スズキ・ツイン
ガソリンA

 長所: 1経済性 2軽快性 3静寂性
 短所: 1ペダル配置 2視界 3シート

 購入動機。ホンダ・ジャイロキャノピーで屋根付きの快適性と三輪の限界を知った私は、次なるサブ通勤車に次のものを求めた。
  1:路面状態にかかわらず安全に走行できる。
  2:雨風をいくらか凌げる。
  3:原動機が丈夫である。
  4:維持費が安い。
 ちょいと値段は張るがEVミニカー:アラコ・コムスが一番理想に近かった。コムス兄弟車の試乗を経て、いよいよ買うかという時、99年の発表以来まったく音沙汰のなかったスズキ・PU3コミューターが2003年に市販されるという情報を得た。

 滅多に雪が降らない地域なのでスタッドレスタイヤで1はクリアーできるだろう。2.735m×1.48mという寸法は自宅の門を少し広げれば入るので、車庫代がかからない。保険料はミニカーより高くなるが、衝突安全性能が高いので生命保険と考えよう。よって4もクリアー。こうしてツインが最有力候補になった。とまあ、いちおう理屈を並べてみたけれど、初めて見たときから購入することを決めていた。

 求めていたのはミニカー以上軽自動車未満、選んだのは当然ガソリンA。エアコンは後から取り付けることができたし、デフロスター(曇り止め)が標準なのでとりあえずバイザーフロアマットだけ付けて様子を見ることにした。

 3ヶ月待たされてついに納車である。もはや当たり前の装備になったワイヤレスドアロックなど付いていないので鍵穴にカギを差し込んで運転席のドアを開ける。助手席側のドアに鍵穴はなく、連動機能もないので、助手席側のドアは車内に乗り込んでノブを引っ張らないと開けることはできない。

 衝突安全ボディTECT採用とはいえ、パタンというドアの閉まり音はやはり軽のレベルだ。横から衝突されたらどうなることやら、、、。座席とドアまでの間隔も狭く、肘をかけるために窓を開けたくなることがある。

 ツインはシートの前後スライドでしかポジションを決められない。私の場合、ブレーキペダルを強く踏み込める位置に座席やハンドルをセットすることにしている。また、迅速な踏み換えを可能にすべく、踵をブレーキペダル側に置き、それを軸にしてつま先を右に倒すことでアクセルを踏んでいる。ツインに限ったことではないが、右前輪のタイヤハウスが出っ張っていてペダル配置に無理がある。フロアスペースに余裕がなく、クラッチペダルも付いているガソリンAはいっそうペダル配置が厳しい。そのため購入直後はアクセルとブレーキを同時に踏んでしまい、エンストさせることがしばしばあった。

 カローラスパシオの3列目シートよりかは幾分マシかもしれないが、それでもこのシートの作りは最低限のものだ。長時間走行での疲労は大きい。

 安っぽい始動音はまぎれもなく3気筒。しかしニュートラル+アイドリング時はエンジンがかかっているのか分らないほど静かで振動も皆無に等しい。しかし高回転まで回すとやはり3気筒、すぐさまノイジーでチープなサウンドになる。あくまで常用域重視の実用エンジンである。

 長年バイクだけで過ごしてきた私だけに、エアコンがなくてもそれほど困ることはなかった。外気温37度・灼熱の日中で1時間ほど走行したら眠気に襲われ、鼻血を垂らしたことが一度あった。雨上がりに走ろうと、窓ガラスの曇りをデフロスターだけで除去するのに5分要したことも一度あった。それくらいである。効果が出るのに10分ほどかかるが、ヒーターも標準で付いている。外気導入にして窓を全開にすれば涼しい風は入ってくる。排ガス規制のおかげで窓を開けての走行が快適になりつつある。どんなに渋滞しても1時間で通勤できるので、ついにエアコンを後付けすることはなかった。

 ツインの挙動は二輪車とも四輪車とも異なっている。
旋回性。135/80R12というタイヤのためガソリンB同様、大きくロールする。恐ろしいのは左右に連続して旋回させた時の動き。前輪で作り出したロールと後輪で作り出したロールが噛み合っていない。スローインファストアウトの要領でカーブ終了直前でアクセルを踏み込むと膨らむ膨らむ。

