スネークモータース
K-16 sports

 長所:1個性 2足着き性 3軽さ
 短所:上記以外のほぼ全て

 今回試乗したのは2019年3月に生産終了となったキャブレーター仕様のK-16 sports(以下K-16Sという)である。今後はセル付きFI仕様が生産される。

 スリムな車体と低い着座位置のために足着き性はこの上なく良い。

 クリップオンではないものの、ハンドルはかなり低い。ハンドル幅は約620mmに対し、ステム中心からシート前端までは約625mmもあって、着座姿勢はかなり前傾している。いまどきのスーパースポーツと比べると燃料タンクに両ひざを挟むほどの太さがないために、意識的に股を絞らないとニーグリップにならない。往年のレーサーはこんなポジションだったのだろうか。まるで礼拝をしているような姿だ。

 長さ約270mm・幅約230mmのシートは硬質プラスチック?の表面を本革で覆っていて高貴な香りが漂うが、座り心地はカッチカチ。クッションレス高級自転車用サドルそのものである。リアサスペンションを代行するスプリングが2本シート裏に付いているが、シート表皮がこんなに硬くては衝撃の吸収もあったものではない。ゲルザブRを1枚敷いたところでほとんど助けにならなかった。大抵のバイクは長時間走行を続けていると睡魔に襲われるものだが、K-16Sはあまりにもケツが痛くて睡魔すら退散してしまった。1時間おきにケツを休ませたいし、上体を起こして手やケツを休ませるために次の赤信号が待ち遠しかった。ただ、エイプ初期型KLX125・D-TRACKER125のように内股をケツから引き裂こうというものではないし、尾てい骨が突き刺さるものではないし、シートから腰を浮かす瞬間に激痛が走るわけでもない。あくまで座っているとケツの表面が硬くて痛いィィィというだけで、腰を浮かせればピンポイントでのケツの痛みはすぐになくなる。

 乗車中の疲労箇所は手とケツ。とにかくタンクがスリムなので内股を絞ってもタンク(膝)に体重を分散することはできない。体重を支えるのはもっぱらハンドル(手)とシート(尻)だけなので、手がどんどん痺れてくる。ちなみにブレーキレバーは一般的なバイクのように握りやすいように丸く削られているが、クラッチレバーはなぜか角が付いたままなので握る度に指が痛くなる。細かいところは寄せ集めの部品で構成したバイクなのだろう。

 乗車中は意外にも腰はそんなにやられなかった。前傾姿勢が強すぎて、背負っていた登山用デイパックも背中全体に上手く重量が分散されたのかもしれない。長時間走行後の疲労箇所は、全身がぐったりした。これは騒音振動によるものだと思う。騒音についてはサイレンサー付いてる?っていう位にウルサイ。TRX90を思い出す。排気ガスに2st車のような匂いや色が出ないのが不思議になるくらい騒々しい。振動についてはリアサスペンションが無い(=リジッドフレーム)ので、路面が陥没している所は勿論のこと導流帯のように連続して標示ペイントが盛り上がっている程度でも不快な衝撃がケツに伝わることがある。衝撃を予測できるようになると直前にステップに全体重を乗せて腰を浮かしたりもした。天候にも恵まれながらここまで疲れたバイクは初めてである。比較対象区間はいつも一日で走り切るのだが、この疲労感と脆弱な保安部品で夜間走行を継続するのは危険と判断し、今回は道半ばで一泊することにした。よってヘッドライトの照射状態も撮影していない。

 リジッドフレームのデメリット乗り心地が悪いことにある。その一方でメリットは旋回と駆動の両面でダイレクト感が高いことにあると思う。

 大抵のバイクはリアサスが付いている。バイクは車体をバンクしてコーナリングするわけだが、フレーム・スイングアーム・タイヤそれぞれが旋回中にわずかに捩じれているし、サスペンションも上下している。フレームとスイングアームの間に機械的な可動部がないリジッド車では、旋回中に捩じれるのはフレームとタイヤだけになる。それだけ路面からの情報が正確に伝わってくる。これを旋回のダイレクト感と表現した。

