タイヤマハ
フィラーノ

 長所: 1足着き性 2取り回し 3操縦性 4操作性 5価格
 短所: 1収納力 2航続距離 3フレーム剛性

 今回試乗した2012年式フィラーノはタイで製造されたファッションスクーターである。台湾で生産されるJOG CIAO(ジョグ・シャオ)と基本構成が良く似ているが、フィラーノにはフロントディスクブレーキが装備されている。

 メーターパネルは大きさ、バックライトの光りかたで●スパを思わせる。シートやフロアパネルのベージュカラーも同様だが、質感はかなり低い。もう少し濃い色にしたほうがよかったと思う。

 速度計は目盛りとなる直線の長さに長短があることと、速度表示が偶数×10km/hしか刻んでないので読みづらい。
 燃料計の針も100km走行してもまだFULLより上なのにいったんFULLの位置を過ぎたらわずか35kmの走行距離でEmptyの位置まで一気に下がる。その先はまた針の動きが鈍くなりはじめるので、早めに給油することをお勧めしたい。フィラーノに限ったことではないが、もう少し精度の高い燃料計が欲しい。
 速度計、燃料計のほかはオドメーター、ウインカー点灯表示灯、ハイビーム警告灯があるのみである。

 操作性。
 イグニッションキーは使い易い。特にシートについてはカギを刺しておけばいかなる状態でも開けることができる。ハンドルロックする前にも後にもエンジン始動後にも暖気したまま開けることができる。PUSH+右捻りで給油口がハンドル左下からパカッと開く。パイプが白いのでガソリン(オレンジ着色)が見やすく、セルフ給油しやすい。
 ウインカーはグランドアクシスやシグナスXのように左右スライドスイッチの中央にキャンセルスイッチが組み込まれた別体式ではなく、ホンダやスズキのような一体型のプッシュキャンセル式スイッチを採用している。やはりこちらのほうが使い易い。使う機会は少ないだろうがハザードスイッチまで付いている。
ハイビーム/ロービーム切り替えスイッチは少々動きが渋かった。
 ヘッドライトは通常の35/35W(HS1)で、今どきのマルチリフレクターレンズ車と比べると照射がぼんやりしている。夜間走行は気を付けよう。
 ブレーキレバーは若干開きが大きくて、手の小さい人で握りにくい人も出てくるかもしれない。
 丸型バックミラーは鏡面に歪曲はなく写りに問題はない。ミラーtoミラー(両幅)、はグリップエンドからほとんどはみ出ないため、すりぬけの邪魔にはならない反面、後方視認性がイマイチである。
 標準装着されるサイドスタンドには安全装置がなく、カブ同様に出しっぱなしでも走行できてしまう。
 シート表皮はビニール調。グリップはいいが見た目はチープだし、表皮はジーンズが色移りした。汚れが目立つ色かも知れない。ケツ当たりは優しいがコシはある。

 収納力は平均に劣る。シート下に収納できるヘルメットは欧州で流行っている半キャップとジェットの中間的な形状のものまでである。庫内の凹凸は惨くないので、ライディングジャケット、レインパンツ、グローブ、ゴムネットの4点は同時収納ができた。
 イグニッションキーの下にポケットがある。開口部が広いが底が浅いのでドリンクホルダーとして使うには280mlペットボトルがせいぜい。ミニポーチやスマホ入れと考えたほうがいいだろう。
 メットホルダーはシートヒンジ取付け部にあるプラスチックの突起が左右に付いていて、Mサイズ(帽体はLサイズと共通)のアライ製ジェットヘルメット:MZを引っかけることができた。

