アビーキャロット
4stキャブ
バーハンドル

 長所: 1フルカバードボディ 2選べるハンドル形状 3燃費 4始動性
 短所: 1操縦性 2動力性能 3室内騒音(全開時) 4乗降性

 タケオカ・アビーキャロットは注文を受けてからほとんど手で組み立てるという。その製作にあたりスクーターをまるごと1台仕入れて様々な部品を移植する。だからどうしても値段が高くなってしまう。排ガス規制に対応して、従来は2stだったエンジンを今では4stインジェクションに更新している。複数のエンジンがラインアップされた期間もあるが、おおむね07年までの空冷4st・AF61E(ホンダ・トゥデイ、699,000円)、08年7月までの水冷4st・AF55E(ホンダ・スマートディオ、766,500円。アイドルストップ機能付きは788,000円)。08年8月からの水冷4stFI・AF69E(ホンダ・スクーピー、808,500円)、09年4月からの水冷4stFI・A312E(ヤマハ・ジョグ808,500円)と変遷している。

 アビーが特徴的なのは、ハンドル形状とブレーキ操作の組み合わせを3種類から選ぶことができる点だ。丸ハンドル車を選ぶと自ずとフットブレーキ仕様になる。これはクルマと同じ運転操作になる。バーハンドル車ハンドブレーキ仕様フットブレーキ仕様を選択することができる。前者はスクーターと同じ運転操作になり、後者はスクーターとクルマが混ざった操作となる。

 今回試乗したアビーは空冷4st・AF61Eを搭載したバーハンドル車のハンドブレーキ仕様である。このエンジンは中国で生産された50ccスクーター:ホンダ・トゥデイのもので、歴代アビーのなかで最も出力が低い。ハンドルもトゥデイから移植しているのでスイッチ操作も全く同じである。ハンドルから手を離して行う操作にワイパーサイドブレーキシフトレバーがある。左ブレーキレバーを握った状態を保持するパーキングブレーキ機能もトゥデイから引き継いでいるが、坂道で駐車するならクルマ同様のハンド式の駐車ブレーキを使うほうが確実だと思う。フットブレーキ仕様だと4輪同時に制動してしまうが、ハンドブレーキ仕様だと、右レバーで前2輪を、左レバーで後2輪を独立して制動できる点が面白い。

 シート形状は丸ハンドル車と同じだが、ペダルが無くなって窮屈だった足元に余裕ができた。足を前に伸ばしたり、あぐらをかいたり、つま先から股間にかけて荷物をびっしり詰め込むこともできる。こうなるとベンチ式固定シートも悪くない。座面と背中に一体となった座布団を当てるだけの簡易なシートであるにもかかわらず長時間乗ってもケツやコシが痛まなかったのは意外である。運転操作に足を必要としないので、下半身が不自由な人に向いた仕様か?とも思ったが、この小さいドアからスポーツカーのように低いシートにアクセスするには足腰にそれなりの筋力を必要とするので、積極的に勧められるものではない。ドアは右にしかないし、着座位置が低いので、ドアを大きく開ける所でないと健常者にとっても乗降性は良いとは言えない。

 ハンドブレーキ仕様のブレーキは油圧式ではないものの空走距離は短い。それは足で“踏み換える”より手で“握る”ほうが素早く動作できるからである。ただしトゥデイ2台分のドラムブレーキを1組のレバーで制動するので、より強く握らなければトゥデイのように制動できない。逆に握力に自信のある人が乗れば最も短制動できるミニカーにも成り得る。

 バーハンドル車ハンドリングにクセがある。パワーアシストがないので、タイヤが細くてもなかなかの手応えである。想像して欲しい、停止中の50ccスクーターに跨ってハンドルを左右に切ることを。停止・直立状態ではセルフステアが働かないので50ccスクーターとてハンドルは軽くない。アビーの場合はそれを2台横に並べてひとつのハンドルで操作するような重さである。停止中でも走行中でもハンドルの重さはそんなに変わらない。しかも初期のタッチだけでない。半テンポ遅れて反応する。これはタイロッドとステアリングを連結する部品の構造が児童用玩具車のように常にガタついているからだと思う。ロックtoロックは約1/6回転。ラック&ピ二オン式でも循環ボール式でもないので、ハンドルを切る角度がそのまま、前輪の動く角度という感じになる。初期タッチはノンパワステの軽トラック並みの重さがあるうえに、一度切れ出すと鋭く向きを変えてしまい、その方角に一心不乱に進んで行こうとする。だから直進時は常に修正舵を切り続ける必要がある。ハンドル先端で数センチの範囲で。また、操舵のたびにハンドルシャフトがギュッ、ギュッ、と鳴く。グリスアップしてもすぐに鳴りだすので、油だけの問題ではないようだ。丸一日このヘビークイックナーバスなハンドリングに付き合っているとひどく肩が凝り、バファリンのお世話になる。

