スズキ・TF125

単独評価
 長所: 1ノック耐性 2パンチ力 3足着き性 4座り心地 5積載性 6メーター誤差
 短所: 1シフト精度 2環境負荷 3ライト 4一人乗り /舗装路での 5機敏性 6旋回性
CT110と比較して
 長所: 1パンチ力 2乗り心地 3制動力 4ニーグリップ
 短所: 1乗降性 2経済性 3環境負荷 4エンスト知らず

 今回試乗したスズキ・TF125(K5)は豪州向けに国内生産された車体を業者が逆輸入したものである。同じボア・ストロークの2stエンジンは1971年のハスラー125で初搭載され、改良を重ねた1977〜1979年頃のハスラー125RM125の部品を組み合わせ、Trail Farm ないしは Two wheel Farmとして再構成されたものと思われる。

 足着き性は良好である。フロント21インチ、リア18インチ、オフ車でフルサイズと呼ばれるホイールを履いているのに、170cmない私がシートに腰を掛けて両足がべったり接地するのである。低い位置にシートを設置するために着座位置は普通のスポーツバイクより後軸に寄っている。それがフロントアップのしやすさにも繋がっているし、1人乗りにもなっているのだろう。シートは幅(32cm)・長さ(38cm)・厚み共に十分で座り心地は極めて良い。私が今まで乗ったことのあるバイクの中で最良クラスかもしれない。背筋はピンと伸び、幅広いハンドルで着座姿勢も良好である。ニーグリップもしっかりと決まる。

 暖かい日であっても、その日はじめての始動であれば、股間真下にあるチョークレバーを下げて(てこの原理で引っ張られる)右足でキックしつつスロットルグリップを捻る。チョークレバーは上下の途中にノッチはない。始動後にスロットルを何度か煽ればすぐに回転が安定する。始動性CB125T(ブローバイガス還元装置付きモデル)より良好である。手動でチョークを調整できるぶん冷間始動直後のアイドリングもアドレスV100等より安定しているように思う。

 吹かして、バイ〜ン、バイ〜ン!  ゆっくり流してビィィィィ〜ン!  スロットル捻ってバァババァァ〜ン!  エンジンブレーキでパン!パン!パン!パン!  懐かしい2stサウンドである。過去に取り上げた2stモデル:KH125、DASH125RSの2台と比べると出力特性はどちらかと言うとKH125の方に近い気がする。

 かなりピーキーな性格を持つDASH125RSは、スロットルグリップを回しても?はじめは元気がなく、?もう少し開けると普通に動き出し、?また元気をなくしたと思ったら、?今度は突然ロケットのように突き上がり、?最後は息切れするという感じ。トルクカーブも?以外ではめちゃくちゃだった。

 KH125は、?から?までがほぼ同じように普通に回り、?も穏やかだがパンチはあり、?緩やかにパワーダウンするという感じだった。実用になるのが3,000回転からというあたり4stほど低回転が強くないので実際には?=はじめは元気がないのだろうが、DASH125RSに比べるとトルク変化が穏やかなので?から?まではほぼ同じと考えて差し支えない。

 TF125はタコメーターを装備していないのでどれくらい回っているのか分からないが、ギア下段域はDASH125RSに近く、ギア上段域はKH125の性格に近いような気がした。実際にはギアの位置によってエンジン特性が変わるわけではないが、そう感じさせるのはギア全体がローギアで下段域ではすぐに?を通過してしまうからだと思う。舗装路で走行する場合、タイヤ1回転で2速へ、さらにタイヤ4〜5回転くらいで3速へ、と大型貨物車並みのシフトスケジュールである。

 なぜこんなにローギアにするのだろうか?それはCT110のようなローレンジを装備せずに走破性を得るためだと思う。TF125は低回転での粘りが非常に強い。平地と下り坂でひとたび動き出せば、アイドリング程度まで回転を下げても、つまりスロットルもクラッチレバーも操作しないでエンストせずにトコトコ転がっていられるのである。

 発進。1速発進はクラッチレバーをゆっくり繋げばスロットルグリップを回さずともそのまま動き出す。ブレーキを掛けて速度を限りなくゼロにしない限り、ノッキングせずにそのまま動き続ける。2速発進はさすがに半クラッチを要する。3速発進もスロットルを半分くらい回していればなんとか可能だ。
 ノック耐性。平地で85kgの負荷を掛けて、ギアごとにどれだけ速度を落としてもノッキングしないか試してみたところ、1速=停止寸前、2速=5km/h、3速=8km/h、4速=12 km/h、5速=15 km/h、6速=18 km/hになった。6速でメーター読み18km/hから半クラッチせずに再加速することが出来るのである。
 ギアごとの最高速は1速=10km/h(GPS表示は15km/h)、2速=26km/h(GPS表示は31km/h)、3速=45km/h(GPS表示は51km/h)、4速=58 km/h(GPS表示は61km/h)、5速=75 km/h(GPS表示は74km/h)、6速=91 km/h(GPS表示は91km/h)になった。TF125の6速はKLX125の3速並みの粘りとトップ5速並みの伸びを同時に持っているのである。2stはスピードに振ると低回転スッカスカの扱い辛いバイクになるが、逆に低中速トルクに振ると4stもびっくりするほど粘り強くできるという好例である。ちなみに峠道の登りは3〜4速、下りは4〜5速、幹線道路は5〜6速を使うことが多かった。

