スズキ
スウィッシュ

単独評価
 長所: 1総合バランス
 短所: 2コスパ

アドレスV125Sと比較して
 長所: 1制動力 2燃費 3トランク収納力 4静寂性 5質感 6被視認性
 短所: 1コスパ 2体格適合性 3操縦性 4積載性

 スウィッシュは、平成28年排ガス規制に対応させたスズキの原付二種スクーター第二弾である。今回は2018年に台湾で製造されたUG125SEBL9(L9=2019年モデル)に試乗した。UG→UZ→UK→UUと来て、久々にUGという2stアドレス110で使用していた機種コードが戻ってきた。

 着座姿勢操縦性は及第点。スウィッシュは運転席と後席に段差があり、ここにケツを抑えつけて、フロア先端の傾斜箇所に足を投げ出して踏ん張れば着座姿勢はとりあえず安定する。フロアには傾斜箇所にも平らな中央部分にもギザギザの突起があって靴裏をグリップするようになっていて、突起が無いのに比べて姿勢の安定がだいぶ楽になっている。しかしフロア先端の傾斜角度はアドレスV125シリーズ(以下V125という)よりきついし、フロア先端自体もフロアといっしょに高くなっているので、V125よりすりぬけでバランスを取りにくくなった。シグナスXと操縦性を比べると、足を前に投げ出せばスウィッシュの方が有利だが、フロア中央に足を置いた場合はシグナスXの方に分があると思う。ホイールサイズの大きいシグナスXの方が車体そのものの安定性は高いので、燃料タンクを床下に移動し、同じようにフロアを上げ底されると、足を前に投げ出した位置でしかスウィッシュに有利な点は認められない。

 足着き性は身長170cm未満で股下77cm被服込み体重70kgの私で両足の靴裏が地面にべったりと接地して足がほぼ伸ばせない状態である。足を前に投げ出して着座すれば狭くはないし、足着きも悪くはない。170cmに少し届かないぐらいの人間で足置き・足着きどちらにもギリ不満が出ない設定である。身長175cm以上の人は足もとが狭く感じるだろうし、身長160cm未満の人が深く腰を掛けた位置で足を接地すると踵が少し浮いてしまうだろう。コンパクトながらも体格適合性の高かったV125の特長が薄れてしまったのは残念である。

 居住性は前後共に平均的。
 シートの長さは約63cmあるが段差で使えない部分の寸法を除くと運転席で35cm、後席で23cmの長さを占める。座席の幅は運転席の一番広い所で27cm、後席は前23cm後ろ18cmで平均して20cm位の幅がある。シート表皮のグリップは滑らないもののあまり強くなく、シートクッションも柔らかめである。単独での連続3時間走行くらいまではなんとかケツが持った。丸一日走行した後の疲労箇所は内股だった。足を前に投げ出す姿勢をキープしていたためだと思う。時おり足をフロア中央に置いて股を休ませようにもフロアが高くてガニ股になってしまう。タンデム走行では足を接地する度にタンデムステップに置いてある同乗者の足と接触して不快だった。後席の座面はV125より広いがアドレス125には及ばない。しかし同乗者が手を掴むリアキャリアの作りはV125アドレス125よりしっかりしている。後席居住性はV125超・アドレス125未満である。アルミ製リアステップは見た目ほど靴裏が滑らないので、同乗者には、土踏まずよりつま先に近い部分でリアステップを踏んでもらい少しでも互いの足の接触を避けたいと思った。

 取り回しは見た目より軽い。アドレス110(UK110)ほどではないが、装備重量が5?軽いアドレス125や、13?も軽いV125とあまり変わらない軽さに感じた。アドレス125のように取り回しの際に体と車体が干渉するようなことも無かった。

 運動性能アドレス110(UK110)やアドレス125より良好である。ホイールが前後同一サイズで素直なハンドリングだし、10インチという小径サイズなのでタイトコーナーが連続する暗黒の峠道でも腰の振りひとつでヒラヒラと旋回することが出来る。ただし、フロア先端の傾斜角度とフロア自体の高さがやはり影響していて、V125よりわずかに倒し込みが遅れる。微速前進でもV125の方がバランスを取りやすかった。その一方でV125は発進直後と高速域の安定性が劣っていたが、スウィッシュでは直進性に重さと安心感が出ていて、停止寸前や発進直後にハンドルがやたら軽くなることもないし、高速域での恐怖感もほとんど消えている。V125より前輪とフロントサスインナーチューブが太いのと、リアを2本ショックにして、ホイールベースが延長されたことが奏効しているのだろう。

