スズキ・アドレス110

長所: 1着座姿勢 2剛性感 3旋回性 4収納力 5居住性
短所: 1変速ラグ 2加速力 3航続距離

 アドレス110(海外名:北斗)は1998年に発売されたスズキの原付二種スクーターである。『アドレスを超えるのはアドレスだけ』というキャッチコピーで当初はアドレスV100後継機種として開発されたが、値段の安いアドレスV100の方が売れるので最後まで両者は併売された。2005年に登場したアドレスが『V』125であったことから、アドレス110はアドレスV100の上級機種であったと今は解釈できる。

 今回試乗できたのは約18,000km走行したUG110SK3。排ガス・騒音対策を施して2003年以降に生産されたアドレス110の最終モデルである。このモデルに関しては嬉しかった面と残念だった面がある。

 嬉しかったのは、騒音規制に伴って過去のモデルより静寂性が格段に向上したこと。アイドリング時の振動はまぎれもなく2stである。しかし発進直後から最高速までの静寂性低振動は一昔前の4st125ccスクーターを上回るほどである。反面、残念だったのは、変速ラグの大きさと加速力の減退である。

 シグナスX(日本仕様キャブ)のときのようにスロットルグリップが重かった。アクセルを全開にすると発進直後に2stらしいパンチがあるが、20〜40km/hはなかなか加速が付いて来ない。60km/hくらいから再び勢いが付き80km/hくらいまでは元気が良く、その後はジワジワと伸びていくという加速特性である。85kgの負荷をかけたときの具体的な加速は、アクセル全開で約100mで50km/h、約150mで60km/h、約200mで70km/h、約350mで80km/h。約500mで85km/h。約1,000mで平地最高速の93km/hを確認した。下り坂は96km/hだった。(全てメーター読み)

 最高速が100km/hに届いた初期型に比べると明らかに動力性能は落ちている。初期型はビーンという大きな音を出しながら猛猛しい加速を披露したが、このモデルは静寂性・低振動と引き換えにかなり大人しくなってしまった。しかもスロットル量とトルクの盛り上がりが必ずしも比例せず、アクセルを絶えず微調整しながら走っているという感じである。特に登坂中に一旦速度を落としてしまうとキレのある加速を取り戻すのにかなりのタイムラグがある。市街地をただ流すだけの走りならアドレスV125にかなわない。今思えば、ホンダ・リード100(2st)はよくもあんなに滑らかに変速ができたものだと感心する。

 原付二種騒音規制の測定速度は40km/hである。グランドアクシスでもこの周辺が元気なかったので、規制に対応するために双方ともかなりデチューンされたのだろう。ノーマル主義の私でさえこれではイジりたくなる。久々に乗ったアドレス110の残念な点がこれである。

 しかしバイクはパワートレーンだけで走るのではない。速さを決めるのはむしろ車体構成ではなかろうか。どんなバイクでも初めて跨るとそれなりの緊張感を伴うものである。ましてそれが人様から借りたバイクであれば無意識のうちに遠慮が入る。ところがアドレス110は、接地寸前まで車体をバンクさせるようなスラロームを乗った瞬間から自信を持ってできてしまう。

 軽快にして高安定しなやかにして高剛性。そして良好な着座姿勢が、単なる実用車とは一線を画する運動性能を与えた。エンジン性能の全てを安心して使い切ることができる。こんなスクーターがいったいどれほどあるだろうか。

 もっともカワサキ・KSR110、ホンダ・XR100モタードのようにエンジンが車体中央にある方が重量バランスに優れ、コーナリング性能は高いと思う。だがアドレス110もそれらに次ぐほどに優れている。以前、シグナスXの運動性能を、アドレス110と同等かそれ以上とコメントしたが、少し誉め過ぎていた。久しぶりに乗ってみてやはりアドレス110は別格の存在であると再認識した。変速ラグを修正し本来のエンジン性能を取り戻すことができれば、タイトコーナーが連続する峠道において依然として最強の国産原付二種スクーターだと思う。

 延々と直線をかっ飛ばすならもう少し車体が重い@125、RV125EFI、マジェスティ125FIなどのほうがバウンドが少なくてラクだろう。しかしコーナーでの立ち上がりは軽くてパンチのあるアドレス110の方がクイックに走ることができる。

 制動力はエンジンとタイヤの能力に合わせた相応のものである。ウェット路面での急制動でも滑るまでの限界が分かりやすく、実用的なセッティングだと思う。もし動力性能を大幅に向上させたいのなら、タイヤも含めた全ての制動装置を交換したほうがいいと思う。