 しかし舗装路で走行する場合、機敏性という面では厳しいものがある。速く走ろうと1速でスロットルを強めに回すと簡単にフロントアップしてしまう。それもフロントアップした瞬間にもう頭打ち。3速までは大人しく繋ぐだけに留めた方がかえって加速ロスを減らせる。舗装路では4速までシフトアップしてやっと普通の加速を開始できる。後続ドライバーもイライラしているようで市街地では何度もクルマに抜かれた。原付のように左側端を走ることをお勧めしたい。

 舗装路での発進加速。85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にしたところGPS表示は次のとおりになった。100mで54km/h(4速)、200mで66km/h(5速)、300mで75km/h(5速)、400mで79 km/h(ここまで約25秒、6速)、500mで83km/h、600mで86km/h、700 mで87km/h、800 mで89km/h、900〜1,600mで90 km/h、1,700mで平地最高速91km/hを確認した。このときアナログメーターも91km/hを示していた。発進から400mまでは速度計がGPS表示に追いつかず、600m以降は速度計がGPS表示を上回るものの+1km/h以内に収まっている。極めて誤差の少ない速度計といえる。

 比較対象区間(新)307.1kmを走行したところメーターは308.1kmを示した。距離計の誤差は+0.3%と推定、その区間の平均燃費23.6km/Lとなった。市街地走行でも同様の燃費だった。アドレスV100等と同じような市街地燃費だが、長距離・長時間走ってもTF125の燃費が伸びないのは、全体的にローギアだからだと思う。TF125のオイル燃費は約700km/Lと大食いだった。生産量が減ったせいか2stオイルの値段は2stスクーター全盛時代の倍以上になっている。4st車に比べると燃料代は倍以上だし、排ガスと騒音の迷惑度は比べ物にならない。よほどの必要性をもって運用しないと周囲の視線に耐えられなくなるかもしれない。

 シフトペダルやクラッチレバーは軽くも重くもない。走行中のシフト精度は良好だが、停止時ないしは低回転時に硬さがある。上段ギアのまま停止してしまうとクラッチレバーを1回1回握ったり離したりしないとギアが1段ずつ落とせないことがある。今時のバイクのようにクラッチレバーを握りっぱなしでスコ・スコ・スコンと一気に1速まで落とせないことがある。エンジン回転は粘り強いのだが、ミッションはあまり柔軟でないようで、停止するまでに適切なギアに落としておかなければならない。それとシフトミスも時々発生した。駆動中に勝手にギアが変わるわけではないのでギア抜けとは表現したくない。シフトチェンジ後にクラッチを繋いだのに、上下どちらのギアにも入ってなくてスロットルが空振るのである。どの段数でも発生するし、再度シフトすればギアが入るので、何が問題なのかわからなかった。シフトペダルの感触はシフト成否にかかわらずいつも同じである。ちなみにクラッチレバーを使わない強制シフトアップ/ダウンの方が確実にチェンジする。さらにニュートラルランプが点灯するのが遅いので、1―N―2間で無駄に確認シフトをしてしまう。その間クラッチレバーをずっと握っているので、だんだん左手が疲れてくる。排ガスの臭いにもやられ、長時間走行ではだんだん肩が凝ってきて頭も痛くなってきた。

 舗装路での運動性能は低いと言わざるを得ない。車体そのものの直進性は悪くないが、旋回性に問題がある。バンク角を増やしていくとタイヤの各ブロックの接地面がずれることにより、とたんにグリップが低下するのだ。これはTF125に限った話ではなく、この手のタイヤを履くバイクの宿命だろう。コーナーでは十分に減速してあまり寝かさないようにしたい。すりぬけ戦闘力も低い。ハンドル(約82cm)、ミラーtoミラー(約88cm)、ハンドルガード(約93cm)の各幅が広すぎて狭い所が通り辛いというだけでなく、タイヤが縦溝や左右の段差を拾って車体がヨレやすいのだ。車道から歩道に乗り上げる際も直角に入らないと前後輪が別々に弾かれて不安定になる。

 標準タイヤのサイズと銘柄は、F:2.75-21 IRC VOLCAN DURO VE-1、R:4.10-18 IRC FARM SPECIAL-Z、どちらも日本製である。標準ホイールはF:J21×1.60 RK EXCEL、R:J18×1.85  RK EXCELだった。