 跳ねることは跳ねるリジッドフレーム車だが、跳ねる最中に駆動ロスが生じているかというとそうでもない。むしろリアサス付きのバイクの方がリアサスの伸縮=スイングアームの上下に際して駆動ロスが生じているのではないかと思えてきた。というのもスイングアームはそのピボットを支点にして上下するが、ドライブチェーンはドライブスプロケットセンターを支点に回転している。ドライブスプロケットセンターとスイングアームピボットが同軸上にあればスイングアームが上下してもチェーンは引っ張られないだろうが、スイングアームピボットがドライブ・ドリブンスプロケットセンターの中にある場合、スイングアームが上下することで、ドライブチェーンの回転が影響を受けてしまう。ほとんどチェーンの“たるみ”で吸収しているのだろうが、少なからず引っ張られていると思う。K-16Sの乗り心地は確かに最悪の部類だが、ただ単に後輪が車体といっしょに跳ねるというだけで、その最中に前後方向に変に揺さぶられる(=チェーンの引っ張り?)感覚はなかった。

 スイッチ類は汎用品から流用している。左集中スイッチはコンパクトで操作性は悪くない。ウインカーはプッシュキャンセルスイッチではなく、作動音もなく、メーター内に緑色の作動ランプもないので消し忘れに注意したい。それよりもウインカーレンズの取付位置が前後共に低すぎて、角度によっては対向車からは見えない。

 リフレクター(後部反射器)はフレームが斜めっている部分に反射テープを貼り付けただけのものであり、後方100m(※1)からのヘッドライトに反射するのか疑わしい。仮に反射するにしてもチャリンコでもこんなお粗末なリフレクターは見たことがない。

 メインスイッチはタンク下側に付いていて、日中でもブラインドで鍵を挿入するにはコツが要る。夜間は照明がないと挿入は難しい。なお、ハンドルロックはメインスイッチには無く、ステム下にある。

 メインスイッチをONにするとニュートラルランプが点く。昼間でも明るいのは、バッテリーを装備しているからである。
 かつて私が所有していたスーパーカブ90キックのタイミングに合わせてスロットルを回すだけで真冬でもチョークレバーを引かずに一発で始動したが、中華エンジンはそうはいかない。その日はじめての始動であれば暖かくてもチョークレバーを引いて何度かキックスロットルしてようやく始動する。アイドリングが安定するまで何度か吹かさなければならない。

 シフトチェンジは手動クラッチと左ペダルで下から1→N→2→3→4速とかき上げていく通常のリターン式である。ギアは軽いかき上げと踏み込みで切り替わり、2速からちょんと踏み込めば迷うことなくニュートラルに入る。かつて試乗したGROMよりよっぽど入れやすかった。ただし、ニュートラルと1速の間だけは微妙で、ニュートラルランプが点灯していないのにギアが入っていないこともあるし、逆にニュートラルランプが点灯しているのに1速に入っていたりする。腰を浮かせた状態で(ニュートラルランプを信用して)クラッチレバーから手を離したら勢いよく車体が前に飛びだして、それを制止する際に指を痛めてしまった。車重65kgのバイクを車体単独で1速発進させるとこんなにも破壊力があるのかと自らの突き指で思い知ることになる。それ以後はNに入れてもクラッチレバーからゆっくり手を離すことにした。

 車体がとにかく軽いので、自転車のごとく取り回しが軽い。ハンドルがもう少し高い位置にあればもっとラクに取り回せるだろう。

 K-16Sに本体より重い85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にすると到達距離ごとのGPS速度は次のとおりになった。100mで49km/h、200mで66km/h、300mで76km/h、400mで82km/h、500mで85km/h、600mで86km/h、700mで87km/h、800mで88km/h、1,000mで89km/h、1,200mで90km/h、1,400mで91km/h、1,700mで92km/h、2,000mで平地最高速93km/hを確認した。

