ヤマハ・アクシスZ

単独評価
 長所: 1デイパック収納力 2燃費 3後席居住性
 短所: 1ヘルメット収納力 2リアキャリア取り付け剛性
リード125と比較して
 長所: 1運転席居住性 2座り心地 3操作性
 短所: 1動力性能 2ヘルメット収納力 3リアキャリア
アクシストリートと比較して
 長所: 1燃費 2収納容量 3静寂性 4機敏性
 短所: 1運転席居住性 2直進性 3積載性 4ヘルメット収納力
アドレスV125(L3)と比較して
 長所: 1低速安定性 2収納容量 3後席居住性 4燃費
 短所: 1運転席居住性 2機敏性 3旋回性 4ヘルメット収納力 5積載性

 ヤマハは2017年4月から台湾で生産するLTS125=アクシスZを日本国内でも販売することにした。このスクーターはアクシストリートの後釜だと思うが、収納容量と後席居住性が売りという点ではリード125を追っているようにも思える。今回試乗したのは2017年製国内仕様B7A1である。

 運転席居住性はギリ及第点。足元は4型シグナスXよりわずかに広くアクシストリートより狭い。燃料タンクをフロア下に追いやったせいでフロアが高くなってしまっているのと、足を伸ばすところの傾斜角度がややきついのが、狭くて腰高な運転席をつくっている。そしてハンドルが妙に高いのと、運転席と後席の段差がはっきりしていて、ヒップポイントは限定されている。背筋をピンと伸ばして傾斜箇所に足を伸ばさないと踏ん張れない。案の定、長時間乗車で疲労したのは内股とケツだった。1時間おきにケツを休ませないと長距離はきつい。
 ?フロアの高さを5cm下げる。?足もとを10cm伸ばす。?傾斜角度を20°位下げる。?ヒップポイントを10cm後退させつつハンドルは5cm後退させる。?フロアの外側に運転者用の格納式ステップを設ける。?から?のどれでもいいからやってもらえれば運転席の居住性は改善されて操縦性も向上するだろう。
 シート表皮のグリップは良く、フロアにも靴裏が滑らないように表面にギザギザの凹凸を設けている。主観で運転姿勢の楽な順に並べると次のようになる。
 アドレスV125>アクシストリート>アクシスZ>4型シグナスX>リード125。

 足着き性は170cmに届かない私が運転席に深く腰をかけて両足共にべったり着いた状態で膝がほとんど曲がらない。着座姿勢も足着き性も165cm程度の人間がギリ我慢できるかどうかで合わせたのか?というくらい狭いなりにも整合性は取れている。身長が低いほど足もとに狭さを感じないが、逆に足着き性は悪くなっていく。身長175cm以上ならアクシスZはすぐに候補から外そう。

 リード125はフロア先端が絶壁なので足を伸ばして踏ん張ることができない。逆に足を伸ばさずフロアに両足を揃えて椅子に座るような形ならばアクシスZより膝は高く上がらなかった。それにしてもリード125のシートは薄くて硬くて座り心地が悪い。4型シグナスXアクシスZよりフロア先端の傾斜角度がきつく、フロアの前下がりも大きいので、足を伸ばして踏ん張る以外の運転姿勢は絶望的だった。4型シグナスXは運転席も狭いしシート下にはMZもQuantum-Jも入らない。そろそろ引退させたほうがいい。

  

 後席居住性。シートの長さは前後ステッチ間を測ると約65cmあり、そのうち29cmを後席が占める。シート表皮のグリップやクッション厚、面積も十分で、スタンディングハンドルも掴みやすい。着座姿勢や乗降性もいい。総じて後席はN-MAXシグナスXアクシストリートよりも良い。シート厚もあるのでリード125よりも快適だし、掴めるところがあるからPCXよりも安全だと思う。一点だけ気になるのは格納式のタンデムフットレスト(タンデムステップ)。これはワンタッチで出現するのだが、格納するときはそっと触れてあげないとうまく閉じてくれない。あまりにも繊細な操作を要求するので振動などで突然開いたりしないかちょっと不安になる。

