ヤマハ
グランドアクシス100

 長所: 1整備性
 短所: 1前後着座姿勢 2動力性能 3オイル燃費

 1998年は3社から相次いで2スト原二スクーターの新型が発売された年であった。
 3月発売のホンダ・リード100(101cc/229,000円)は当時の排ガス規制を先取りした。
 4月発売のスズキ・アドレス110(113cc/239,000円のちに255,000円)は走行性能と質感を向上させた。
 9月発売のヤマハ・グランドアクシス100(101cc/209,000円)は車体サイズ・エンジン・ホイールサイズを全て拡大した。カタログスペックの上ではアドレス110と同じ10ps・12インチホイール。それでいて当初から3万円も安く、デザインにもクセがない。それに騙されて多くの人が買ってしまったに違いない。

 マイナーチェンジは01年に排ガス規制に対応し、ディスクローターを155mmから180mmに大径化。03年に騒音規制に対応し、05年にヘッドライトをマルチリフレクター化、06年はメーカー希望小売価格を実態に合わせて税抜37,000円値下げして現在に至る。
 今回は慣らし運転直後の07年式モデルに試乗した。

 セルモーターとキック、どちらでもエンジンがかかる。随分と静かになったものだ。アイドリング時の小刻みな振動とマフラーから出る白煙、そして出足の一瞬の軽さで2サイクルと知れるが、2stらしいパンチはすぐに消えてしまう。低振動化・低騒音化と引き換えに発進加速が非常に穏やかになった。軽快感はあるものの、全然速くない。

 アクセルを全開にしてみると、約150mで60km/h、約300mで80km/h、約500mで平地最高速の84km/h(下り坂で87km/h)を確認した(全てメーター読み。以下同じ)。比較対象区間304.7kmを走行したところメーターは302.9kmを示していた。地図ソフトが正しいとすればメーター誤差はマイナス0.6%ということになる。発進加速はスペイシー100よりわずかに速く、昼間のスペイシー125とほぼ同等、リード110(4st)にわずかに負けるかどうかなという感じだった。どんぐりの背比べだが、出足から最高速まで終始ライバルとなるのはリード110であった。他社の2stモデルと比較したいところだが、ホンダもスズキも既に4サイクルに傾倒していて、2st最終モデルの新同車を見つけるのは難しい。

 ハーフスロットルならスムーズな変速も、全開にした場合は、アクセルワークに対して思うようにスピードが付いてこない。これだけトロくなってしまうと2サイクルのアドバンテージは値段の安さと取り回しの軽さだけになる。

 修正後の平均燃費33.5km/Lになった。前回試乗した01年式の駆動系改造車がツーリングで32.5km/L、市街地で22km/Lだったので、ほぼ同じ結果が出た。市街地短時間走行では2ストと4スト(キャブ)の燃費差は大きく出るが、流れに合わせて長時間走ると意外にも大差はないことが分かった。オイル燃費は修正値で793km/Lになった。ちなみにアドレスV100<CE11A>は2,705km/Lだった。ヤマハ:オートルーブはホンダ・スズキに比べて1Lあたり200円くらい高いので、これだけオイルを喰われると燃料代は結構差が出る。

 グランドアクシスは座った瞬間に違和感を覚える。運転席のフロアが高いし、フロア先端の幅が狭くて足の置き場が狭い。逆にフロア後端にいくほど幅が広く、地面に足を付こうにも股が開いてカカトが浮きやすい。足置きでみれば160cm以下の人がいいだろうし、足付きでみれば170cm以上の人がいいだろう。フロアの絞り込む場所を間違え、適正身長の整合性がとれていない。シートも下手に柔らかいので、腰を掛けるとケツが沈み込み、その分だけフロアも更に高くなる。ふくらはぎや腰が緊張し、それを庇うために無意識のうちに猫背やガニ股になってしまう。長時間走行では信号停止の度に腰をストレッチした。

 ライダーは出発直後から肉体的なストレスを感じるが、外から眺めるぶんには、こういう着座姿勢の悪いスクーターほど若々しく見えてしまうものである。

 2ケツ居住性。シートの長さだけは足りる。しかしリアステップが目を疑うほどに幅が狭く、パッセンジャーの快適性・安全性を全く考えていない。よほどシート長に余裕がない限り、パッセンジャーはライダーのケツを挟むようにして着座する。すると必然的に股が開くわけだが、リアステップの幅はフロアの幅しかないから、膝下は内側に畳まなくてはならない。結果、ステップに体重が乗らず不安定な姿勢となる。リアキャリアのアシストグリップ部分はケツの押さえになるが、最大積載量3kgと表記するリアキャリアに、その堅牢性を期待していいのだろうか?