 1回限りの旋回でもこれだから、左右に連続するコーナーでは、絶えず車体がグラグラしている。前後共に重心が外側に移動したのを確認してからでないと安心して次の動作に移れない。ツインを安全に走らせたいのなら、スローインスローアウトをお勧めする。

 直進安定性。キャスター角を工夫したのだろう。ハンドルに手を触れなければ高速走行でも直進安定性は高い。パワーアシストがないのも高速では逆に安心だ。しかし左右に振ってみるとやはり何かおかしい。速度を上げるほどに頭の中で描いた軌跡と実際に出来た軌跡とのズレが大きくなる。これもロールの前後収束差だと思う。2004年モデルからフロントスタビライザーが装着されたが、これだけホイールベースを短くするのならスバル車のように4輪独立懸架にしないと駄目なのでは?

 動力性能。スペック的には決して低速トルクが不足しているエンジンではない。しかし実際に発進してみると、平地でさえクラッチミートだけではノッキングしてしまうし、勾配の強い坂道発進では、アクセルオン→クラッチミート→サイドブレーキ解除、という教科書どおりの手順でないと安心できない。交差点を左折する際にも2速まで落とさないと再加速が辛いし、5速も50km/h以下ではノックしやすくなる。市街地走行ではほとんど4速までしか使わない。全体的にハイギアードなのだろう。

 しかし、ひとたび動き出せば660ccNAとは思えないほど軽快に加速する。シグナルグランプリでは2ℓNA・AT車ぐらいまでならほぼ互角の闘いができる。5MTを選んで本当に良かったと思った。日常的にエンジンの性能が使いきれる小排気量MT車がこんなにも楽しいとは。

 3AT車に比べて経済性、軽快性、静寂性で明らかな差があり、しかも操縦する楽しさもある。しかも値段はこっちの方がずっと安い。

 最高速は5速で125km/hまで確認できた。5速だとほとんど力が無いので4速でひたすら引っ張った方が速度が伸びるかもしれない。

 燃費の良さはガソリンエンジン車ではトップレベルではなかろうか。真冬の市街地走行、それもコールドスタートで発進し、ヒーターが効き始めた頃には目的地に着いてしまうほどの短距離往復でも平均して18km/Lはいく。平均時速10km/hという渋滞でも15km/Lを割ったことがない。郊外の信号停止が少ない一般道を2人乗ってキビキビ走って23km/L。高速道路を80km/h巡航したら35.6km/Lになった。5速だとアクセルに足を軽く乗せているだけでも80km/h出てしまうので、このような燃費を叩き出せるのだろう。やはりエンジンの性能に対してギア比が全体的に高過ぎると思う。5速を固定し、4〜1速を少しずつ下にずらしたほうが乗りやすくなるはずだ。

 私はバイクがメインなのでこんな車でも積載性について不満がない。シート後方には意外と深い空間があり、日常的な衣料品や食料品であれば2人で買い物に出かけても積めないことはほとんどない。少なくともバイクのメットインスペースやトランクより積める。リアハッチとなっているガラス面積が小さいので、大きな荷物を積み込む際は助手席が入り口となる。助手席シートバックを前傾してフラットなL字型スペースをつくれば、長尺物も積めるし、助手席の足元が隠れるので、やむを得ず貴重品を車内に置いていくなら車外から見えないここがいい。

 ツインは当初の目論見と裏腹に男性ユーザーの関心が高く、ガソリンAの方に注目が集まった。装備を省略するコスト減よりも部品を共有化できないコスト増のほうが問題になり、2004.1.9、マイナーチェンジの際ついに値段を上げてしまった。ガソリンAは49万円から実に6万円もの値上げである。そのうえバンパーは似合わないグレー色になったし、何よりラジオ・アンテナ・スピーカー・エアコンの後付けができなくなったのが大きい。エアコンが欲しいならパワステとセットとなったグレードをはじめに選択しなければならないのである。

 実を言うと1年もしないうちに私はツインを手放してしまった。なぜなら、小さいのに乗りにくいからである。そして乗りにくさを克服する楽しさがあった唯一のグレード・ガソリンAを、買わせないようなマイナーチェンジを行ったことに怒りを覚えたからである。そしてもっと楽しいクルマに出会ってしまったからである。

 ツインがこの大きさであることのメリットは現時点では燃費以外何もない。この手の実用車にモデルチェンジなど必要ないのだから、腰を据えて作り直せ。これが元オーナーからの愛のメッセージである。

2005.1.4 記述

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