 2ケツ操縦性アクシストリートN-MAXに負ける。やはり足もとが広くないスクーターは単独乗車のとき以上に操縦し辛くなる。運転者にも同乗者にも狭い思いをさせない“普及クラス”のスクーターは現状ないと思うが、格納式タンデムステップに換装してくれたならアクシストリートが“普及クラス”のベストになれたと思う。

 発進加速。85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にしたところ進行距離ごとのGPS速度表示は次の通りになった。100mで51km/h、200mで66km/h、300mで73km/h、400mで78 km/h(ここまで約22秒)、500mで83km/h、600mで85 km/h、700mで86 km/h、800mで88 km/h、900mで89 km/h、1,000mで90 km/h、1,100〜1,200mで91 km/h、1,300〜1,500mで92 km/h、1,600mで平地最高速93km/hを確認した。このときアクシスZの速度計は96 km/hを表示していた。GPSを基準にすると速度計の誤差は(96-93)/93=+3.2%と推定する。下り坂ではGPS表示で99km/hまでは見ている。

 比較対象区間(新)307.1kmを走行したところオドメーターは304.6kmを示した。距離計は−0.8%の誤差があると推定する。その区間の平均燃費は55.5km/Lとなった。この数字はアイドリングモードのDIO110(JF58)よりわずかに良かった。しかも必要以上の加速と渋滞を避けた市街地走行で60km/Lを超えることもあった。もしかするとアクシスZが原付二種スクーターの新たな燃費王になったかもしれない。

 スロットルレスポンスはアクシストリートより向上しているものの、まったりしている。ストレスを感じるほどではないが、出力を絞って、あからさまに燃費に振った感がある。動力性能と燃費の両立という点においてヤマハBLUE COREはホンダeSPに追いついていないと思う。

 静寂性アクシストリートアドレスV125より静かだが、DIO110(JF58)にはちょっと及ばないかもしれない。それとアイドリング時は少々振動がある。アクシストリートの振動は上下に揺れる振動だが、アクシスZは右斜め上と左斜め上に交互に揺れるような振動を感じた。振動方向をシリンダーに例えると、横向きV型2気筒と言ったところだろうか。
 取り回しがとても軽い。車重そのものも軽いが、チェーン駆動車のように後輪が軽い。アドレス110(UK110)でもすごく軽いと感じたが、駆動系に何か新しい工夫をしたのだろうか?これも低燃費に貢献していると思う。

 運動性能
 まずは旋回性。これはアクシストリート以上、アドレスV125(UZ125SL3・L3)未満だと思う。小径ホイール車ならでは半径の小さいスラロームをこなせるものの、シートもフロアもハンドルも高くて重心も高いのだろう。ではコーナリングでの倒し込みは楽か?と問われれば、確かに倒すのは楽だ。ラクだけどタノしくない。タイヤが前後同一形状という点もハンドリングを安定方向に振っていると思う。まったり系のエンジンと合わせて身軽さに欠ける。

 次に直進安定性。これはアドレスV125(UZ125SL3・L3)以上、アクシストリート未満だと思う。アドレスV125は発進時にハンドルがやや不安定になるが、アクシスZは発進時にハンドルはふわつかないが、アクシストリートみたいにキャスター角が寝ていないし、着座位置も高いので、アクシストリートほど安定志向なハンドリングではない。

 すりぬけ戦闘力。極低速での安定性はアドレスV125(UZ125SL3・L3)より良いので、直立状態を保ったすりぬけは得意である。しかし障害物の間を縫うようなスラロームを行うとフロアの高さが不安定さを醸し出してくる。すりぬけ戦闘力は平均レベルとしておこう。

 乗り心地はクラス平均以下で、アドレスV125(UZ125L3)と同等である。エンジン・駆動系・後輪までが一体化した一般的なユニットスイング式スクーターなので後輪からの衝撃が大きいのは仕方ないが、アクシスZは前輪からの衝撃がハンドルにまで大きく伝わってくる。着座姿勢や操縦性にさほど問題がないのに旋回性がイマイチで、乗り心地の良い時と悪い時の差が大きい原因はフレーム剛性ではないかと思う。アクシストリートほど車体前半と後半に差を感じるわけではないが、フロア付近が頼りなく、急制動をするとフレームの撓りでハンドルが遠くなるのを感じる。まあ、実用に支障があるわけではないが。

