ヤマハ・YBR125

 長所: 1バランス 2コスパ
 短所: 1一部にチープな装備

 ヤマハ・YBR125は2000年にブラジルで生産が開始された4ストロークMT車である。
今回試乗したのは2008年以降に中国で生産されたキャブレーター仕様である。
2011年7月からYSPでもインジェクションモデルを税抜239,000円で提供している。

 小柄でスリムな車体ながらシートは少々高めで170cmない私が着座すると地面に両足の靴裏全体がぴったりと付いてほとんど膝が曲がらない。このシートは見た目よりもクッションが良くてケツに優しい。長時間走行では信号停止中に時々ケツを浮かせるだけで全くといっていいほどケツや足腰が疲れることはなかった。

 ハンドルはセミアップハンドルと呼べるようなもので、低すぎず高すぎず、170cmない私が着座すると軽く上体が前傾するネイキッドモデルとして理想的なポジションになる。おそらく175cm以上の人だと背筋が完全にピンと伸びるだろう。

 ホイールサイズは前後共に18インチを採用している。標準タイヤはCST(チェンシンタイヤ)製でサイズはF:2.75-18、R:90/90-18とビジネスバイク並みに細い形状である。
 乾燥路面で短制動を試したところ、後輪のみの急制動だと後輪がすぐにロックした。前輪のみあるいは後輪も添える程度に制動すれば車輪がロックすることなく停止できた。停止直後はハンドルを左右に小刻みに調整するだけで、足を接地せずにしばらく安定していられる。

 アイドリングは約1,400回転。1速でクラッチを繋ぐとグっと車体が前に出る。このときのトルク感はエイプ100エリミネーター125の中間くらいだろうか。発進直後にアクセルを戻してもなかなかノッキングしない。1,500回転を切ってはじめてノッキングするかどうかというほど低回転が強い。極低速ですりぬける際にもギアを1速まで落とさずとも2速の半クラッチで徐行できる。2,000回転からジワジワと加速でき、3,000回転から小気味良く加速でき、4,000回転をキープしておけばいつでも力強く加速できる。4,000回転ぐらいまでは静寂性も非常に高い。ちなみに5速4,000回転だと約50km/h出ている。普通に走るぶんには6,000回転(5速約75km/h)まで回せば充分にクルマの流れについて行ける。スピードメーターとタコメーターの針は4速でほぼ平行となり、5速だと回転計の針の方が下にくる。なぜそんな説明を?4速でももっと引っ張れるし、5速でも余裕で再加速できる、つまりどちらのギアでもトルクに余裕があるので、今4速なのか5速なのかどっちだったのか分からなくなることが時々あったからだ。YBR125は各ギアの守備範囲が広くて乗りやすかった。舗装路でXTZ125Eに乗った時は車格に対してエンジンがちょっと弱いかなと思ったが、YBR125では車格に対してジャストパワーだと感じた。

 85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にするとおよそ100mで70km/h、300mで90km/h、400mで100km/h、そして約800mで平地最高速105km/hを確認した。下り坂では115km/hまで確認できた。ギアごとの最高速はおおむね1速=約40km/h、2速=60km/h、3速=80km/h、4速=100km/h、5速=105km/h〜という感じである。勿論、全てメーター読みの大げさな数字であり、実際にはそんなに出ていないと思われる。

 YBR125のエンジンは単気筒らしく低回転から力強いうえに、レスポンスが良い。しかもバランサーを搭載してあるだけあって振動も低く抑えられている。4,000回転以下では非常に静かで風切り音のほうが強い位だ。6,000回転までは十分に快適である。7,800回転を超えるとさすがにビリビリと振動が出てきて、10,000回転に達する前に頭打ちとなる。高回転域の滑らかさは2気筒のCB125Tにかなわないが、機敏性YBR125の方が断然上だし、単気筒モデルとしては相対的に非常に快適である。動力性能も2速に変速するまでは同クラスの速いスクーターにわずかに後れをとるが、やがて追い付き、遮二無二なって回せばやがて追い抜けるかもしれない。