 グランドアクシスのタンデムシーンを観察すると必ずと言っていいほど、前後席ともに着座姿勢が悪い。最悪な例では、同乗者の右足はマフラーの上に、左足はミッションケースの上に置かれている。中にはパッセンジャーの不安定をライダーへの抱きつきでカバーしようと、あえてリアキャリアを取っ払うアンちゃんもいるが、このグランドアクシス、単独乗車でも着座姿勢が悪いのだから、そんな状態で2ケツしようものなら、アツアツの気分を味わうよりヒヤヒヤする方が多いだろう。大切な人を後席に乗せる予定があるならグランドアクシスは絶対に避けるべきだ。

 前後12インチホイール+ワイドタイヤと長めのホイールベースで車体そのものの直進性や旋回性の素質はアドレスV100・V125、リード100・110、スペイシー100・125よりもいい。しかし、この着座姿勢の悪さがスムーズな荷重移動を妨げ、操縦性を大きく落としている。低速すりぬけでもバランスが取りにくく、結果として、ほとんどの10インチモデルよりも操縦性が悪いと言わざるを得ない。

 サスペンションは前後共に弾力が強い。サーキットのように路面状態が良ければ張りのあるサスペンションと評価できよう。しかし、一般道路の凹凸を速いスピードで通過すると、フロントサスが減衰する前に強い衝撃が体に伝わってきて、腹の底から『はうっ!』と声が出てしまうことがある。リアサスもポンポン跳ねる傾向が強い。速い衝撃に対応できないサスのようで、表面だけ柔らかくした硬質ゴムを履いているかのようだ。

 前回試乗したモデルは路面が凹凸していると、わずか30度のリーンウィズでも旋回中に車体が“ねじれる”ような違和感があったが、今回はそれほどの恐怖は感じなかった。それでも、この足回りに対してフレーム剛性は相変わらず負けているとは思う。

 ディスクローターを180mmにしても尚フロントの制動力が弱く、前後制動バランスが悪い。急制動では意識的にフロントの方をかなり強く握らないと、リアタイヤがロックしてしまう。走る・止まる・曲がる、の全てにおいてアドレス110の足元にも及ばない。それどころか、最古参のアドレスV100にさえ劣っている。

 収納力は当時のモデルで比較すれば並。メットインスペースは、内部照明はない。底面はデコボコしているが深さがある。Mサイズのジェットヘルメット:アライ・SZ-RAM3を逆さにしたらきちんと収納することができた。但し、ヘルメット周囲はグローブくらいしか入らない。メットインスペースは中身全体がプラスティックで出来ていて、スポンジ状の中敷きを外すと下に穴が開いている。中が汚れたら外装と同じように洗える。インナーラックは薄手のカッパを畳めば何とか入りそうだ。

 積載性は平均以下。アルミ製リアキャリアの最大積載量はわずか3kgである。フロントにカゴを装着できるが、荷物の入れ方/対向車の角度によってはヘッドライトもウインカーも隠れてしまう。運転席のフロアも狭いので足元にもほとんど荷物を置けない。

 機能面では、初めてイグニッションキーでシートオープンができるようになったモデルである。発売当初はグランドアクシスの最大の売りであったが、後にリード100にもアドレスV100にも真似されてしまった。イグニッションは右から順にON→OFF→メットOPEN。OFF+PUSH→ハンドルLOCK。ハンドルを左右にちょっと振らないとハンドルロックが決まらない。

 イグニッション横のレバーを下ろすとキー差込口がシャットアウトされ同時にリアタイヤもLOCKする。この状態を解除するには、レバー右下にあるもうひとつのキー差込口に同じ鍵を差さなければならない。イグニッションキーは閉じても、解除用の差込口はシャットアウトできない。ということは解除用の差込口がイタズラされたら元も子もないではないか。G-LOCK-KEY(ジーロック・キー)と書いてグロッキー(GROGGY)とでも発音しようか。

 細かい点で気になったのは次の通り。このウインカースイッチは左右スライドスイッチの中にプッシュキャンセルスイッチが組み込まれている。シグナスXも同じスイッチだが、個体差が大きく、動きが渋いものと滑らかなものがある。動きが渋いものに当たると、単に使いにくいだけでイライラする。動きが滑らかなものに当たると、厚手のグローブをはめて細かく指を動かせないときはホンダ・スズキのワンアクションスイッチに比べて操作ミスが少ないという利点がある。

 ガソリン給油口はシートを開けないと出てこない。普段は良くともツーリングの際、リアシートからキャリアに跨いで載せた荷物をいったん降ろさなければならないのは面倒だ。まあ、こんなバイクで遠出するのが悪いと言われればそれまでだが。

 フロアメンテナンスリッドを開けることで、オイル給油、プラグ交換、バッテリーチェックの全てが一度に行え、2st勢のなかでは整備性はいい方だろう。

 50ccでさえ40Wマルチリフレクターの時代にあって、35/36.5Wのライトではいささか物足りないが、マルチリフレクターの効果は確実に出ている。明るいとまでは言えないが暗闇に沈む峠道の輪郭は掴めた。

 排ガス・騒音規制のために動力性能が犠牲になるのはやむを得ないとしても、この着座姿勢を改善せずに10年も売り続けるのは一流企業だからこそなせる業。原付二種最安価は当然のことで、ヤマハというブランド名がなければここまで売れることはなかっただろう。

2018.7.15 更新/2007.2.18 追記/2002.6.9 記述

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