 100mで49km/hというと全然速くないと思われるだろうが、出足の一瞬は今まで取り上げた原付二種のなかでもかなり強力なものだと感じた。そう感じるのは圧倒的な車体の軽さと前述したリジッドフレーム車ならではの伝達ロスの少なさがあると思う。

 上記最高速はエンジンが伸び切って回転が不安定になるというところまで回したものだが、リアスプロケの歯数がカブ等と比べて多いように思うので、前傾姿勢に合わせた加速スペシャルにセッティングされているのかもしれない。ドライブチェーンもこのクラスとしては太目の428を装着していた。

 速度計誤差については不明とさせて頂きたい。エイプと同じ欠点を持っていて、モンキーサイズのメーターがモンキーと同じような角度で取り付けられている。上から見下ろすような角度でないと良く見えないのだが、この着座姿勢だと、逆に下から覗き込むようになるので、メーターの針がてっぺんを指しているとき以外は正確な指針が判読できない。画像を見る限り、GPSで93km/hのときメーターは100km/hあたりなので、+7.5%ぐらいだと推定する。

 比較対象区間307.4kmを走行したところ距離計は319.4kmを示していた。距離計の誤差は約+3.9%と推定する。その区間の平均燃費は307.4km÷6.5L=47.3km/Lになった。燃費があまり伸びなかったのは、ひとつは純正でないこと(笑)、ひとつは大人しく渋滞に嵌ってアイドリングしていた事が考えられる。赤信号停止中に上体を起こして少しでも体を休ませたかったからだ。

 K-16S燃料計がないので燃料コックONの位置にしておき、始めのガス欠症状が出たら燃料コックを180°捻ってREServeに切り替えて次のガス欠症状が出るまでにガソリンスタンドで給油するという昔ながらの手順を踏まなければならない。燃料タンク容量4.0Lと公表されているが、私の計算ではリザーブ0.3Lを含めても3.3Lにしかならない。満タン給油してリザーブ位置でガス欠するまで走行できた距離は163km。(×307.4÷319.4=156.9km)これを平均燃費で割ると約3.3Lになる。燃料コックONでのガス欠からRESに切り替えて再びガス欠するまで走行できた距離はわずか15km。それを平均燃費で割ると約0.3Lになる。

 細長い燃料タンクは容量が多そうに見えるものの後方はバッテリースペースとなっている。実容量は少なくて航続距離は短い。そのうえトリップメーターもないので乗車頻度の少ない人は給油時の距離をどこかにメモっておく事をお勧めしたい。最近はガソリンスタンドの廃業が増えているから、こいつでツーリングに出かけるなら事前にガソリンスタンドの位置と営業時間もじっくり調べておくことをお勧めしたい、と実際にガス欠させてK-16Sを押して歩いた奴(私)が申しております。いやぁ数kmおきにスタンドがある幹線道路沿いで良かったゎぃ。

 K-16Sは巡航状態から停止した際にしばしばエンストしてしまう。車体を左右に振ってちゃぷちゃぷ言うなら只のエンストなので再キック。ちゃぷちゃぷ言わないなら残油量が少ないのでRESに切り替えて最寄りのスタンドに向かおう。燃料キャップに鍵がかからないので、アイドリング中にも残油量を確認できるのは長所に挙げていいのやら。

 搭載されるエンジンは鉄カブのものと良く似ている。チェーンカバーにスネークモータースと刻印されているが、中身はLO・・とかLI・・あたりの中華エンジンだと思う。 エンジン音・排気音はなかなか素敵。特にシフトアップのためにスロットルを戻したときに鳴るシューンという音がブローオフバルブみたいで気に入った。エンジンブレーキでしばしば爆竹音(アフターファイヤー)が聞こえるのもご愛敬。ちなみにメーター読みで60km/h付近が最も騒音や振動そして路面からの衝撃が少ないと感じた。でもK-16Sの制動力を基準にしたら60km/hは既にレッドゾーンである。

