スズキ
アドレス125

 長所: 1居住性 2積載性 3価格
 短所: 1デザイン 2トランク収納力 3スイッチ配置 4個体差

 アドレス125は、平成28年排ガス規制に初対応させたスズキの原付二種スクーターである。今回は2017年に中国で製造されたUU125L8(L8=2018年モデル)に試乗した。UG→UZ→UKと来て今度はUUかよ、弱っそうな発音だな〜。

 足着き性は良好。フロア幅(前半42cm、後半45cm)は全体的に広いのだが、最後方だけは両脇を絞り込んでいて170cmない私でも両足をべったりと接地させたうえで更に足が伸ばせるようになっている。160cmなくても両足べったり接地できる人は多いのでは。小柄な人にもお勧めできる。

 着座姿勢も良好。フロント12インチを採用したから足元が少し心配だったが杞憂に終わった。フロアは低く抑えられてフラットな所に足(靴裏)を置いても膝の高さは水平まで上がってこない。傾斜している所に足(靴裏)を置いてシートに深く腰を掛けると170cmない私だと膝が一切曲がらないところまで足を伸ばせる。この状態ではシートを股に挟んでニーグリップすら可能になってしまうのだ。今まで取り上げた原付二種スクーターで最も適正身長の幅が広いと思う。ここまで足が伸ばせるのは運転席と後席に段差がほとんどなく、後席にケツを移動できてしまうからでもある。フロアの傾斜したところに足を伸ばせば前方向は踏ん張れる。しかし、シート段差にケツを押さえつけて後ろ方向に踏ん張ることができない。そのためスペイシー100で可能な自分のしっぽを追いかける子犬のような小回りがやり辛い。また、長時間走行では上体が徐々に仰け反ってくる。そこで登山用デイパックを背負ったまま後席に“着座”させてみたら後ろ方向にもいくらか踏ん張ることが出来るようになった。

 居住性は前後共に普及クラスのスクーターとしてはクラストップと言っていいだろう。
 シートの長さは約66cmあって運転席が36cm、後席が30cmを占める。シート表皮のグリップは良く、クッションも適度に硬くて、長時間走行でも疲れが少ない。後席の幅は前で28cm、後ろで18cmあり、面積はPCX(JF56)と同等。アドレス125には同乗者が手を掴めるリアキャリアがあるし、シート位置も高くないので乗降性も良い。約8cmしかないタンデムステップの幅をもう少し広げてくれれば文句がなくなる。

 取り回しは軽い。アドレス110(UK110)ほどではないが、CVT車にしては後輪の抵抗が少ない。車体は軽いのだが、タンデムステップ周辺のボディが幅広くなっていて車体を押して歩く際にボディが足に当たりやすかった。

 運動性能は良好。フロント径をリア径より大きくしてしまうと立ちが強くなって直進性と旋回性のバランスが悪くなる原付二種スクーターは多いが、絶妙なディメンションと着座姿勢の良さで良好なハンドリングを実現した例もある。スペイシー100がF12/R10インチスクーターでの成功例だが、アドレス125もいい線を行っている。フロント12インチで発進から安定しているうえに、リア10インチでケツの振りひとつで向きを変えられる。フロア傾斜箇所に置いた片足を踏ん張ることでステップ荷重でも向きを変えられる。けっこうヒラヒラと旋回できるが、コーナリングが楽しいというほどではない。高速域や横風に煽られると後ろから砕けやすいし、倒し込んでいくほどにリアサイドが接地してしまうのでは?という不安は大きくなる。
 リアタイヤも12インチだったらもっと良い動きになるだろうし、リアタイヤを10インチに留めるにしてもタイヤを太くするとか銘柄を変えるとか、シートに段差を設けるとか、まだまだ改善の余地はあると思う。どちらかと言うとバイク本体の運動性能というよりも着座姿勢がもたらす操縦性の良さだと思う。

 V125シリーズは前後10インチで発進直後と高速域の直進安定性に乏しいが、小回りが利いて旋回性も良かった。ステップの傾斜角度は緩くて操縦性も良かった。
 アドレス110(UK110)は前後14インチで速度を上げるほど直進安定性は高まるが、細いタイヤ・着座位置の高さ・フロアの狭さから、旋回性操縦性は特に良いとは思えない。ホイールサイズとそのジャイロ効果だけが長所だと思う。
 アドレス125旋回性を妨げない程度に直進安定性を高め、両車の短所を補ったという感じがする。これら3車種の運動性・操縦性を良い順に並べると、発進〜低速の直進性=125>110>V125、 中高速の直進性=110>125>V125、 旋回性・操縦性=V125>125>110、になると思う。