 制動力はこの動力性能からすれば十分である。乾燥路面で短制動を行うと、リアのみ強くかけると後輪が滑りやすい。フロントのみだとフロントサスが大きく沈み込んで慣性を受け止める。フロントを中心にリアを滑らない程度に併用すれば思いのほかしっかり制動してくれる。アクシストリートと同等でアドレスV125より高い制動力である。
 標準装着されていたタイヤの銘柄とサイズは、F:MAXXIS M-6219T 100/90-10。R:MAXXIS M-6220Y 100/90-10。凍結防止のために縦に溝が掘ってある路面でもタイヤが捕らわれることがなかった。この点はアドレス110(UK110)、DIO110(JF58)、PCX(JF56)等の14インチ組に対する大きなアドバンテージである。

 収納力
 トランクの中は前半部に大きな出っ張りがあって深さが足りない。公式サイトで収納して見せている2個のヘルメットは前方がワイズギア:SF-7で後方がワイズギア:YJ-14である。どちらもジェットヘルメットと呼ぶには心許ない商品である。37.5Lも容量がありながら、マトモなヘルメットは1個すら収納することができない。その一方で開口面積は広いので、登山用30Lデイパック(中には旅行向け小型三脚、中倍率ズームレンズ付き一眼レフ、工具、防寒着)と雨合羽とグローブをすっぽり飲み込むほどの収納容量がある。後端のカバー先にバッテリーがあるが、器用な人ならこの空間を加工してラケットを収納できるようにしてしまうだろう。
 ちなみにリード125の場合、前方・前向きにアライ:MZ(M/L)、後方・前向きにアライ:Quantum-J(M/L)を置いて、上から強引に押さえつけることでシートを閉じることができた。どちらか1個だけ収納する場合でもMZを後方に置くとシートが閉じないし、Quantum-Jを前方に置いてもシートが閉じなかった。登山用30LデイパックはアクシスZ同様に飲み込んでくれた。

 余談だが、トランクの耐重表記について前に貼ってあるコーションラベルでは1.5kg、トランク内に貼ってあるコーションラベルでは5kgと別の表記をしていた。たぶん前に貼ってある方は『トランク』ではなく『フロントポケット』の間違いだろう。そのフロントポケットにはコンビニ限定商品である伊藤園の670mLペットボトルがパキパキ言いながらなんとか突き刺さったので、500mLペットボトルならまず置くことができよう。

 積載性
 リアキャリアはオプション扱い。しかもスタンディングハンドルの後端・下側にボルトオンする構造である。3型までのシグナスXと同様に走行振動でBOXが上下に揺れる様が想像できる。税抜12,000円もぼったくるなら、スタンディングハンドルと交換装着するような頑強なリアキャリアにして欲しい。

 コンビニフック。回転収納できて上下のフックを捻ることでゲートの開閉をおこなうタイプでアドレスV125Sでも同様のものを採用している。この手のコンビニフックは荷物がフックにしっかりぶら下がっていれば上下にバウンドしても荷物が落ちにくいのだが、フロアに置いたカバンの手提げ部分をフックに引っかけて、手提げがフックに必ずしもぶら下がっていない状況ではフックが外れてしまうことがある。走行中に少しずつフックが回転して上下のフックがカバンの手提げ部分に重なると、バウンドした際に手提げがフックを捻って外してしまうのだ。この手のコンビニフックを採用するスクーターを@125時代から乗っているが、長時間走行で荷物が落下したことが何度もある。アクシスZに限った話ではないが、フックの開閉にバネを仕込むか、カラビナにした方が良いと思う。

 メットホルダーとしてシートヒンジ付近の左右に1個ずつプラスチックの突起が付いている。MZ(M/L)、Quantum-J(M/L)ともに辛うじて左右どちらにも引っかけることができたが、突起とシートヒンジをもう少し離してもらいたい。アクシストリートに比べ、突起が太く短くなった点でも引っかけにくくなっている。

 長さ19.5cm の2Lペットボトル6本入りケースをフロアにおいても2cm程度の隙間がある。リード125で試した長さ22cmの箱でもギリギリ置けそうだ。足もとに荷物を置いた際にもフロアの先端に踵を引っかけやすく、荷物をどかさなくても給油しやすいのがリード125に対する強みである。ハンドルが高いことの効用として箱の上にヘルメットを置いてもハンドルが左右に目一杯切れる。