 タイヤはYUANXING(※2)というブランドの 2.50-18サイズのチューブタイヤを履いている。前後共通サイズなのはいいとして、グリップパターンまで前後共通なのは驚いた。いかにもビジネスバイクのフロントタイヤに使われそうな形状で、燃費は良さそうだが、これを後輪に用いて果たして旋回性を確保できるのか疑わしい。凍結防止のために縦溝が彫ってある路面では、前後輪が別々に影響を受けるので走っていて不快だった。

 制動力は公道を走行するバイクとして落第点である。
 前後ドラムブレーキ、サイズも形状もJA44とよく似ているが、制動力はJA44より更に下を行き、特に前輪はCT110とかXR100のレベルで、ブレーキレバーを握ってから効き出すまでの時間がかなり長い。よって車間距離を十分に取るものだから、クルマに割り込まれやすい。割り込みで接近した車間距離をまた開けるものだから、再びクルマに割り込まれる。ついに我慢できなくなった後続車が当車をぶち抜いていく。幹線道路ではその繰り返しだった。

 路面が良ければ直進性はかなり良い。高回転時の騒音と振動は凄まじいが、直進の不安はないばかりか、細長い車体が矢のごとく進んでいく。これもリジッドフレームの恩恵なのだろう。寄せ集めの部品と脆弱な保安部品で構成したバイクだが、フレームだけはしっかりと設計したようだ。これだけ長い時間エンジンからの振動と路面からの衝撃を受け続けてもフレームは折れなかった(笑)。クラックも発生していないようだ。

 旋回性は得意ではない。満足いくニーグリップはできないし、リアタイヤもシュール過ぎるし、ステップ・マフラーも擦りそうなので、あまり豪快に寝かせようという気になれなかった。着座位置の低さ、エンジン位置の低さから重心はかなり低いと思われる。それに比してホイールベースがアンバランスに長いので、タイトコーナーではしばしば大回りしてしまった。

 K-16Sで外出する予定があるならオプションのフロントフェンダーは是非装着しておきたい。というのも山間部では必ず路面が濡れているところがある。そこを通過しただけで前輪が激しく水を掃き出してくれたおかげでヘルメットの中にまで水しぶきが侵入してきたからだ。

 バックミラーはデザイン重視で鏡面の面積が小さいのはいいとして、関節可動部の動きが渋いくせに振動で徐々に動いてしまうのは頂けない。
 2人乗りはできないし積載性収納力も皆無。リアキャリアを取り付けるスペースもない。デイパックやウエストポーチが必須であるが、上体を起こしているときはデイパックでナンバープレートが隠れるし、デイパック底面がナンバーの鋭利な淵で傷がつきそうだ。

 エンストやアフターファイヤーはとりあえずセッティング不良としておいて、不具合としては、前輪の回転で断続的かつ規則的に制動現象が生じる事を挙げておきたい。ブレーキロッドアジャスターを回してフロントブレーキパネルとドラムシューの間隔を開けるとこの現象は弱まるが、初期制動が致命的に遅くなってしまう。パネルとシューの面が合っていないと思う。また、走行中の前輪を上から観察すると前輪がブレているのも確認できた。また各所にズレがあるし、損傷痕がないのに塗装剥げと溶接個所の錆びがあちこちにある。錆びるのが早い、、、というより塗装が上手くのらない金属材質なのかもしれない。

 ということで、実用車の範疇で評価すれば足着き性軽さ以外何の取り柄もない。このルックスによほど惚れ込まない限り初心者にはお勧めしない。跨ぐことも移動することもできるディスプレイモデルと考えるべき。乗り物として使うなら一度バラして組立て直したほうがいいかも知れない。マイナートラブルを楽しめるぐらいのスキルがあるならご検討を。

(※1)道路運送車両の保安基準の細目を定める告示 第280条1項3号
(※2)http://en.cn-yuanxing.com.cn/

記述 2019.6.24


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