ヤマハ・シグナスX-SR
国内仕様

 長所: 1ライト 2運動性能 3操作性
 短所: 1着座姿勢 2タンデム操縦性 3加速力

 2003年に1型、2007年に2型、2013年に3型と言われるシグナスXが登場し、今回は慣らし運転直後の2015年製造・3型日本国内仕様に乗ることができた。結論から言うと、2型のガワのみを変更したマイナーチェンジと言える。2型からの改良点もあるし、4型より良い点もあるが、根本的な欠点は1型2型と変わらない。いくら格好いいからといって3型在庫に飛びつくのはお勧めしない。

 アグレッシブな外観とは裏腹に出足は穏やか。アドレスV125のK7まで、リード125等の猪突猛進タイプから乗り換えると不満に思うかもしれない。中間加速に谷があるという感じではなく、はじめっから湖底に沈んでいて、中間域でやっと水面下に上がって来る感じである。遅さよりもスムーズさの方が目立つので、50ccからステップアップする人なら不満に思わないだろう。加速騒音も加速特性に応じて発進から非常に静かである。2型台湾仕様のビート音もだいぶ失せた。国内の加速騒音規制に対応しながらも谷間をなくしてストレス軽減に努めた結果であろうか。

 85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にすると100mで63km/h、200mで74km/h、300mで81km/h、400mで85km/h、500mで88km/h、600mで90km/h、700mで92km/h、800mで94km/h、900mで95km/h、1,000〜1,100mで96km/h、1,200mで97km/h、1,300mで98km/h、1,400〜1,500mで99km/h、1,700mで平地最高速100km/hを確認した。(全てメーター読み、以下同じ)。
 出足が速くないのに後半になってもジワジワ伸びていく様は駆動系でデチューンされた車両の特徴だろうか?2人乗車時は常時全開での運用となるだろうし、登坂加速は格下であるアドレス110(UK110L5)よりも遅かった。3型国内仕様に乗るならウェイトローラー等を交換しても新車保障をしてくれるショップで購入したい。もし3型国内仕様のフルノーマルで我慢できるなら、シグナスXほど足元が窮屈でなく、値段も圧倒的に安いアクシストリートも候補に加えた方がいいかもしれない。

 比較対象区間304.7kmを走行したところオドメーターは300.3kmを示した。距離計の誤差は-1.4%と推定する。その区間の平均燃費37.3km/Lになった。

 運動性能は良い。発進直後からすぐに安定するし、停止直後も数秒間は足を接地せずじっとしていられる。旋回中の前輪と後輪の方向性には一体感があるし、走行中にわざとハンドルを左右に振っても後輪はちゃんと前輪を追うし、ハンドルもまっすぐに戻そうとしてくる。直進性と旋回性のバランスはとても良い。ホイールサイズとホイールベースもいい関係にあると思う。
 シグナスXズーマーX。バイク本体が持っているもともとの運動性能はクラス随一と言える。フロアの高さと足元の狭さが操縦性を落としているところも両者は似ている。
 ズーマーXは半身半魚である。倒立サス、トップブリッジまで伸びるフォーク、広いハンドル幅など、フロント周りに優れるが、リアのバタつきが残念すぎる。前半スポーツバイク、後半は平凡なスクーター。
 シグナスXは、直進状態ではぴったりだと思ったハンドル幅もバンクするほどにハンドル幅の狭さを感じるし、着座位置も高く感じる。

 乗り心地は綺麗な路面を流している際はPCXの方がいいが、PCXは路面の凹凸を拾って後輪からかなり強い衝撃を受けることがある。シグナスXは、路面の細かい段差も前輪がコツコツ拾うが、PCXほど強い衝撃を後輪から受けることはなかった。ちなみに段差を通過した場合、シグナスXがコツン・ゴチ・コツンのところ、アドレスV125はドッタン・バッタンとなる。シグナスXの車体剛性感はアドレスV125シグナスXの間で、PCX寄りにあると感じる。