 舗装路を制限速度で走れば短所に指摘するほど制動力は悪くなかった。フロントサスが沈み込む時間とドラムブレーキが効きだす時間が調和していて、双方の能力を使い切ることで思ったより短い距離で制動できる。前後ともに非力なドラムだが、タイヤの能力に合っているのだろう。乾燥路面での短制動、ドラム制動が遅いせいか、後輪のみの場合でも滑り出しは早くないが、いざ滑り出すと左右に流れてしまう。前後同時なら、なかなか滑り出さない。WET路面でも乾燥路面と比較してほとんどグリップが低下しなかった。そればかりか、小粒〜中粒の砂利と泥が混ざった林道の方が舗装路より滑りにくくて走りやすかった。このタイヤはマッド・テレン・タイヤと呼んでもいいかもしれない。

 積載性。長さ424mm幅385mmのリアキャリアが頼りになるが、荷掛フックが4個しかないのは少々残念である。リアキャリア下にプラケースがあり、書類等を入れることが出来る。シートは鍵なしで右側に開くことができる。車載工具とオイル給油口が現れる。ついでにメットホルダーが登場して欲しいところだが、それらしきものは見当たらなかった。ハンドルガードの太さが19mmなので、大抵のものはクランプできるだろう。私ならここに社外品のメットホルダーを付ける。

 操作性その他の装備。
 ブレーキレバーロックは登坂中のガス欠で役に立った。後ブレーキもキックスターターも右足を使うので、始動中は後ブレーキを踏んでいられないのである。右手でスロットルを回しつつ前ブレーキを握るのも容易ではない。勾配に応じて強弱2段階にフロントブレーキをロックできる。なおクラッチを切ったままの状態を保持できるようにクラッチレバーロックも備わる。左右双方にサイドスタンドを装備するのはCT110と同じである。
 メーターは速度計、累計距離計、ニュートラルランプの3点のみでバックライトすら点灯しない(※)。
 燃料計もないが、タンク下左側に走行中でも回せる燃料コックがある。タンク容量は13L。約260km走ってガス欠したので、燃費から逆算するとリザーブ量は2Lとなろう。
 バックミラーはクロームメッキを施されたシンプルな丸型形状である。静止中の非常に綺麗な鏡面はさすが日本製である。その一方で走行中は白煙や振動で後続車両が判別できなくなるのはさすが2stだ。
 6Vヘッドライトは非常に暗い。撮影後の画像を見てもハイ/ローの区別ができないほどに暗い。自車の存在を知らせる最低限の提灯(ちょうちん)である。

 これまで私が試乗したことのある小排気量オフロード車を排気量順、ホイールサイズ順に並べてみると、XR70R、YZ80、XR100R、CT110、KLX125、TF125、XTZ125である。仮に全車保安部品付きと仮定した場合にどれを選ぼうか?
 アップダウンを攻め続ける衝撃吸収力路面追従性があるYZ80、XR100R
 ぬかるみからの脱出を期待できるパンチ力ならYZ80、TF125
 足場の悪いところでも転回できる足着き性ならXR70R、CT110、TF125、XR100R、KLX125まで。
 エンスト知らず、ないしはそれに準ずるノック耐性を持つのはCT110、XR70R、TF125
 大型キャリアと長時間乗車に耐えるシートを持つのはTF125、CT110だけ。
 競技するならYZ80、XR100Rだが、TF125、CT110以外はプチツーリングすら辛いシートなので、実用車として選ぶなら私はこの二択になる。獲物が逃げない静寂性をもって慎重にガレ場を進むならCT110を選ぶ。騒音で熊を除けながらあぜ道・田んぼを横断するならTF125を選ぶ。TF125ノック耐性パンチ力を同時に持っているのが強みだ。しかもフルサイズの踏破性とコンパクトサイズの足着き性を両立している。災害救援や林道パトロールにもいいかもしれない。

参考データ
車名・型式:TF125
 車両重量:102kg 長さ:2,170m 幅:0.935m 高さ:1.150m 最低地上高:250mm ホイールベース:1.335m シート高:835mm
 エンジン: ピストンリードバルブ 2サイクル単気筒0.123L=ボア56.0mm×ストローク50.0mm  圧縮比:6.2:1 気化器:MIKUNI VM24SH
 使用燃料:レギュラーガソリン 燃料タンク容量:13リットル オイルタンク容量:1.2リットル
 2005年式TF125             圧縮比6.2:1 最高出力?        最大トルク?
 1977年式ハスラー125          圧縮比6.8:1 最高出力14ps/8,000rpm   最大トルク1.3kgm/7,000rpm
 1977年式RM125            圧縮比8.0:1 最高出力26.5ps/10,750rpm 最大トルク1.82/kgm/9,500rpm

 http://www.suzukimotorcycles.com.au/range/off-road/two-wheel-farm/tf125/features?

 (※)個人オーナー様のブログを拝見しました。この状態でも点灯しているそうです!
 http://tf125.jugem.jp/

2017.7.5 追記/2017.5.1 記述

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