 加速力
 85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にしたところGPSは100mで51km/h、200mで69km/h、300mで77km/h、400mで85 km/h、500mで88km/h、600mで 91km/h、700 mで93km/h、800mで94km/h、900mで95km/h、1,000 mで96km/h、1,100mで平地最高速97km/hを示した。このときスウィッシュのデジタルメーターは105km/hを示しており、GPSを基準にすれば(105/97)/97=+8.2%の速度計誤差となった。
 スウィッシュはAF11、アドレス125はAF22という別のエンジン型式を名乗っているが、最高出力 6.9 kW〈9.4 PS〉/ 7,000 rpm、最大トルク 10 N・m〈1.0 kgf・m〉/ 6,000 rpmというスペックは同じである。両車はウェイトローラー等(※1)が異なるらしいが、車重はスウィッシュの方が重いので差し引きゼロと言ったところか。進行距離ごとの到達速度もほとんど同じ結果となっている。V125より出足が少し遅いが最高速はやや伸びるし、全域で騒音と振動が減っている。

 比較対象区間307.4kmを走行したところオドメーターは314.9kmを示した。距離計の誤差は(314.9-307.4)/307.4=+2.4%と推定する。その区間の平均燃費58.3km/Lだった。アイドリングストップ機構を持たないのにこの燃費は凄い。

 2個のピストンでディスクローターを挟み込むため、制動力はアドレスを名乗る3台に対してあからさまに向上している。
 短制動はリアのみ強く掛けるとDRYだろうがWETだろうが後輪はすぐに滑り出す。フロントのみ強く掛けるとDRYだとなんとか前輪は持ちこたえるが、留めと言わんばかりに最後にガクンとフロントサスが沈み込む。速度によっては底着きしそうな勢いだ。2個に増えたピストンが制動力を大きく向上させたものの、サスペンションのチューニングが今一つなのと、タイヤが少々負けているようで、同じことをWET路面でやると前輪が滑り出すことがある。雨天通勤で使用する方は日々、滑り出すタイミングを把握しておくことをお勧めしたい。標準タイヤはMAXXISのM-6029で、前後同一サイズの100/90-10 56J。指定空気圧は前輪が175kPs、後輪は単独乗車で200kPa、タンデムで250kPaを指定している。凍結防止のための縦溝が掘ってある路面では、前後輪ともにほとんど影響を受けなかったので、一概にグリップの悪いタイヤとは言えない。

 乗り心地アドレス125のようなフラット感の良さは特に感じなかった。感じたのはフロア下の重量感が増しているなということ。リア2本ショックという懸架構造の変更と燃料タンクの床下移動に伴って重心が下がっているはずである。しかし、高床化したぶん操縦性が落ちているので、重心が下がったという良い印象よりも、ただ単に重量物が下にも居座っているという感覚である。乗り心地は特別良いとも思えないが、V125に比べれば飛び跳ねるような挙動は減っている。しかし前後10インチでバネ下が重いユニットスイング構造だけはどうしようもなく、リア2本ショックにしたところで、路面の凹凸に嵌ると大きな衝撃は受けてしまう。耐衝撃という意味での乗り心地はリア1本ショックだったアドレス110(UK110)・アドレス125V125より良いが、フラット感はアドレス125の方が高かったので、アドレス125とは引き分けということにしておこう。リア2本ショックでホイールサイズのより大きいシグナスXNMAXPCXなどには乗り心地はまずかなわない。

 スズキ原付二種スクーター直近4台=スウィッシュ、アドレス125、アドレス110、アドレスV125シリーズの運動性能に優劣(優>劣)をつけて並べると次のようになると思う。

 発進〜低速の直進性=125>110>スウィッシュ>V125
 中高速の直進性=110>125>スウィッシュ>V125
 旋回性・操縦性=V125>スウィッシュ>125>110
 乗り心地=125≒スウィッシュ>110>V125
 制動力=スウィッシュ>>125≧V125≒110