 比較対象区間304.7kmを走行したらオドメーターは315.3kmを指した。距離計にプラス3.5%の誤差があるとするならば、その区間の平均燃費45.6km/Lになった。市街地区間の燃費は33.9km/Lになった。どちらの燃費も最新のスクーター勢には負けるものの、乗り心地の良さなども加味すれば充分納得できるものである。燃料は11Lも入るので、ツーリングでは500km近く巡航できる計算になる。

 コーナリングでは前輪の立ち粘りが強いのでコーナー手前でやや強めに制動させてキャスターを立てた方がいいかも知れない。車体の寝かせる角度を徐々に増やしていくとリアタイヤのグリップが先に負けてアウト側に滑る傾向がある。コーナーからの立ち上がりでもやはりフロントの立ちが強い。フロントの立ちが強い点ではCB125Tにも似た傾向があった。標準タイヤのグリップがもっと良ければハンドル形状が良く低回転も力強いYBR125の方がCB125Tよりもコーナリングに有利だと思う。

 YBR125旋回性よりも直進性を重視のハンドリングであり、オフ車に近い性質と言えようか。前後輪のバランスから言うともう少しリアタイヤを太くして後軸を後ろにずらした方が旋回性は向上するのではないかと思う。純粋なスポーツバイクとして評価するとYBR125は前輪径が大きいわりに後輪がやたらケツに近い感覚があるのだ。

 左右2本あるリアサスペンションの路面追従性乗り心地は平均的なものであり特に良いとか悪いといった印象はなかった。車種比較すればスーパーカブ110なんかより明らかに乗り心地は良いが、CB125T125DUKEには及ばない。

 操作性
 スイッチ類はコンパクトで操作しやすい。サイドスタンドの他にもセンタースタンドが付いていて過密駐輪や整備の際に重宝する。クラッチレバーやブレーキレバーも軽くて操作しやすい。レバーが大きすぎるとか遠すぎるということもない。
 シフトチェンジ方向は通常のスポーツバイク同様に下から1-N-2-3-4-5。チェンジペダルは一応シーソー式になっていて、『つま先すくい上げ』でも『かかと踏み込み』でもシフトアップできる。一応、と言ったのはチェンジペダルの『つま先』側は他のスポーツバイク同様の外側(進行方向に向かって左側)への伸び出しがあるのだが、『かかと』側は左側への伸びが少なく内側に引っ込んでいるのである。シフトダウンもシフトアップも『踏む』ことで変速できるのは革靴を傷つけたくない人にとって長所なのだから、遠慮せずにシーソーペダルの『かかと』側をもっと外側に延長してもいいと思う、CD125Tのように。
 尚、インジェクションモデルではシーソー式ではなく通常のチェンジペダルになっている。

 装備
 メットホルダーはないので社外品を取り付けるか錠前を見つけるしかない。
 バックミラーは左ミラーの写像が右ミラーに比べて著しく歪曲しているのが気になった。このあたりはさすが中国製という感じである。
 ヘッドライトは暗くも明るくもない35/35W。ハイビームに切り換えれば暗黒の峠道の輪郭は照らせるが、もう少し明るくして欲しいというのが正直な気持ちだ。

 積載性。タンデムグリップ一体型のリアキャリアは荷台面積こそ小さいが、後席との段差が少ないので後席からリアキャリアにかけて大きな荷物を積むことができる。今回試乗したキャブモデルは後席の最下部・両サイドに荷掛け用のレールが付いていた。そのレールには荷掛け用のフックが片側に2個付いている。
 なおインジェクションモデルには残念ながらこのフック付きレールが付いていない。リアサスの付け根に付いているナットを荷掛けナットに交換する等の工夫をしないと従来の使い勝手は得られないだろう。

 居住性。運転者の背筋がピンと伸びる。ソロではいいことだがタンデムの際、同乗者に抱きつかれて互いのヘルメットが接触して運転者が不快になることがある。170cmない私だとわずかに背筋が前傾するので制動時にしか互いのヘルメットが接触しなかったが、もう少し背の高い人が運転すると背筋がピンと伸び、着座位置もたっぷり取るだろうから、同乗者との距離は狭まり、互いのヘルメットが接触する可能性が高くなる。同乗者には後端ギリギリに着座してもらいタンデムグリップを握ってもらったほうが運転に集中できる。後席の居住性はエイプ100D-TRACKER125などより良く、CB125Tにわずかに負け、スーパーカブ110(純正ピリオンシート装着状態)やCD125Tなどに劣る。スクーターと比べるならアドレスV125より良く、PCXよりわずかに良く、リード(110、EX)にわずかに劣るかな、といったところである。YBR125でのタンデムは多少暑苦しくなる可能性があることを想定しておいたほうがいいだろう。