 このハンドリングも時と場合によっては楽しめる。雨天時減速せず下りタイトコーナーに突っ込んでみた。ハンドルをクッと切るとフロントは過剰に反応し、およそ45km/h以上で後輪が滑りはじめた。すぐにカウンターを当てれば前輪もグリップを失って車体は斜めにスライドした。ささやかとはいえ、こんな非力なクルマでも慣性ドリフトができるとは(笑)アビーはミニカーとしては比較的着座位置が低く、ドリフトさせても転倒する危険が少ないf(- -;)

 バーハンドル車は乗車した状態でキャンバーがゼロ、トー・インが1mmで標準設定だという。直進性が悪いのであればキャスターとトー調整になるだろうが、直進そのものは悪くない。しかし、乗車状態のアビーを前から見ると前輪はハの字に開いてしまっている。ハンドルが重いひとつの原因はこれだろう。そこで乗車状態でゼロ・キャンバーになるよう、プラスのキャンバー角を付けたナックルアームを作ってもらった。スクーター用タイヤを履いているので、このままだとトー・アウトになってしまう。それを修正するためにトー・インも増やした。するとハンドルが軽くなり、ギュッギュッギュッと頻繁に修正舵を切り続ける必要があるほどの神経質な直進が、ギー・・・・・ギー・・・・・くらいのゆったりとした修正舵で済む直進になった。フロントサスペンションも良く動くようになって乗り心地も改善した。その一方で許容範囲内のロールが増え、ハンドルを目一杯切ったときに前進に大きな抵抗が生じるようになった。

 バイク用タイヤは寝かせた方向に曲がっていく性質がある。プラスにキャンバーを付ける(タイヤを足に見立てれば横脚にする)ということは自動車用タイヤよりも強いトーアウト効果を引き出すことになる。それでもハンドルを切らなければ互いのキャンバー角が相殺されて直進できていたが、ハンドルを切っていくことで徐々にターニング・ラジアスが狂ってきたのだろう。標準品と改良品の2つのナックルアームでいろんな位置にトーを調整してみたが、どちらも満足できるハンドリングは得られなかった。まあ、もともと小回りが効くので目一杯ハンドルを切ることは稀である。どちらかというとプラスキャンバーにした改良ナックルアームの方が私の好みである。

 アビーの車体を下から覗くと見るからに華奢な作りである。トゥデイから流用した10インチのフロントホイールにしても軸の一箇所だけで固定している。ナットが緩ければホイールはガタつくし、強く締めるとホイールの回転が重くなる。こんな設計ではどういじったところでクルマのようなハンドリングは望めないだろう。

 いずれにせよバーハンドル仕様のハンドリングは非常にクセが強いことに変わりないので、一般的には丸ハンドル車をお勧めしておきたい。まあ、丸ハンドル車にしても膝が浮いてそれはそれで疲れるのだが、、、。ハンドリングと着座姿勢ともにちゃんとしたタケオカに乗りたければEV車であるT−10ミリューRを選ぶしかないと思う。

 エンジンは空冷4st50cc3.7PS。Vベルト無段変速機が一体となったトゥデイのエンジンユニットをそのまま載せている。トゥデイの後輪を付ける代わりにアビー独自のデファレンシャルがここに連結される。なお、マフラーはそのままだとデファレンシャルに干渉してしまうので、迂回するように加工が施されている。

 重いから仕方ないが加速性能は低い。2輪車のライバルはスズキ・チョイノリである。登坂ではみるみる減速していき、勾配が緩くて35km/h、きつい坂にかかると20km/hまで落ちるのも良く似ている。かろうじて平地だけは55km/hまで伸びて引き離せるが(笑)。これが広い道路なら左側端を走行して右側からどんどん追い抜いてもらえばいいが、追い越しも困難な狭い道路だと交通渋滞を作り出してしまう。エンジン音的には30〜40km/hで巡航するのが相応しいが、周囲の空気を読むなら必然的に常時全開走行となるだろう。燃費は最も悪かったのが市街地走行の32.6km/L、最も良かったのがツーリングの39.4km/Lだった。ガンガン走ってこれだけいいのだから、30〜40km/h 定速走行なら45km/Lくらいまで伸びそうな気がする。