 収納力V125より向上したが積載性は落ちている。
 燃料タンクを床下に移動し、ホイールサイズを10インチに留めたおかげでさすがにトランクの収納容積は増えている。ヘルメットは画像の向きに寝かせることで、Mサイズのアライ:Quantum-JMZ、そしてOGKカブト:RT-33は問題なく収納できた。若干シートを上から押さえつけた感があるがOGKカブト:ASAGI(M)もシートを閉じることができた。4つのヘルメットのなかで一番安価なASAGIが一番収納し辛かったのが意外だった。インナーサンシェードを装備した分だけ左右の膨らみが大きいのだろう。どのヘルメットを収納しても若干の隙間が空くので、エアインテークの大きなヘルメットでも左右の膨らみが大きくなければ収納できる可能性がある。トランク内には1個のヘルメットまたはDEGNER NB-145(GSX-R125を参照)に加えて畳んだ上下カッパくらいなら収納できる空間が残っている。

 メットホルダーはシートヒンジの左右に金属製の突起が付いている。V125ではこの突起が外側に曲がっていたためにシートを閉じるまでの間に滑り落ちてしまうヘルメットもある間抜け仕様だったが、この突起を直立させてヘルメットが落下しないように改善された。さらにアライヘルメット1個につき2つ付いているDリングが2個とも通すことができる。たいていのヘルメットを左右に1個ずつ同時にフックすることができるだろう。

 フロントインナーラックの開口部は広くない。それでも多少パキパキ言いながら伊藤園の670mLペットボトルを立てることができた。角型ペットボトルなら720mLも立てることができた。左側には給油口があるので地図などの長尺物はもはや差し込むことができない。ペットボトルは中央寄りに挿し、右側はUSB電源に繋いだスマホを置くために開けておくことを想定しているようだ。

 フロアは幅が前側390mm後ろ415mmあり、長さは240mmある。ここに2Lペットボトル6本入り段ボール箱(幅335mm高さ315mm長さ195mm)を置いても干渉することなくシートを開閉できるが、かばんホルダー(コンビニフック)は設置位置があまり高くないので使用できなくなるし、足の置き場にも困る。フロア先端の傾斜箇所またはフロア後端に足をなんとか引っかけることができるが、タンデムステップは運転者が足を乗せると後方に畳まれてしまうので、運転者用のバックステップとしての効用はない。

 タンデムグリップ、取り回しハンドルとしても使用するリアキャリア(※2)の面積(幅175mm×長さ195mm)はアドレス125より小さいがフレームが太くて頼もしい。キャリア表面と後席座面はフラットに近く、後席からリアキャリアに跨って大きな荷物を載せることもできる。キャリアのフックはキャリア底面部分に4個しかない。ボディにボルトオンしている部分にフックが掛けられないわけではないが、もう少し掛けやすくするか、取り回しハンドル先端付近にも下向きのフックを1対設けてもらえると更に使い勝手が良くなる。フロントカウルにカゴの装着ができないので、リアキャリアの作りが丈夫になったことと、トランクの収納容量が増えたこと以外はV125より積載性とそれに伴う使い勝手は落ちたと言わざるを得ない。特にタンデムステップをバックステップ代わりに使えない点が惜しい。

 操作性は一部を除き良好。
 シャッター付キーシリンダーはキーを反時計回りに回すとON→OFF→シートOPEN。OFFの位置で押しながら反時計回りに回すとハンドルLOCKし、OFFの位置で押しながら時計回りに回すと給油口が開く、分かりやすい設計である。各種スイッチそのものはかつてのホンダ車と同じにものに見える。ウインカースイッチは尖っていて、左にも右にも合図を出しやすかったが、点滅中にカチカチ音がしないのが惜しい。その代わりウインカーパイロットランプは左右別に点滅する。
 ホーンボタンウインカースイッチはやたら近接していて何度か間違って触れてしまった。逆にハンドルグリップから各種スイッチが並んでいるインパネまでの距離をもう少し近くしてくれた方が左ブレーキレバーとホーンスイッチの同時操作がしやすくなると思う。

 メーターパネルはコンパクトだが必要な情報が見やすく表示される。エンジン回転バーグラフを最上部に、速度計は中央に大きく、その下に時計は小さく表示する。SELectボタンで距離計がODO→TRIP→オイルチェンジ計と変わる。ADJustで数字をリセットできる。

