スバル・R1

長所: 1デザイン 2運動性能 3快適性 4質感
短所: 1チャイルドシートを組み合わせた場合の乗車定員

 04年12月に登場したスバル・R14人乗り軽乗用車としては珍しく3ドアハッチバックを採用している。全長がフルサイズ(3.4m)に満たないので、アンダーサイズ軽自動車としてインプレに追加することにした。同じようなキャラクターとしてMCC・スマートfor twoスズキ・ツインがすでに存在しているが、両車は衝突安全性能を確保したうえでいかに全長を短くできるかという企画であると思うが、スバル・R1は、全幅を目一杯使ったうえでいかにスタイルを良くするかという企画だと思う。余談だが、R1の全長はフルサイズより110mm短いので、110=10+10=TEN・TOU・虫の愛称を復活させたという説も。

 全長を切り詰めた影響は当然ながら居住性に出る。乗車定員は4人だが、ほとんど2人乗りを前提としている。前席は十分な空間があるが、後席は小学生用と割り切るべきである。大人2人と小学生2人という組み合わせなら無理なく4人乗れる。助手席をかなり前にセットすれば、左後席に170cm未満の人をなんとか“収納”できる。つまり大人3人+小学生1人最大定員である。なぜ小学生?

 後方空間が狭いR1はチャイルドシートと前席シートバックとの間に十分な距離が確保できず、子供の足が挟まれる危険がある。カタログでもチャイルドシートの使用は左後席に限定し、助手席を畳んだうえでの使用を指示している。つまり、チャイルドシートを使うと、大人1人+小学生1人+幼児1人=3人が最大定員となり、お子様の年齢によっては家族4人でお出かけできないのである。

 スバルに提案する。どうせ後ろは狭いのだから、後席そのものをビルトインチャイルドシートにしてはどうだろう。子供の成長に合わせた座面の伸縮機能を持たせ、より制約の少ないtwo by twoにして欲しい。

 後席を畳んでも大して荷物を積めない。運転席に座った状態で荷室の奥まで楽に手が届くよう設計している。正にパーソナルカーである。リアハッチゲートがこんな高い位置にあるなら、後席を無くせば荷室の下にエンジンがすっぽり入りそうだ。いっそのこと2人乗りに限定し、リアエンジンを採用するミニポルシェにしても面白いかも知れない。

 運転席に乗り込んでみた。ドアの閉まり音からしてサンバーやプレオより側突に強そうだ。フロントシートの出来は歴代スバル軽で最高のものだと思う。形(支持)・硬さ・大きさがちゃんとしていて、インプレッサ1.5L車に匹敵するレベルである。スポーツモデルスバル・R2TypeS・Sにもこのシートを採用して欲しい。

 例によってペダル配置はやや左寄りではあるが、アクセルペダルとブレーキペダルの高低差が大きくないし、座面の高さも調整できるから、着座姿勢は何とか及第点をあげられる。常時点灯式のメーターやツートンカラーの内装など質感を高める工夫が随所に見られ、R2より内装にお金をかけている。軽自動車離れした質感である。

 操作性に関してはおおむねよろしいが、ハザードスイッチだけはシフトレバーの右横に持ってきて欲しい(現行モデル未確認)。フロント、サイド、リア、全ての窓が高い位置にあり、R2同様、視界については誉められたものではない。もっとも車体そのものが小さいので同じ欠点を持つトヨタ・ヴィッツより取り回しは楽である。視界の良さ、車両感覚の掴みやすさを第一に選ぶならサンバー、プレオ、ステラをお勧めする。

 R1はR2と同じS、R、Iという3つのグレード構成をとる。今回試乗したグレードは初期型のRである。ショートホイールベース化+155-60R15(R1S、R1R)タイヤのためかR2Rより若干、腰高感がある。直進性を出したいためかハンドリングも少し重くなっている。ただ、ハンドルを切る時の手応えと戻す時の手応えに差があり過ぎる。戻す時に軽くなり過ぎる。電動パワステなので戻す時の軽さを改善するのは難しくないはずだ。

 エンジンを始動してみる。かなり静かである。アイドリング時ですらほとんど振動が伝わってこない。クリープ付きCVTなのでブレーキペダルから足を離すとそっとクルマが進んでいくし、坂道発進でも後退することはない。平地や下り坂であれば全く不満のない動力性能と静寂性である。4気筒エンジン+CVT+4輪独立サスを採用するスバル軽の快適性は他社の及ぶところではない。3気筒エンジンになってしまった現行ヴィッツ1Lよりも静かである。

 平地でアクセルをベタ踏みしてみた。同じCVT車でも1.3L車やスーパーチャージャーエンジンのR2Sならば、40〜60〜80km/hと加速していくところを、R1Rだと30〜45〜60km/hにしかならない。i-CVTがうまく変速してくれるものの、やはり660cc・NAエンジンでは平地のフル加速と登坂では我慢が必要である。しかし高回転まで回してもチープな音を出さないのはやはり4気筒エンジンである。

 グレード構成は3種類のエンジンによる。R1S(05年12月に追加)・R2SはDOHCスーパーチャージャー、R1R・R2RはDOHC−AVCS、R1i(05年7月に追加、07年6月廃止)・R2iはSOHCである。SとRのパワー差は歴然である。以前試乗したR2Sはホンダ・フィット(1.3L)に匹敵するほど速かったが、だからこそ逆にフィット等の小型車に比べて横方向の踏ん張り不足や、ペダルストロークに対して過敏すぎるエンジンがむしろ欠点に思えた。R2でさえそう感じるのだから、ホイールベースの短いR1なら尚更その欠点が浮き彫りになるだろう。同じ過給器付きでもプレオ・サンバーの上級グレードに採用するMSC(SOHCマイルドスーパーチャージャーエンジン。レギュラーガソリンでOK)で十分だと思う。R1・R2がプレオ・サンバーのような継続車種に差別化したいのは分かるが乗りやすいのはMSCの方である。

 Rと?に悲観するほどのパワー差はない。AVCSでレスポンスが良くなっているRだが、遅くてもまろやかに回転するSOHCも味があっていい。タイヤも?に標準の14インチ仕様で十分である。エンジンの回転フィールを比較するなら、コクの?、キレのR、ジャジャ馬のS、という感じである。あるいはクリームシチューの?、ハヤシライスのR、ハバネロカレーのSと言えば分かりやすいだろうか?値段差に比例する満足度はそれぞれ得られるので、どのグレードがベストバイかは難しい。ただ、どうせ安くないクルマだから内外装だけでなく動力性能も軽離れしたSを私だったら選ぶと思う。プレミアムガソリンというのが悔しいけど。(06.11以降はレギュラーガソリンに対応している)

 総合的に見てスマートKツインとは比較にならないほど良くできている。『あまり売れないだろうが、持てる技術を出し惜しみせず、いいクルマを提供したい』その良心を感じるのは他のスバル車同様である。日本車らしくないこのデザインだけでも十分に存在する価値があると思う。
 ただしR1もR2もデザイン重視という意味では同じキャラクターである。スペース効率が重視される今の軽自動車市場に、シェアの少ないスバルがこの2台を同時に投入する必要があったかは疑問である。R1を中途半端な後席居住性と積載性にまとめるよりも、リアエンジンを採用した2人乗りスポーツ軽自動車にする選択肢もあったのではないかと思う。乗車定員を2人に限定すればサンバーのシャーシをほぼそのまま使えるのではないかと思う。

2007.8.4 一部書き換え/2006.1.3 記述

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