 F12/R10スクーターを操縦性のいい順に並べると スペイシー100>アドレス125>リード110・EX>リード125 になる。スペイシー100に負けるのは、アドレス125はシート段差にケツを押さえつけることができないので、車体を前後にホールドできないからである。その一方でリード兄弟に勝るのは足元が広くて下半身でバイクをしっかり支えることができるからである。

 加速力
 85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にしたところGPSは100mで52km/h、200mで66km/h、300mで72km/h、400mで79 km/h、500mで84km/h、600mで 87km/h、700 mで89km/h、800mで91km/h、900mで93km/h、1,000〜1,100mで94km/h、1,200mで平地最高速95km/hを示した。このときアドレス125のアナログメーターは101〜102km/hあたりを示しており、GPSを基準にすれば(101/95)/95=+6.3%または(102/95)/95=+7.9%で間をとると+7.1%程度の速度計誤差となろうか。下り坂ではGPS表示で105km/hまでは見ているが、もう少し伸びるだろう。
 進行距離ごとの到達速度をGPSで測定した今までのモデルと比較すると、400mでUZ125SL3に逆転、600mでUZ125L3にも逆転して後半が伸びる。出足はもっさりしているが後半が伸びてくるところはアドレス110(UK110)に似ている。アクシスZとは400m位まではいい勝負で、それ以降は引き離す。リード125(NHX125F)には出足から最高速まで全くかなわないが900〜1,200mは同じ速度が出ていた。市街地戦でモノを言うのは出足の100mなので、出荷状態ではアクシスZと同じく鈍足グループに属すると考えておいたほうがいいだろう。

 比較対象区間307.1kmを走行したところ、オドメーターは307.8kmを示した。距離計の誤差は(307.8-307.1)/307.1=+0.2%と推定する。その区間の平均燃費55.97km/Lだった。スーパーカブ110ならおそらく70km/Lに届くであろう流れだった。比較対象区間の平均速度はだいたい25km/h前後に落ち着く。ちなみに走行時間より停止時間が長かった市街地走行(平均速度15km/h)では40km/Lになった。アイドリングストップ機構を持たないスクーターでこの燃費は凄いと思う。次期型PCXにすぐに引き離されるだろうが、現時点ではアクシスZと並んで原付二種スクーターの燃費王であるかもしれない。

 アドレス125V125シリーズアドレス110と比べると全域で騒音と振動が減っている。アクシスZも走行中は静かで振動も少ないがアイドリング時の振動がやや大きめだった。これまで試乗したなかでディオ110(JF58)が最も静かな原付二種スクーターだと思っていたが、アイドリング状態から走行時にかけてはアドレス125が最も低騒音・低振動だったような気がする。これなら燃費面でも快適性の面でもアイドリングストップ機構の必要性を感じない。数年おきのバッテリー交換で従来の数倍払わされるなら、仮に普段の燃費がわずかに不利だとしても経済性は変わらない。しかもアドレス125キックスターターも装備しているので、ギリギリまでバッテリーを使用できるだろう。ちなみにアドレス125の新車装着バッテリーはFTX7A-BSである。

 すりぬけ戦闘力V125シリーズより明らかに落ちている。直進すりぬけは勿論のこと、ハンドル幅(グリップエンド間69cm、ミラー間83cm)、車体幅、ホイールベースが拡張しつつパンチ力が落ちているので渋滞停止中のクルマを縫うように移動するにもV125シリーズより大柄でもっさりした動きが気になる。特に車体幅が大きく影響している。左側端の縁石付近をヨチヨチと抜けようとした際、タンデムステップが開いてしまうことがある。これは太くなったボディの最外側に設置されたタンデムステップに、ゴムラバーが敷いてあるため余計に足に引っ掛かかりやすくなっているからである。バイクから下車して取り回している際にもタンデムステップが足に当たりやすい。タンデムステップはボディの内側にきちんと収めて欲しい。アドレス125アドレス“V”125の後継車とされているが、個人的にはヴェクスター125をスリム・軽量・合理化して復活させたモデルという印象を抱いている。通勤で我先に前進したいという方にはV125シリーズをお勧めしたい。

 制動力アドレスV125と同等かちょいマシである。標準タイヤはチェンシンC-922(F)で、サイズはスペイシー100、リード110・EX、リード125と同じF:90/90-12、R:100/90-10だった。
 短制動。DRY路面でリアのみ強く掛けると停止寸前にリアタイヤがスィ〜と流れる。WET路面でリアのみ強く掛けるといとも簡単にリアタイヤが滑って、ケツが右へ左へと流れる。フロントのみの制動はDRY路面ならフロントサスがなんとか持ちこたえる。高速域からの制動でなければWET路面でもフロントはなかなか滑らない。前後同時に上手く制動すればDRY路面ならきちんと止まるが、WET路面ならリアは依然として滑りやすいので加減が必要である。決して良いタイヤではないが、フロント1ポットピストン、リアドラムの制動力も大したことがなく、タイヤとブレーキでレベルが低いどうしバランスが取れている。前後“非”連動なブレーキで逆にコントロールもしやすかった。