 積載性
 フロアに荷物を置くと足の置き場に困る。前は傾斜角度が強いし、後ろには全く足を置けない。ではピリオンステップをバックステップ代わりに使おうとしてもちょっとの動きですぐに後方に格納されてしまう。ではではそうならないようにもっと後方に腰をかけようとすると今度はハンドルが遠くなるし、足が接地しなくなる。標準状態ではハンドル下にあるいわゆるコンビニフックだけが頼りである。
 タンデムバーそのものにゴムネット等をフックできなくもないが、シートバンドやシート淵などのように、手前にフックできる場所がないので、荷台として機能しない。積載性を向上させるにはタンデムバーを取り外し、現地で流通するリアキャリアに交換するしかない。フロントにも本家ベス●さながらの格納式のフロントキャリアを装着できるのだが、これを上下に動かしたところで積載性が大きく変わるわけではなさそうだ。可動構造にして無駄に重量を上げるよりも荷掛けフックを付けるなどして実用性を向上して欲しいものだが雰囲気重視のスクーターには、、、。

 足付き性は良い。身長が170cmない私が着座して両靴底がべったり接地してなお足が前方に伸ばせる。フロアステップ前方の傾斜角度や着座した際のハンドル―シート―ステップの位置関係はグランドアクシスに良く似ているが、シートにコシがあるため座った直後にも着座姿勢は悪くならない。長時間走行では股が少々疲れたが、足腰・首肩は疲れなかった。燃料タンクをフロア下に収めたにも関わらず、まずまずの居住性を得られた。フロアステップ前方の傾斜角度がもう少し緩くなれば、着座姿勢は長所にすらなり得る。

 2ケツ居住性も十分である。車体サイズはグランドアクシス並みだが、後席の長さに余裕があり、乗降性着座姿勢のバランスが取れた位置に格納式のピリオンステップが装備され、タンデムバーも順手・逆手どちらでも握りやすく、短時間であれば野郎どうしの2ケツでもなんとか実用になる。シグナスXよりもトリートよりもフィラーノはカップルに向いていよう。

 取り回しはとても軽い。前後12インチホイールと長めのホイールベースで直進性も良好である。タイヤはベトナム生産のMAXXIS(マキシス)M-6219/6220を履いていた。(F:90/90-12 44J R:90/90-12 54J)。この車体に丁度良い太さで、腰を動かすだけでヒラヒラとバイクの向きを変えることができる。シートの硬さ、タイヤの太さ、車軸の高さ、フィラーノにはグランドアクシスがこうすればもっと操縦性が良くなったのにという要素がいくつもある。しかし派手に寝かせていくとさすがに怖くなってくる。路面状態が良い直進でも80?/hを超える頃には私の体はビビリはじめる。これはフレーム剛性に起因するものだと思う。

 制動力。乾燥路面で前だけ後ろだけ急ブレーキをかけてみたらどちらの場合も車輪がロックした。しかし滑り出す前にタイヤが鳴るのでブレーキレバーを緩めるタイミングは分かりやすい。前後同時にかければ制動距離は短縮し、タイヤが鳴るのも遅かったが、それでも滑り出す危険は乾燥路面でさえゼロではない。1ポッドキャリパーで挟むディスクブレーキの効きはこの車体やタイヤの能力に見合ったものである。

 インジェクションで吸気するため始動性は良い。キックスターターは装備されていない。加速性能は海外モデルの割には少々だるい。アクセルを目いっぱい捻っても終始エンジンの唸りが先行し、全域で余裕というものを感じない。85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にしたところ、メーター読みで100mで62km/h、200mで74km/h、300mで79km/h、400mで82km/h、500mで84km/h、約1,000mで平地最高速の87km/hを確認した。下り坂では97km/hまで確認できた。出足重視で頭打ちの早いトリート/ディオ110といった感じである。

 比較対象区間304.7kmを走行したところオドメーターは307kmを示した。距離計に+0.75%の誤差があるとするならば、その区間の平均燃費は47.8km/Lに修正される。市街地区間では39.0km/Lとなった。燃料タンクは4.4Lしかないので航続距離はツーリングで200km、通勤では150km未満とみた。

 性能的には何一つとして抜き出たものはないが、本家べ●パよりもかなり安価にオシャレできるアイテムとして女性やカップルには向いている。

2013.6.25 記述

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