 比較対象区間304.7kmを走行した際のメーターは309.4kmを指した。+1.5%の誤差があるとするならば、ガソリン燃費は30.5km/L、オイル燃費は1,516km/Lに修正される。なお、比較対象区間を含まない市街地での燃費は24.2km/Lとなった。今回の車体は走行距離が多いだけに多少くたびれている可能性もあるだろう。Vベルト・ウェイトローラー(共に純正)を交換したら力強さが増したと、後にこの車体のオーナーさんから連絡があった。それに伴い加速・最高速・燃費もわずかに向上すると思う。

 燃料タンクが6Lしか入らないので航続距離は短い。通勤で約20km/L×6L=120km。ツーリングで約30km/L×6L=180km。この燃費だと8Lくらいのタンクは欲しいところだ。

 剛性アップのためにフレームが立体構造となり、足元に荷物が置けなくなった。軽二輪以上では当然の設計だが、原付二種以下ではこういう設計を嫌う人が少なくない。ヘッドライトもボディにマウントされたので、穴開け加工をしないと前カゴの装着ができない。インナーラックにしてもシャッター付きメインキーのために左半分しか使えない。コンビニフックに何かを引っ掛けても中央部は膨らんでいるので、左右どちらかに垂らさなくてはならない。結局、積載性についてはメットインスペースリアキャリアだけが頼りとなる。いっそのことスズキ・アクロス(250)のような擬似タンクを設ければ良かったのに。そうすればニーグリップできて剛性収納力も両立できる。

 もっともメットインスペースの収納力は高い。ジェットと半キャップという組み合わせなら、うまく重ねて2個収納できるものもある。アライ製のヘルメットではMサイズのSZ-αと半キャップでは2個収納が可能であったが、シールド形状の変更に伴ってSZ-M以降は不可能になった。それでも1個の収納であれば全く苦労しない。SZ-RAM3をすっぽり飲み込み、その後方にグローブ・カッパ・地図を入れてもまだ余裕がある。シートを開くとメットインスペースの照明が点灯し夜間は重宝する。残念ながらこの照明はアドレスV125には引き継がれなかった。

 シート表皮はグリップのある素材だし、座面もほどよく硬い。シート前後に段差があり、ここにケツを押し付けて足を前に投げ出せば着座姿勢はビシっと決まる。この着座姿勢がアドレス110の操縦性の良さを支える一因である。1〜2時間の運転で比較するとアドレスV100・V125よりかなり疲労度が少ない。だが、単独乗車に限定すれば4〜5時間くらい乗っていると、逆転してアドレスV100のほうが肉体的には楽になった。アドレス110はフロアが後方にいくに従って徐々に高くなっていくのと、バックステップ代わりに使えないリアステップなので、ビシっと決まる位置が足を前に投げ出した位置に限定されてしまうのだ。対してアドレスV100は段差がなくコシも弱いシートだが、バックステップ代わりに使えるリアステップを活用することで単独乗車であれば着座位置を小まめにずらすことができる。

 後席居住性も良い。シートサイズ、シート表皮のグリップ、パッセンジャーが仰け反りにくい座面角度、そしてきちんと体重をかけられるリアステップと握れる太さのあるリアキャリア。これで背もたれがあればほぼ言うことはない。野郎どうしの2ケツでもなんとか実用に耐える居住性である。後席に乗車してみると、さすがに2stのパンチ、全開でダッシュすると男性でも少し仰け反る。

 ヘッドライトのマルチリフレクター化で照射範囲が広くなった。褒めるほどではないにせよ、暗黒の峠道の輪郭は照射してくれた。アドレスV100よりかなり安心だが、アドレス110の走行性能からすればまだまだ物足りない。

 操作性については、ウインカーが消えないことがある。これはプッシュキャンセルのストロークが長く、押し込む途中に左右どちらかにスイッチが倒れてしまうからだ。細かいことだが、使用頻度が高い部分だけに気になってしまう。そしてシートもカギを回すだけでポップアップしてもらえれば、荷物を片手に持っていても開くことができる。質感はV100に比べてだいぶ向上したが、フットボードのネジは相変わらず露出している。駐輪場ユーザーはこのあたりやマフラーから錆び始めるだろう。

 90年代前半、スズキは原付二種をフルラインアップしていた。レーサーからオフ車、スクーターからビジネスバイクに至るまでそれぞれに2stと4stを用意していた。そんな贅沢な時代に生まれたアドレス110は、実用一点張りのスクーターの中にあって一筋の光を放つ存在であった。このまま消えてしまうのは実に勿体無い。アドレスV125より多少燃費が悪くてもかまわないから、あるいは125ccに拘らなくてもいいから、強力な4stエンジンに換装したアドレス110を復刻してもらいたい。その際はヘッドライトも55/60Wに向上して頂きたい。

2009.2.13 更新/2002.11 追記/2001.5 追記/2000.5 記述

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