 ヘッドライトが35/35W止まりであること、左ミラーの写像が右ミラーに比べて著しく歪曲していたこと、メットホルダーが標準で付いていないこと、始動直後はチョークを引く手間があること(キャブモデル)。試乗中に気になったのはこれくらいである。いずれも部品の装着や交換で改善できる範疇である。メットインスペースがないとか高速道路が走れないとかのジャンル違いの不可能性を持ち出さない限り、大きな欠点はまず見当たらなかった。

 外観は一昔前のネイキッドそのもので嫌みがない。性能的には何ひとつとしてクラス最頂点に立てないだろうが、動力性能と燃費とのバランスが良いし、走る楽しさも備えながら使い勝手も良い。ツーキングからツーリングに至るまで汎用性は非常に高い。個人的には次の下駄バイクとしてスクーターを差し置いてこれを買ってもいいかなと思わせるほどだった。

 インジェクションモデルになって始動性と燃費は向上していると思う。燃料タンクにシュラウドがついて見た目もカッコよくなった。しかし荷掛けレール、キックスターター、シーソーペダルを省略してしまったのは、YBR125を実用車として注目していた私にとっては残念な結果だった。

2012.2.25 記述


ヤマハ・YBR250

 長所: 1価格 2着座姿勢 3運動性能
 短所: 1ライト 2ダンパー 3足着き性 4ペダル位置

 YBR250も気になったので慣らし運転直後の2011年式モデルに試乗した。

 搭載されるエンジンはスペックこそ控えめながら低中速域で力強いと言われているセロー250系のものである。平地でアクセルを全開にすると、約100mで80km/h、250mで100km/h、400mで110km/h、500mで120km/h、1,000mで平地最高速の130km/h/9,000rpmを確認した。勿論これもメーター読みの速度であり、保安基準に定める+10%以内に収まっているのだろうか?という思いはある。感覚的には60km/hちょいかなと思ってメーターを見ると既に75km/hを表示している。

 アイドリングは約1,400回転。その音はカッタカッタカッタカッタと機織機(はたおり)を連想させる。1速でもクラッチミートだけで発進するとエンストしてしまう。3,000回転以上ならどのギアでも加速できるが、2,000回転から加速できるのは低いギアだけである。力強く加速したいなら4,000回転以上は回していたい。アクセルを捻って湧き上がるトルクはYBR250の方がずっと力強いが、低回転域での粘りは意外にもYBR125の方が強いようだ。

 静かなのは4,000回転までである。5,000回転以降はグルオゴゴゴォォォォン〜グゴゴゴゴ〜ン、、、(笑)と音が大きくなるが、振動については相変わらず少ない。普通に加速しても全開で飛ばしても音質・音量にはそれほど大きな変化はなく振動も少ないままだった。全体的にセロー250よりも振動が少なく感じたのはオンロードタイヤを履いているからだと思う。

 一般的にエンジンは気筒あたりの排気量が大きいほど音も振動も大きくなる傾向がある。YBRはバランサーを搭載しているだけあって125も250も共に単気筒としては振動が少ない。でもさすがに音量は250の方が常時大きかった。市街地走行の単独乗車に限って言えばYBR125の方が静かで快適かもしれない。

 比較対象区間304.7kmを走行したところトリップメーターは315.4kmを示した。距離計に+3.5%の誤差があるとするならば、その区間の平均燃費37.8km/Lになった。市街地区間の燃費は31.2km/Lになった。基本的には交通の流れに合わせて走行しているので燃費については動力性能が大きい分、燃料も喰うというのが分かる。

 シートが高い。170cmない私が着座した場合、片足をベタ付きにするともう片方はつま先立ちになる。ハンドルも高いので着座姿勢はわずかに前傾した良好なものである。見晴らしも良い。シートクッションも適度な厚みと弾力があって座り心地が良く、長時間走行においても肉体的な疲れはほとんどなかった。但しヘッドライトが35/35W白熱球という250としては非常にショボイもので、暗黒の峠道では目が疲れた。

