADJust、SELect両ボタンともメーターパネルが歪むほど強く押さないと反応しないのは印度クオリティか?
 燃料計はメインスイッチをONにすると6つ目盛りがあるのだが、なぜか満タンにしてもエンジン始動後は5つしか表示されなかった。5つの目盛りが4つに減るまで300kmの走行を要した。残りの4つで残量1/2付近なので、燃料計の存在が意味をなさないほどに航続距離は50km/L×12L=600kmと長い。燃料タンク外装は樹脂になっていて、ウエストバッグが触れて傷が付きやすい。
 パッシングスイッチは追い越すためというより対向右折車に道を譲るために有用だと思う。駐輪密度を高めるセンタースタンド は“空気が読める”ライダーに必須の装備だと思う。
 他車の例にもれずバックミラーの形状で遊んでいるためにミラーtoミラーの幅を生かしてない。素直に四角いミラーを付けて欲しいのだが、文句あるなら社外品に交換しろってことか。
 ヘッドライト形状はホンダ・フォーチュンウイング125によく似ている。バルブも同じOSRAM社のHS1が標準装着されていた。ハンドルマウントのため照射が操向に伴うのは良いが、35/35Wハロゲンではハイビームにしないと暗黒の峠道では先が見渡せない。原付二種としても平凡な照射力だし、増して軽二輪なのだからもっと明るいライトを装備して欲しい。上の正面と後面の画像はウインカーを点滅させている状態だが、全然目立っていないのがお分かりになると思う。照射力被視認性ももうひと頑張りを期待したい。

 125ccクラスの軽快さにワンクラス上の動力性能と安心感を与えつつ、250ccクラスのような振動も重さもない。クラスの垣根を越えて単気筒シティスポーツの決定版になりそうな気がする。ジクサーの125cc版もぜひとも見てみたい。

2017.3.1 記述

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