 凍結防止のための縦溝が掘ってある路面では、前後輪ともに溝の影響を受けて微小な左右ブレを発生させる。DRY路面ではそれでも平気で通過できるが、WET路面になると悪さをする可能性はある。前後輪ともにもう少し太さとグリップがあれば安心感が増すだろう。

 乗り心地は“良い”と褒めるほどではないが、普及クラスでは最良ではなかろうか。さすがに陥没した路面にぴったり後輪が嵌ればアドレス125でも大きな衝撃は受けてしまうが、ほとんどの場合、カタ・カタンで通過できてしまう。アドレス125は前輪から受ける衝撃と後輪から受ける衝撃がいずれも“あっさり”している。高速域では前後がほぼ同時にバウンドし、クルマで言うところのフラット感すら出てくるのだ。サス、ダンパー、シートクッション、私の体重、剛性感などが偶然にうまくマッチしてしまったのか。
 綺麗な路面を走ればPCXの方が乗り心地は良いが、PCXは大した凹凸でもないのに腹の底から『はうっ』って声が漏れるほど強烈な衝撃を受けることがある。そういう裏切られ感がアドレス125にはないのだ(→もともと期待してない)。普及タイプのスクーターながら乗り心地に一切不満が出なかった事を、ひそかに驚いている。

 収納力積載性
 アドレスを名乗る原付二種スクーターで最もトランクの収納容積が少ないだろう。Mサイズ(帽体はLと共通)のアライヘルメット:Quantum-JMZで試したところ、どちらもシートを上から軽く押さえつけないとシートを閉じることができなかった。トランク底面には凹凸があってヘルメットの内装を圧迫している。エアインテークの大きなMZの方が押さえつける力がわずかに大きかった。ということはフルフェイスかつエアインテークの大きいRX-7Vだと厳しいかもしれない。ちなみにOGKカブト:RT-33(M)ではシートが閉じないどころではなく、帽体が内部形状に収まらなかった。尚、トランクの右後ろに小さいポケットがあり、中には工具が何点か入りそうだ。
 メットホルダーはシートヒンジの左右に2個プラスチックの突起が付いている。右側は角度を変えてDリングをアプローチしないと引っかけにくかったが、Quantum-J とMZの組み合わせなら左右どちらにしても同時にフックすることができた。

 フロントインナーラックは左右共に伊藤園670mLペットボトルが楽に入った。かばんホルダー(コンビニフック)最下部はフロアから46cmの高さにある。フロアに登山用デイパックを置いてもハンドル操作を妨げないばかりか、傾斜箇所に足を伸ばせるし、タンデムステップ(足を後方に動かすとすぐに畳んでしまう)にも足を置けるのでフロアを積載場所として有効活用できる。

 取り回しハンドル一体型のリアキャリア(幅18〜23cm、長さ21cm)はV125シリーズよりフレームが太くて頼もしい。キャリア表面と後席座面はフラットに近く、後席からリアキャリアに跨って大きな荷物を載せることができる。ヴェクスターでは上を向いた給油口に邪魔されて後席とリアキャリアが分断されていたが、アドレス125はシート下に給油口を設置したために積みやすくなっている。キャリアのフックは6個あるが、キャリア底面部分にしかない。ボディにボルトオンしている部分にフックが掛けられないわけではないが、もう少し掛けやすくするか、取り回しハンドル先端付近にも下向きのフックを1対設けてもらえると更に積みやすくなる。オプションのトップケース装着にも配慮してキャリアに穿孔が施してある。
 フロントにカゴを装着できたならベンリィ110と並んで原二スクーターの積載王になれたかも知れない。どうせブサイクなんだから、ヘッドライトとフロントタイヤの間をレッグシールドだけにしておくのは勿体ないと思う。

 