 制動力はすばらしい。フロントには大径なディスクを採用している。短制動では意地悪にも後輪のみかければ路面状況に関わらず滑らせることはできる。同じく意地悪にもWET路面で前輪のみかければやはり前輪も滑らせることはできる。前輪を強めに後輪を添える程度にかけてやればまず止まれるだろう。標準装着されていたタイヤはMAXXIS(台湾製)のF:M-6219、R:M-6220という銘柄でサイズはF:110/70-12、R:120/70-12であった。このタイヤは滑った瞬間いきなりグリップが完全消滅するのではなく、すぐにブレーキを弱めれば比較的グリップを回復しやすい。とりたてて高性能とは思えないが標準タイヤとしては無難だと思う。凍結防止のための縦溝が彫ってある路面でもハンドルを取られなかったし、滑らなかった。少なくともPCXの標準タイヤより安心できる。

 着座姿勢。運転席は1型2型同様に着座位置が高く見晴らしはいい。しかし、フロアが高くて奥行きもないので足元がとにかく窮屈である。フロア=フットボード前面の傾斜角度は2型と同等だが、シート表皮は2型よりグリップが向上し、シグナスXのなかで比較すれば1型2型よりマシになったものの根本的な改善に至っていない。1時間も走行していれば内股が疲れてくる。内股を庇うために走行中、頻繁にガニ股にしたり、両足をフロア下に垂らしたり、猫背になったり、と。

 足着き性も良くない。シートの先端に座れば両足ともに地面にべったり着くが、足元に狭さをなるべく感じないように後方にケツをずらすと後席との境にある段差に座ることになるが、この位置では両足ともにつま先がやっと届くかどうかである。身長が170cmに満たない私でさえそうである。足元に狭さを感じないのは160cm以下の人だろうし、べったり足着く人は175cm以上の人だろう。足置きと足着きで適正身長の整合性が取れていないのは1型2型同様である。

 足元が狭いなりにもフロアステップの左右先端に足を引っ掛けられるし、グリップの良いシートにケツを当てた3点支持で短時間であれば良好な操縦を可能としている。長時間走行ではやはり内股と背中はだいぶ疲労した。

 ちなみに現行ヤマハスクーターで足着き性と足置き性の整合性が一番取れているのはBW’S50だと思う。次にいいのがトリシティ125、アクシストリート、グランドマジェスティ400あたり。あとは足着きと足置きのどちらかあるいは両方に不満がある。

 後席は格納式のタンデムステップが標準装備され同乗者は足置きが楽になった。運転者が足を接地しようとするとタンデムステップに触れるので、そこに足を乗せた同乗者のつま先は信号停止の度に弾かれてしまう。シートの長さは十分にあるが、2ケツ操縦性を改善しようと運転者が後方にケツをずらしたくなるので、同乗者も後方に行きたくなる。同乗者のケツはスタンディングハンドル(タンデムグリップ)とシートの境界に落としても安定する。この座り方の場合は4型よりもケツ当たりが良かった。

 積載性収納力
 原付二種スクーター国内現行モデルとしてはリード125に次いで容量の大きいメットインスペースだが、前半部分は深さがないので、半キャップ1個すらまず入らないと考えて頂きたい。前半部分に手荷物を、後半部分にヘルメット1個収納するイメージである。Mサイズのジェットヘルメット:アライMZは強引に押さえないとシートが閉じなかった。Mサイズのフルフェイス:アライQuantum-Jはもっと強引に押さえないとシートが閉じなかった。ヘルメットはこれら未満の大きさでしかバッチリ収納できない。
 収納スペースの長さは十分にあり、シールドを半開したジェットヘルメットを貫通させる形で小型三脚を同時収納することもできた。

 メットホルダーはプラスチックの突起が2本生えているだけだが、突起の長さが十分にあり、シートヒンジ付近も混み合っていないので、MZであれば右にも左にも逆さにしても引っ掛けてシートを閉じることが出来た。

