スズキ・アドレス110
UK110

 長所: 1コスパ
 短所: 1標準タイヤ 2航続距離

 2015年に登場したアドレス110はかつて国内生産していた同姓同名の2stモデルとは異なる4stグローバルモデルである。今回試乗したのは慣らし運転直後の初期型UK110L5(インドネシア産)である。

 85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にしたところ、100mで63(63)km/h、200mで77(78)km/h、300mで81(90)km/h、400mで88 km/h、500mで92(95)km/h、600mで96 km/h 、700mで98(98)km/hに達し、まれに100km/hまで伸びた。下り坂では110(104)km/hまでは見た。カッコ書きはかつて試乗したアドレスV125S(UZ125SL0)の数字である。両車ともメーター読みだが、アドレス110は前軸に付けたギア・ケーブルで速度を拾い、アドレスV125Sは後軸に付けたセンサーで速度を拾うという違いがある。メーター値では進行距離ごとの到達速度は中間域でアドレスV125Sが有利であったが、実際に2台横に並べて発進加速を試したところ、UZ125K5が相手では出足から差を付けられて全く追いつくことはできなかった。UZ125SL0が相手では出足でわずかに負けていたがほぼ同じ発進加速で、中盤で追い抜き、そのあとは引き離していくことができた。ディオ110(JF58)が相手では出足から差をつけ、中盤以降は更に差をつけていった。64/75kgの負荷で交互に乗り換えたが結果は同じだった。しかし片方が見切り発進をするとどの車種でも追いつくのが難しい(笑)。どんぐりの背比べと言ったところか。

 アドレス110の出足は少々もさっとしているが中速以降は頼もしく伸びる。いわゆる加速の谷も存在しない。ディオ110(JF31)のようなストレスとは無縁であり、価格を考えれば十分な動力性能と言えよう。加速騒音規制が修正され、従来より賑やかになるのかと思いきや、結果はその逆でアドレスV125Sより常時静かなエンジン音・排気音である。

 比較対象区間304.7kmを走行したところ、オドメーターは310.1kmを指した。地図ソフトが正しいとするならば距離計は+1.7%の誤差となる。その区間の平均燃費は49.7 (47.0)km/Lになった。市街地走行でもそれに近い数字が出たが、こちらは他車種と条件が同じではないので、敢えて数値は伏せておく。

 排気量や出力が少ないにもかかわらず、アドレスV125Sと遜色のない動力性能を発揮しながら燃費も向上している。直近の加速騒音規制が弊害であったこともあるだろうが、ホンダeSPに絡めてSEP(スズキ・エコ・パフォーマンス)と名付けたこのエンジン、伊達ではない。

 ディスクブレーキ単体ではアドレス110の方が強力だが、タイヤのグリップはアドレスV125Sの方が強力でなので、制動力は引き分けとしておこう。
 乾燥路面で短制動を試したところ、リアのみだとキュッという音とともにスイーと滑ってしまう。フロントのみだと、フロントテレスコピックフォークがしっかりと受け止めてくれるので滑らなかった。その際、ハンドルとシートがわずかに接近する=フレームが曲がるのを感じた。フロントを強く掛け、リアはリアタイヤが滑らない程度に添えれば不満のない制動力を発揮する。WET路面ではリアのみだと簡単に滑り出し、フロントのみでも滑り出すことがあった。雨天で乗る人は前後タイヤの限界をその都度把握しておくことをお勧めしたい。
 標準タイヤはソロでもタンデムでも指定空気圧が200/225kPaである。銘柄はIRC:SS-530F/Rである。Inouesan SuberiSugite mou KouSanと覚えておこう。

 旋回性。スラロームでも後輪はちゃんと前輪に付いてくるし、ヒラヒラと軽快に動けるが、タイヤが細いのとステップから足が半分はみ出しているのでバイクを倒し込むのが怖い。タイヤ>ステップ>フレームの順にアドレス110の旋回性を落としていると思う。コーナーではアドレスV125Sの方が攻めやすい。
 一方、直進性アドレス110の方が有利である。フロントが軽くて発進時は一瞬ハンドルが怪しくなるが、その直後から速度を上げるほど安定性が増していく。中高速での巡航時はアドレスV125Sよりはるかに安定していてハンドルをわざと左右に振っても、元に戻そうとしてくる。Sh-modePCXほどではないが、いったん走り出せば安定指向の高いスクーターである。停止直後は1秒か2秒ほど足を接地しないで安定していられる。

