マジェスティ125FI

 長所: 1デザイン 2快適性 3運動性 4居住性
 短所: 1メーター誤差 2光軸 3極低速安定性 4制動力 5始動性(キャフ゛モテ゛ル)

 マジェスティ125は台湾ヤマハで生産される原付二種ソファスクーターである。今回は慣らし運転直後の08年式FIモデルに、その前は3,000km走行の05年式FIモデルと30,000km走行のキャブモデルに試乗した。マジェスティ125はデザインをまず誉めたい。周囲のビッグスクーターがどんどん下品になっていくなか、不思議と知性を感じさせる。男性が乗ると逞しく、女性が乗るとグラマーに見える。イルカのような優しいボディラインとボリューム感がそう感じさせるのかも知れない。

 FIモデルになって、始動性、静寂性、快適性、加速力、最高速、燃費、全ての面でキャブモデルから向上した。なかでも始動性の向上は顕著である。キャブモデルではエンジンが温まっていない時はセルと同時にアクセルを吹かさないと始動できなかったり、寒冷期は信号停止と同時にエンストすることもあった。FIモデルでは寒冷期、その日初めての始動でもセル一発で始動した。標準装備するキックスターターの出番は一度もなかった。

 振動も減った。アイドリング時にハンドルがわずかに震える程度で、走り出せば全くと言っていいほど振動を感じない。全域でエンジン音も下がって快適性に磨きが掛かった。加速力RV125EFIにはかなわないものの、キャブモデルに比べれば低回転域から力強くなったと思う。

 FIモデルに85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にしたところ約100mで60km/h、約200mで80km/h、約300mで90km/h、約400mで100km/h、約1kmで110km/hに達した。延々と続けば120km/hを表示することもあったが、大抵はそこまでは伸びることはない。出足の一瞬はシグナスXよりやや遅いが、ひとたび動き出せば規制前のアドレスV125と遜色のない中間加速で、高速域の伸びはこちらの方が上ではなかろうか。下り坂では128km/hを表示した直後にスコンと力が抜けるリミッター現象を体験した。

 ただし速度計の表示にはかなり違和感がある。感覚的には+10%どころではない。比較対照区間304.7kmを走行したところメーターは329.6kmを示した。距離計に+8.17%の誤差があるとするならば、その区間の平均燃費は40.6km/Lに修正される。これだけの重さのスクーターを小さいエンジンで引っ張ってこの燃費は大したものだと思う。同一区間での比較ではないが、同様の誤差を前提にキャブモデルの燃費を計算し直したら34.6km/Lになった。

 乗り心地が良い。特にリアの挙動がいい。左右両方にリアサスを付けただけではここまで良くならない。シグナスXでも同様に感じたがホイールベースの長いマジェスティ125はなおさらその印象が強かった。路面の凹凸を車体全体で鷹揚に吸収できるような構造をしているのだろう。特に30,000km走行のキャブ仕様に乗ったときは(サスがヘタってたのかも知れないが)、前後がほぼ同時に収拾するようなフラット感は高級セダンのような乗り心地だった。
 アドレスV125のような軽量コンパクトなスクーターだと路面からの強い突き上げでケツが浮いてしまうと、前方に投げ出されるのでは?という不安が伴うことがあるが、適度な重量があって、直進性が高く、高い位置にハンドルがあるマジェスティ125にその不安はほとんどない。前方が空いていればどんな速度でも安心して走ることができる。

 極上の直進性と比べると旋回性は少しダルさを伴う。ケツの振りひとつで車体を倒せるのはいいが、倒した車体を復帰させるのにワンテンポ遅れる。足を前に投げ出し、高いハンドルから手をぶら下げるコマジェのポジションは『乗せて貰う』にはいいが、積極的に体重移動して『操縦する』にはいささか横着な着座姿勢なのだ。極低速での安定性も得意なほうではない。

 シグナスXとマジェスティ125、どちらも運動性がいいが、直進性と旋回性のバランスをとったスポーツスクーターが欲しければシグナスXを、直進性を重視したクルーザーが欲しければマジェスティ125を選ぶといいだろう。

 制動力。もう少し強いブレーキが欲しかったが、このタイヤにこれ以上のブレーキを与えると危ないかもしれない。というのも乾燥路面での急制動、前だけ掛けても、後ろだけ掛けても滑り出したのだ。残念だったのは雨天時グリップに欠けること。雨天走行時にバンク状態でマンホールを通過すると後輪がツルンと滑ることは良くあるが、コマジェの場合、直進状態でもリアタイヤが滑り出す状況が頻発して怖かった。タイヤはダンロップD303(F)Aを履いていた。雨天時に乗ることが多い人はいっそタイヤを換えてしまったほうがいいかも知れない。