 操作性は一部を除き良好。
 シャッター付キーシリンダーはアドレス110V125シリーズと同じ仕組みで、キーを反時計回りに回すとON→OFF→シートOPEN。OFFの位置で押しながら回すとハンドルLOCKする、分かりやすい設計である。メーターパネル周辺がもっこり膨らんでいるのがヴェクスターのようだ。表示されるのはアナログの速度計とオドメーターのみ。
 各種スイッチそのものはかつてのホンダ車と同じにものに見える。ウインカースイッチは尖っていて、左にも右にも合図を出しやすかった。点滅中は懐かしのカチカチ音があるのがありがたい。カチカチ鳴るなら左右共用のウインカーパイロットランプは不要だと思う。
 ホーンボタンは単独では押せるものの、よほど手の大きい人でないと咄嗟のとき左ブレーキと同時に操作できないだろう。その原因は、ホーンボタンとウインカースイッチがセットでディマースイッチ(ハイビーム/ロービームを切り替えるスイッチ)からだいぶ下に移動してしまったためである。アドレス110V125シリーズに比べなぜこんなに離す必要があるのだろうか?これだったらディマーとウインカーの間にホーンを設けたホンダ車のほうがまだマシである。普段ホンダ車のスイッチを批判している以上は、この不満も指摘しておかなければ公平ではない。

 燃料計の目盛りは大きく見て4つ、更に細かく半分の位置で線を引いて7つぶん刻んである(3/4〜Eに刻みなし)ものの、針の動く幅が狭くて見にくいのと、走ると減り止まると徐々に増えてくるように針が絶えず微動するので、イマイチ燃料計が信用できない。針の位置が一往復して安定したかな?というタイミングで針の位置を見てみると、燃料を目一杯入れて130km走行したら針がFullの位置を指し、更に50km走行したらもう残量1/2の位置を指し、更に55km走行したら残量1/4の位置を指し、更に45km走行したらEmptyの位置を指した。燃費から逆算するとここから約50km走行するとガス欠になる。前半はいい加減だが、後半はだいたい50kmごとに指しているようだ。燃料タンクは6Lなのでツーリングするなら航続距離300kmは固い。燃料タンクキャップはプラスチックのバンドで本体と繋がっている。

 ヘッドライトは35/35Wのハロゲンバルブに5Wのスモールライトが付属する。双方が近接して常時点灯するので、5Wライトは何の役にも立っていない。せいぜい35Wのバルブが切れた際に対向車から見て真っ暗にならないだけである。ヘッドライトの配光特性は平凡なもので、LOWビームでは15m位先までを照らし、HIGHビームはLOWビームをそのまま上方にシフトさせたような照射で、明るくないまでも遠くの青看を反射するくらいには光が届く。7〜15m位の照射はLOWの方が明るく、濃霧中も乱反射が少ないLOWの方が使いやすかった。暗黒の峠道では専らHIGHビームの出番であった。35Wながらも操向方向を照らしてくれるし、ハロゲンならではの万遍のない照射はPCX、NMAX、エアロックス155よりも鹿を警戒しやすかった。
 ウインカーレンズが下に伸びているが、この目尻部分にLEDポジションランプ/LEDデイライトなんて気の利いたものは仕込んでない。被視認性V125シリーズ並みなので、通勤ユーザーは一工夫した方がいいと思う。被視認性といえば日光が当たっているとウインカーの点滅も対向車からは分かりづらい。いつも言ってるようにクリアウインカーレンズは避けるべきだ。

 直ちに健康被害が出るわけではないが、試乗した3台のいずれもハンドルが正面を向いていなかった。はじめの1台は気のせいだと思って右にどれくらい曲がっていたか良く覚えていないが、2台目は3cmほど右に、3台目は1.5cmほど左に、左右グリップエンド位置を基準にズレていた。2台目で比較対象区間を走行したので左腕が引っ張られ過ぎるという点が、長時間走行での唯一の疲労箇所であった。直進中にカバー・ハンドル・リアとカバー・レッグシールドのツラが合わないのですぐに分かると思う。アドレス125はハンドルバーとブラケットを重ね、両者に開けた穿孔にボルト・ストッパー・ナットを通すことでハンドルを固定するので、ハンドルバーが曲がっているか、ハンドルバーとブラケットのどちらか、あるいは双方の穿孔位置がズレてしまうとハンドル位置を修正できないのである。さすが彼の大国製ですな。個体差が大きく生じているので早急に改善して欲しい。外れを掴まされた方は、下記部品の無償交換を要求するべきかと思います。
 56110-10K00 ハンドルバー
 51410-39JA0 ブラケット・フロントフォーク・ロア

 名称が似ているアドレスV125とは性格が全く異なっている。キャラが近いのはヴェクスター125、スペイシー100、アクシストリートあたり。購買意欲を刺激するスペックは一切持たないが、低価格にしてはツボを押さえた内容だ。特に居住性についてはパンダのようにゆったりしている。悠々自適なゆぅゆぅは原付二種のボトムエンドを支える地味なロングセラーになりそうだ。

2017.10.26 記述

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