 乗り心地アドレスV125Sと同等以上である。アドレス110はフロントサスペンションが比較的良く動くように思う。

 総じて乗り味は動力性能の高いモペットといった感じで、一般的なスクーター勢の骨太さは希薄である。その原因はやはり細くてグリップの低い標準タイヤにある。やはり舗装率の高い日本で使うには12インチくらいの太いタイヤがベストだと思う。アドレス110は後輪をワンサイズ太くしてみると面白くなるかも知れない。リアサスとリアタイヤの隙間は2cmほどあった。

 取り回しは異常に軽い。細いタイヤで接地抵抗が少ない。というだけではない。前輪は勿論のこと、ドライブベルトが絡んでる後輪までもチェーン駆動車のように軽い。リアキャリアも取り回しハンドルとしてきちんと機能する。標準装備するサイドスタンドを出すとエンジンが自動停止する。

 足着き性アドレスV125Sと同等である。シート形状が細いのでシート高がわずかに高くても両足ともにべったり接地してなお膝が少し曲がる。
 足置き性アドレスV125Sと比べて長短がある。長所はシートからフロアまでの高さが約48cmと余裕があり、私の体型だと太ももが水平より下がる=膝が持ち上がらないので腹筋や背筋に負担が来ない。短所はフロア面積が狭いこと。フロア横幅(先端で36cm後端で41cm)という狭さは新旧ディオ110と同等で靴裏面積の半分近くがフロアから追い出されて宙に浮いている。前後長(中央部で15cm)も短く足を前に投げ出すことが出来ない。面接時に椅子に座るようなきちんと姿勢を取る限りはアドレスV125Sより楽であるが、その姿勢をずっとキープしなければならない。後席用のステップをバックステップ代わりに使おうと思っても位置が高すぎて後ろ過ぎてしっくりこない。適度に柔らかいシートも短時間乗車では長所になるが、長時間乗車では姿勢を安定させるためだんだん上体が疲れてくる。長時間乗車では上体をストレッチしながら走る怪しいライダーになってしまった。

 居住性。シートそのものは72cmと長い。運転席部分として40cmあるが、後半は傾斜が付くのでケツの落としどころとなる有効長は27cmほどしかない。最大幅も26cmほどで座面積はアドレスV125Sと同等、長時間の単独乗車なら運転姿勢の自由度が高いアドレスV125Sが有利である。
 タンデムではアドレス110が有利である。後席部分としてのシート長は26cm、幅は前端22cmで後端14cmと後ろに行くほど狭くなるシートはディオ110に似ている。長時間ケツに優しいシートではないが、リアステップが同乗者寄りに移動しているしリアキャリアもグラブバーとして順手で握れるので短時間のタンデムなら実用になる。

 積載性
 リアキャリアは後半部分にだけ4箇所フックがある。先端にもフックがあれば後席からキャリアにまたいで大きい荷物をゴムフックしやすくなるのだが。予め4つ穿孔してある穴はGIVIに合う。耐重6kgのリアキャリアはBOXの取り付けを前提にしているようだ。
 面積の狭いフロアステップに荷物を置くとなると、高さ33cm前後15cm幅39cmまでの箱なら収まる。シート先端の出っ張りがフロア前後長を短くしているので、高さのある荷物を置くならば、高さ50cm前後12.5cm幅39cmまでの箱ならハンドル操作をなんとか妨げない。当然ながら箱を置いてしまったら足の置き場に非常に困る。フロアステップの先端が最も幅が狭いので、つま先か踵をフロアの端っこにほんのちょっと乗せることしかできなくなる。
 耐重1.5kgのフロントフックはフロアから45cmの高さに付いている。足をフロアに置くことを考えると高さ40cm前後15cm幅39cmくらいまでのデイパック、トートバッグ、買い物袋を引っ掛けるスペースと考えた方がいいだろう。取っ手が大きいビジネスバックはアドレスV125Sかばんホルダーでないと下げられない。