 別室とはいえ背中のすぐ後ろにエンジンがあるので、4サイクルになっても騒音は大きい。それでも音質は4サイクルのほうがまだ我慢できる。

 積載性はクルマと比べてはいけない。ヘッドレストが邪魔をしているので、キャビンからは大きな荷物は出し入れすることはできない。後方からにしてもリアハッチより寸法の大きなものは出し入れできない。ジャイロキャノピー(2st)ワゴンタイプより収納容積は多いが、開口面積の関係でピザの配達などには不向きだと思う。ジャイロUPに付く巨大な社外品BOXには収納容積でも負けるだろう。スクーターのメットインスペースよりか広いと喜ぶべきである。バーハンドル仕様ならハンドル操作にさえ支障がないのなら、足元にも荷物を詰め込めるメリットがある。

 窓はフロントだけ強化ガラスを採用し、側面と後ろはアクリルである。フロントガラスは湾曲が強くてワイパーの最先端はガラス面から浮いている。ワイパースピードもゆっくりとした1速のみで払拭性能は正直言って低い。梅雨になったらフロントガラスに撥水処理を施すことをお勧めしたい。サイドミラーは軽トラックの流用品である。近すぎない位置に左右対称に取り付けてあり、少ない視線移動でミラーを見ることが出来る。鏡面積も大きくとても見やすいミラーで気に入った。横窓は左右とも2枚ずつのスライドサッシになっていて、開口できるのは半分の面積である。風を取り込むには窓を後ろにずらして前方を開放したほうがいいが、走行中の振動で少しずつ窓が前にズレてくる。完全に閉じた状態でないと窓を固定することができない。ゴムクリップを上手く活用したい。

 バイク乗りにとっては非常にありがたいフルカバードボディだが、普段クルマにしか乗らない人が期待するような防寒・遮熱・換気性能はなかった。雨に濡れない・風に当たらない原チャリくらいに思っておいたほうがいいだろう。
 。わずかな隙間から冷たい空気が進入してくる。乗車直後は外気温そのもの。室内は吐息のぶんだけ外気温より数℃度あがる程度である。バス停で立ち待ちしても寒くない程度の衣服を着込んでおく必要がある。日が当たってくると室内がポカポカと暖かくなり、運転の疲れと合わせて居眠りを誘う。

 。寒ければ着ればいいのだが、暑くても服を全部脱ぐわけにはいかない。フロントガラスの湾曲のせいだろうか?とても温室効果の高いキャビンである。真夏日に直射日光が当たる状態で走ろうものなら汗がだくだく流れ、意識が朦朧としてくる。足元から空気を取り込める穴があるが、ここを開いたところで効果が低い。スライドウインド、ドア、リアハッチ、全てを外したくなる(実際外すことができる)。
 夜になって豪雨に見舞われた。窓を閉めきるとフロントガラスが曇るので、スライドウインドを開けざるを得ない。その場は街灯のない田舎道だった。ライトの暗さとワイパーの払拭力の低さで、前がほとんど見えない。単独走行ではほとんど前に進めないので、必死で先行車のテールライトを追いかけた。慣性ドリフトを経験したのはこの時である。

 原チャリでずぶ濡れになることに比べればこれでも天国なのだが、クルマの快適さに慣れてしまった人は、春一番、猛暑、夕立、降雪、極寒などの極限状態に耐えることはできないだろう。どれだけ効果のあるオプションか知らないが、ドア風取り入れウイング(\6,300)とデフロスター(\16,800)は新車で買うなら装着しておいたほうがいいかも知れない。サンバイザー代わりにツバつきの帽子も用意しておくと重宝する。

 燃費も含めた維持費は格安である。駐車場が付属した施設に入る時も、駐車枠以外の空いた隙間に堂々と入って行ける。しかし駅周辺での駐車となると話は別だ。原付規格であっても駐輪場への入場はほとんど断られる。こんなにサイズが小さくてもクルマと同じ料金を払って駐車場を探すときが一番悔しい。耐久性や利便性なども考慮すると新車で買うなら軽自動車よりもむしろ高い買い物になるかも知れない。

 軽自動車の優遇税制を廃止しようとする動きがあるという。どうしてもそれを敢行するというのなら、ミニカー規格真の軽自動車規格に昇格させるべきである。大義名分としては、公共交通機関に期待できない所でも移動の自由を確保すること。使用原材“量”を減らして環境負荷を低減すること。そのために、2人乗り、エンジンは250ccぐらいまで認めて欲しいものだ。そうすればアビーは激しく魅力的なミニカーに化けるに違いない。

タケオカHPアドレス紹介  http://www.takeoka-m.co.jp/

2011.1.28 記述

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