 運転席居住性はグランドアクシスやシグナスXより断然いいが、170cmない私でさえ多少窮屈な感がある。フロアトンネルがある(フラットフロアでない)事は関係ない。着座位置、フロアステップの高さ、膝の曲がり具合がもたらす着座姿勢がそう思わせるのだ。コマジェは、足とケツで踏ん張らないと股が開いてくる。これが極低速走行時のバランスの取りにくさにも繋がっている。

 なお、運転席シートバックはシート背面のネジを緩めることで5段階に前後調整できるが、付属するドライバーで調整を試みたらネジが舐めてしまいそうだった。
 FIモデルではシート表皮はグリップの良いものになっていた。たったこれだけでも長時間走行では身体がいくぶんラクになった。

 後席居住性はすばらしい。バックレスト(背もたれ)を標準装備しているし、着座姿勢・広さ・乗り心地・運転席との距離感・見晴らしなど、今をもってしても原二スクーターでトップクラスにあると思う。リアステップについてはもう少し幅を広げて安心感を増し、もう少し後方に伸ばして乗降性を向上すれば、後席に関してはもう何も言うことはない。

 フロントカウル内の収納スペースは左側にカッパ一着程度、右側にグローブ一対程度の空間がある。
 ハンドル下にいわゆるコンビニフックがある。フックの幅がヘルメットの顎紐の留め具よりも広くてSZ-RAM3を引っ掛けることはできなかった。フロアトンネルに干渉しない程度の物を引っ掛けることを想定しているようだ。

 シート下のメットインスペースは車体の大きさに比べれば小さなもので正直物足りない。だが、収納容量を増やすために、燃料タンクを足元に移動してフロアを高めるのは避けたいし、後席のヒップポイントを上げてタンデム時の重心を高くするのも辞めて欲しいし、ボディを膨らましてすりぬけ戦闘力を落とすのもご勘弁願いたい。さらなる収納を望むならリアキャリア+BOXを取り付けるしかない。

 開いたシートはダンパーによって車体の傾斜角度を問わず開いた状態に保つことができる。中身もトリートのように凸凹していないので、見た目の深さ以上に収納力がある。MサイズのジェットヘルメットSZ-RAM3は後ろ向き又は横に寝かせて収納することができた。
 ヘルメットホルダーは直接ヘルメットを引っ掛けるのではなく、シート裏側に仕込んであるワイヤー顎紐の留め具に通して引っ掛ける。この作業はしゃがみ込まないとできないので、夜間はかなりおっくうである。

 スクリーンは小ぶりである。RV125EFIやRV125iほどの防雨効果はないが、正面からの風をいなしてくれるので、メーターバイザーよりは役に立つ。スクリーンとメーターパネルの間には地図や雑巾を挟むに便利な隙間がある。

 装備は充実している。左ブレーキレバーを握った状態でピンを降ろせばブレーキレバーが固定され駐車ブレーキとして機能する。ハザード、パッシング、オイル交換時期警告灯はキャブ&アナログメーター仕様からあり、FIモデル(デジタルメーターモデル)では時計やイモビライザーも付いている。
 ヘッドライトはバッテリー点火方式の55/60Wなのでライトスイッチの存在が嬉しい。08年モデルで初めて気づいたのだが、光軸はかなり下を向いていてハイビームにしてやっと使い物になるレベルだった。光り方もぼんやりとしていて、55/60Wの割にはちょっと物足りなかった。以前の個体は光軸を調整していたのだろう。

 燃料は8L入るので航続距離が長い。給油口は、シート前端にある。この位置にあれば収納スペースを汚さずに済むし、絵的にはマズいが乗車したまま給油することができる。吹きこぼすともっとマズい絵に、、、

 マジェスティ125は高速道路を走れないことを除けばビッグスクーターに準ずる機能がある。それでいて安くてカッコいいのだからたちまち人気モデルとなった。正規輸入を期待されながらもヤマハは親マジェにばかり愛情を注いでいた。原付二種を疎かにしている間にホンダ・PCXが登場し、よく売れているという。コマジェの生産継続と正規輸入を上程したヤマハ社員はさぞかし悔やんでいるだろう。

2010.5.5 更新/2007.1記述

表紙に戻る