 左右に独立したフロントインナーラックは500〜600mlペットボトルが入る。メインスイッチを操作することを考えると右側は375mlキャップ缶に留めた方がいいが、左側はもう少し前後長を増やして1,000ml角型ペットボトルを収納できたら尚良かったと思う。

 収納力。同梱のヘルメットカバーで包んだアライのフルフェイス: RX-7RR5 のMサイズならばシートを押し込むことでシートが閉じることができた。アライのオープンフェイス:MZのMサイズも同様だった。フルフェイス: Quantum-JのMサイズならシートの浮きが少なくて RX-7RR5 MZより楽に閉まった。1万円程度で買えるフルフェイスモドキならば更に楽に収納できるだろう。ヘルメットに限った収納は横向きで入るアドレスV125シリーズの方が若干有利といったところか。

 メットホルダーはプラスチックの突起が左右に2か所ある。シートヒンジ付近の寸法に余裕がなくてMZDリング(顎紐の締め具)を引っ掛けるのに苦労する。フロントフックの方がまだ引っ掛けやすかった。

 ヘッドライトは35/35W(HS1)ハロゲンバルブをマルチリフレクトしたもの。ロービームは平均的な照射力だが、照射範囲は広い。ハイビームにすると照射範囲を上方に移動させ遠くの青看もはっきり見える。ハンドルマウントなのでクリッピングポイントも問題なく照射してくれた。対向車を眩惑していないか心配になるほどメリハリの利いた上方照射は暗黒の峠道で重宝した。ポジションランプも標準装備で被視認性も考慮している。

 ウインカーの被視認性は前後ともに物足りない。レンズ面積が狭いのと、日中、クリアレンズと白いボディによる反射光に負けて目立たないのだ。特にリアはテールランプから独立させた意味がないほど目立たない。逆行・順光・日中・夜間、全てを平均して最も被視認性の高いウインカーレンズ色はライトスモークだ。

 バックミラーアドレスV125Sより鏡面積が小さく後方視認性は若干劣る。しかし鏡の淵付近まで歪みがほとんどないし、ミラー可動部の動きがオイリーで調節しやすいにもかかわらず、走行振動でずれてこない。まるで日本製だった頃のホンダ品質のようだ。

 メインスイッチはシャッター付キーシリンダー。OFFの位置から左に捻るだけでシートが開いて給油口もシート下から現れる。OFFの位置からキーを押し込んで左に捻ればハンドルロックする。一番分かりやすいタイプである。ウインカー、ホーン、セルスタートボタンは従来のスクーターと同じ位置にあるが、これらのスイッチ、かつてのホンダ車やキムコ車に酷似しているのは気のせいか?リアブレーキロックシステムもホンダのお家芸だったような?どちらもディオ110(JF58)より使いやすい。

 メーターパネルの質感はアドレスV125(廉価版)並みである。スイープ機能も時計もトリップ計もない。ウインカーインジゲーターも左右共用である。この点灯が日中見えづらいのと、ウインカーの作動音もほとんど聞こえないので、何かに気を取られてウインカーを消し忘れてしまうことがあるだろう。速度は距離とともに前軸からケーブルを回して拾っていると思われるが、なぜか速度計にだけ不具合が発生した。走行中も・停止してカギを抜いても・速度計が動かなくなることが時々あった。

 燃料タンク容量は5.2L。タンクキャップも安そうなものに戻っている。市街地で40km/L走るとしてなんとか200km航続できるかどうかといったところ。毎日使う人にはアドレスV125Sの6.3Lタンクが羨ましい。

 今回のアドレス110は名前が同じだけで私が望んでいた復活とは異なるが、コストパフォーマンスの高さは素直に認め、下駄バイクとして推奨できる。
 残念な出力特性だった旧型ディオ110(JF31)の在庫処分品より数万円高くてもこちらを強くお勧めするし、質感と静寂性が欲しければ更に数万円追加して新型ディオ110(JF58)を選ぶのも良いと思う。
 スズキ唯一のDCP式FI車になってしまったアドレスV125シリーズも、もしかすると全て生産中止になる可能性もゼロではない。旋回性やグリップなどアドレスV125シリーズの方が優れる部分も多いので、もしもそうなるなら在庫がなくなる前にUZ125L3・SL3を入手しておいた方がいいかも知れない。

2015.7.27 追記/2015.6.2 記述

表紙に戻る