 装着タイヤはSAKURA STREET SHARKという銘柄でサイズは F:100/80-17 R: 130/70-17である。短制動は車重に比してリアのドラムブレーキが弱いせいなのか後輪だけの制動でも比較的滑りにくかった。前輪を強く、後輪を添える程度に掛ければ乾燥路面ではまず滑らないだろう。峠道を攻めているときYBR125はいかに力を落とさないか意識していたが、YBR250ではコーナーに入るまでどれだけ減速しておくか意識した。車重・動力性能に対する制動力という意味においてはYBR125の方が有利なので、アクセルワーク重視のYBR125に対し、ブレーキング重視のYBR250という走り方になった。YBR250の最も気になった点はアジャスタブルロッドが組み込まれていないのでブレーキペダルの高さ調整ができないことだった。YBR250の着座姿勢そして膝の曲がる角度からして足首は水平になるわけはないのだが、ステップとブレーキペダルを結ぶ直線の水平に対する角度が浅く、ブレーキペダルに足を添えるには足首をほぼ水平に保持していなければならないのだ。最初は気にならなかったが、走行時間が長くなるにつれ、だんだん前脛骨筋が疲れてきて、しまいにゃブレーキペダルから足を離してしまった。これではフットブレーキの意味がなくなってしまう。空走距離が短いことがフットブレーキのメリットなのだから。

 リアサスはモノリンクサス。衝撃を優しく受け止めてくれるものの、通過したギャップが小さくても、ぽよ〜ん、ぽよ〜ん、ぽよ〜ん、ぽよ〜ん、と4回ほど常にバウンドする。減衰力が弱い。乗り心地YBR125より良いけれど、ちょっとお尻がだらしないという印象が残る。

 ハンドリングは素直で低速安定性運動性能YBR125より圧倒的に良い。125に比べれば全域でトルクもりもりだし、前後タイヤの太さ・車軸位置などのディメンションも良い。高めのシート位置からすばやく体重移動ができて旋回性も良好である。リーンインで積極的に自分の体重をコーナーに入れたくなってくる。純粋なスポーツバイクとして評価するならばYBR125は全くと言っていいほどYBR250にかなわない。YBR250がYamaha Brilliant Riding 250の略称であるならば、YBR125はせいぜいYamaha Basic Raft 125ってことで十分だろう。(税抜)12万円の価格差はこの運動性能の差に対して払うものだと思う。

 積載性は並みである。荷掛けフックがないので、リアステップやリアフェンダーにフックすることになる。前後席一体のシートを外すと車載工具と書類を入れるわずかなスペースが登場する。

 メーターパネルは必要十分な情報を提供する。速度計とエンジン回転計の針は5速でほぼ平行となる。燃料計は6つの目盛りで独立液晶表示し、その他は、時間→オドメーター→トリップ1→トリップ2→という順番に切り換え表示できる。これらは全てバックライトで照らされる。センタースタンドも標準で装備する。

 良好な着座姿勢運動性能が税抜き359,000円で手に入るのだからYBR250は貴重な存在である。しかし、メットホルダーがないこと、ミラーの淵際が左右ともに歪曲していること、ライトが原付並みに暗いこと、ブレーキペダルの高さ調整ができないことが気になった。減衰力の弱いリアサスなども含め、気になる所を全て交換したら、もはや安いバイクではなくなる。着座姿勢と運動性能の良いコンパクトスポーツが欲しいなら、私だったらKTM・200DUKEを待つ。YBR250はもう少し足付き性が良ければ女性にも積極的にお勧めしたかったのだが、、、、。

 もしもYBR125YBR250で迷ったら、2ケツする機会が多かったり、走ることそのものを楽しみたいならYBR250をお勧めするが、ほとんどが単独乗車で高速もまず使わないというならYBR125の方が経済的であるばかりでなく、むしろ快適であると思う。YBR125は利便性と経済性の中に少しだけ走る楽しさを加えた実用車であり、YBR250は中途半端にいいバイクなので後々不満が増えていく入門スポーツバイクである。

2012.2.25 記述

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