 操作性その他。
 メインスイッチシグナスX 海外仕様のようにOFFやLOCKは勿論のこと、ONの位置からでもシートを開けることができるようになった。ただし給油口は鍵の挿し替えが必要である。
 ハンドルグリップに樽型の膨らみがあり、手の小さい人は太く感じるだろう。
 ウインカースイッチは一般的なプッシュキャンセル式を採用した。リレーのカチカチ音は省略された。ホーンボタンはウインカースイッチの下に設置されていて、ブレーキレバーとの同時操作もできる。どのスイッチも指が適度に滑ってくれて操作しやすいし、経年劣化しにくそうな手触りである。

 ヘッドライト はスタンレーのHS1バルブを装着していた。ロービームは5〜20m程度の距離を中心に横に広く照射する。ロービームでもけっこう使えるが、ハイビームにすると上下左右に照射範囲を広げ、遠い青看もクリッピングポイントも見やすくなる。35/35Wとしてはかなり明るいライトだった。
 ちなみに横向きと縦向きの画像は左ウインカーが最も明るく写っているカットを選んだものだが、貴方が対向車のドライバーだとして、ウインカーが点滅しているのが一瞬で確認できるだろうか? クリアーレンズの中で橙色のバルブが発光させるタイプだと、日光でレンズ自体が反射光を放つとウインカーが見え辛くなってしまうことがよくある。ウインカーレンズはクリアーよりもライトスモークにした方が昼夜平均して被視認性が良くなる。ポジションランプも光量不足で意味をなしていないばかりかウインカー視認の邪魔にすらなっている。メーターパネル上のecoランプもウインカーランプも日中は眩しくてほとんど確認できない。

 バックミラーアクシストリートと同じものだと思うが、その初期型より品質が著しく向上していた。鏡面に殆どゆがみがなく、距離感の掴みやすい立体的な映像を写してくれた。走行振動で角度がずれることもなく、普及クラスのスクーターとしてはベストかもしれない。

 燃料計がイマイチだ。不具合ではないと思うがメインスイッチをONにしてから燃料計の針が上がりきるまで非常に時間がかかる。そして勾配によっても燃料計の針が動く。上り坂ではEに向かい、下り坂ではFに向かうのだ。さらにはFからEまで4つ(正しくは3つのラインと赤い領域)しかラインが引いてない。満タンにして約100km走行して燃料計の針は最初のFラインに重なる。更に約50km走行すると2本目のラインに重なり、更に約60km走行すると3本目のラインに重なり、更に約30km走行すると最後のEラインに重なる。燃費から逆算してガス欠まであと60km走行できる。5.5L燃料が入るからガス欠覚悟で最大300km航続できるのだが、F〜Eのラインに収まっているのは140kmしかない。早め早めに給油することになるから燃費が良くても実用航続距離は長くない。

 想像していたより高品質な作りだったが、根本的な設計で釈然としない点が多い。フルフェイス・ジェットヘルメット収納を諦めるなら、アクシストリート並みの足着き性で女性ユーザーを安心させて欲しかった。タンデムスクーターを目指すなら操縦性向上のために運転席をアクシストリート並みに広くして欲しかった。買い物用下駄バイクに使うならアクシストリートのようにフロントにカゴを付けられるようにして、リアキャリア一体のスタンディングハンドルにして欲しかった。
 冷静に見れば燃費以外はアクシストリートの方が良い点が多い。メット1個だけならMZもQuantum-Jも収納できる。ウエイトローラー・クラッチスプリングの交換、格納式タンデムステップの新設。これだけでアクシストリートの魅力は増す。2世代前のエンジンでは新しい排ガス規制に対応できなくなるからアクシスZを代わりに持ってきただけのような気がする。アクシスZもいずれは値段勝負になるのだろうか?

 アクシスZは小柄なカップル向けスクーター。荷物は二人のデイパックに入れ、運転者のデイパックはシート下に収納し、同乗者はそのまま背負ってもらう。ヘルメットは2個ともホルダー掛け。そんな使い方ならレスオプションでもまあまあ使えると思う。

2017.6.2 記述

表紙に戻る