 右ひざ付近にフロントポケット(インナーラック)がある。深さ高さに余裕があるのでペットボトルは1,000mlまでのものが収納できたが、走行中に動いてしまうので、気になるならウェスなど同時に入れておこう。コンビニフックが足元中央にある。

 オプションの純正リアキャリアは税抜きで12,000円もする。カラーを噛ますもののキャリア自体は2型と共通でスタンディングハンドルの下からボルトオンする危うい構造である。キャリア上に取り付ける箱と荷物の重さ、それに加えて同乗者がよりかかるのが分かっていて耐荷重5?と表記するのは逃げているとしか言いようがない。

 操作性
 給油口は左ひざ付近にある。台湾仕様だとメインスイッチの操作で給油口が開くが、国内仕様だと給油口の蓋をめくってカギを差し替えなければならない。燃料キャップはヒンジ式で本体に繋がっていて落下の心配がない。燃料キャップをちゃんと閉めないとキーを抜けない。ということは給油中にその場を離れることができないし、鍵の紛失も予防できるわけだ。
 シートはメインスイッチOFFの位置でもハンドルロックの位置でもキーを反時計回りに回すと開くとのことだが、この個体では後者での操作精度がイマイチだった。

 ハンドル左側のスイッチは上から順にハイビーム/ロービーム切り替え、ウインカー、ホーンと並んでいる。親指以外の指をハンドルグリップやブレーキレバーに置いたまま、どのスイッチも親指で無理なく操作できるよう、3つのスイッチが親指の付け根を円心とした円弧状に配置してある。全てのスイッチをブレーキと同時操作できるのだ。これは地味にすごいことだと思う。

 マルチファンクションディスプレイ(メーターパネル)は豪華だ。右にはアナログ式のタコメーターが、左には青いバックライトの上に白い文字で燃料、時計、速度を常時表示し、距離計をODO→TRIP→オイル交換時期のいずれかをセレクトボタンで選択表示する。このメーターパネル、パネルの角度が水平近くに寝ていて反射しやすいうえに文字が白いので日中はかなり見え辛い。速度計と燃料計は辛うじてまだ見えるのだが、距離計と時計は走行中にチェックするのは諦めたほうがいい。燃料計の目盛りは5つあり、これが4つに減るのに90km以上も走行を要する。そのあとは約35kmごとに減っていった。メーターパネル内にマーカーランプの点灯を知らせる表示灯があるが、メインスイッチがONの位置にあればエンジン始動前でもマーカーランプが点灯するので、あまり意味がないと思う。何かの表示灯に充てるなら、ロービームが切れたら点灯するバルブ交換警告灯にしてはどうだろうか。

 ミラー。鏡面は端になると若干歪んでいるが、ミラーに自分の体があまり入り込まないほどミラーアームが左右に張り出している。後方視認性はかなり良い。鏡面積の広さ、ミラーアーム全体もカバーされて錆びを予防している点で、4型やマジェSのものよりいいと思う。

 画像は左がハイビーム、右がロービーム点灯状態である。55/60Wハロゲンバルブをマルチリフレクトしたヘッドライトは夜間、雨天時はとても頼りになる。マーカーランプが白色LEDになった。個人的にはスペイシー100・125、リード110・EXのようにウインカーをマーカーランプとして光らせたほうが目立つと思うが、ヤマハは、拡散のハロゲン、輝度のLED、光り方が異なるライトを並べておく方法を採用した。まるで白いひげのようだ。テール/ストップライトも輝度の高いLEDに変更された。リード125のLEDテールライトより表面積は大きいが、2型よりテール面積が減っている。

 発進加速についてはウエイトローラー等を軽いものに交換するなどして改善できるだろうが、フロアステップの狭さと高さが操縦性・快適性を殺している点は部品交換で済む話ではない。シグナスXの唯一にして最大の短所であり、私がシグナスXよりもPCXアドレスV125を人様にお勧めする最大の理由である。

2016.1.4 記述

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