 燃料計の目盛りは5つある。燃料を目一杯入れて78km走行したら目盛りが4つになり、更に66km走行したら目盛りが3つになり、更に25km走行したら目盛りが2つになり、更に41km走行したら目盛りが1つになると同時に警告表示も同時に点滅した。ここまで210km走行して仮に燃費が40km/Lだとすると5.5Lタンク量から逆算して250ccしか残量がないことになる。念のためすぐ先で給油してみたら3.27Lしか入らなかった。燃費から逆算すると58.3km/L×5.5L=最大で320km航続できるので、比較対象区間を完走できたことになる。目盛り1つになって警告表示が出た時点でも1.8L程度残っている計算になる。せめて残量が1Lを切ったあたりで警告して欲しい。燃料タンクはアドレスV125Sより0.8L減量した。その一方で燃焼効率が向上しているのでガス欠するまで走るなら計算上の航続距離は変わらない。しかし警告の早さから、実質的な航続距離は短いし、毎回3Lちょいしか給油しないのはガソリンスタンドに申し訳ない気持ちになってしまう。

 灯火はウインカーのみバルブを継続し、他はLEDになった。ここにきてLEDヘッドライトが進化しつつある。照射範囲はスーパーカブ110(JA44)やクロスカブ110(JA45)の方が広いと思うが、照射力はスウィッシュの方が強いと思う。ロービームでは左右に60°程度、上下には3〜15m程度をメリハリつけて照射しつつ、その周囲をうっすら照らしている。ハイビームではロービームに加えて上下には車体直下から100mくらい先の路面・青看をも照射している。左右の照射角度は変わらないが、ロービームで照射していた上下の範囲は照度が増す。LEDポジションランプも被視認性向上に一役買っていることは周囲のクルマの反応で良く分かった。V125での夜間走行時に比べると、明らかに対向右折車はこちらの直進を待ってくれている。ハザードパッシングも周囲とのコミュニケーションを図るうえで有用な装備となろう。その一方でウインカーリレーキックスターターの省略は残念だ。えっ盗難抑止アラーム?うん要らない。誰も盗まないでしょスウィッシュなんか。

 ハンドル幅は実測で約695mm。ミラーtoミラーは830mm。適度に外側に張り出した5角形状のバックミラーは鏡面の淵部分にゆがみが無いわけではないが、アドレス110アドレス125よりも鏡面積が広くて後方が見やすかった。もしも両車のミラーに不満があるならスウィッシュのミラーに交換してしまうの手だと思う。

 試乗期間中に不具合らしきものはなかった。強いて言えばハンドルがわずかに右に曲がっていたが、ハンドル・ブラケット穿孔とボルトの太さ違いがもたらす調整可能なズレの可能性があるから今回は強調しないでおく。

 フロア高床化で劣化版シグナスXとならないか心配していたが、フロア先端に足を投げ出せばシグナスXリード125より姿勢が安定するので最悪の事態は免れた。持ち前の軽快さを武器に小賢しく走るV125も、落ち着き(安定性、静寂性)と社会性(省燃費、被視認性)を得て大人になったようだ。スズキ(S-)の新たなド定番となる望み(-WISH)をかけて開発されたが、この強気な価格設定は吉と出るか凶と出るか?

(※1) 参考までにアドレス125と動力性能差をもたらす可能性のありそうな部品を列挙します。

● ローラー・ムーバブルドライブ
  スウィッシュ(15g) 21650-33G80/アドレス125(18g) 21650-33G90
● ハウジング・クラッチ
  スウィッシュ 21220-41H20/アドレス125 21220-41H10
● リレー・スタータースイッチ
  スウィッシュ 31800-33G20/アドレス125 31800-49110
● コントロールユニット・FI
  スウィッシュ 32920-30K10/アドレス125 32920-10K20
● コイルアッシ・イグニッション
  スウィッシュ 33410-30K00/アドレス125 33410-10K00

(※2) リアキャリアに替えてリアスポイラーに交換可能
  ハンドルセット・ピリオンライダー 46200-31810 ボルト2本 01550-0825A ボルト1本 01550-0835A

2018.7.22 記述

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