ヤマハ・NMAX

 長所: 1走行性能
 短所: 1積載・収納力 2照射力

 ヤマハは2016年3月からインドネシアで生産するNMAXを国内で販売することにした。今回試乗したのは初期型2DS2である。ホンダに言わせればあらゆる所がPCXのパクリであるが、PCXの長所を更に伸ばし、PCXの短所を更に落としたところもある。

 動力性能。85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にすると100mで67km/h、200mで83km/h、300mで90km/h、400mで94km/h、500mで96km/h、600〜700mで97km/h、800mで98km/h、900〜1,000mで99km/h、1,100〜1,200mで100km/h、1,300〜1,400mで101km/h、1,500mで平地最高速102km/hを確認した。(全てメーター読み、以下同じ)。
 向かい風が吹く雨の中、上体は伏せないで試した。条件が良ければもっと伸びると思う。4型シグナスX台湾仕様より軽快な出足でストレスを全く感じない。マジェスティSの方が速いが、マジェスティSはアクセルを捻って一呼吸してから加速する傾向があるので、市街地戦ではNMAXの方が有利になる場面もあるだろう。NMAXは中間加速にも勢いがあり、高速域もじわじわ伸びていく。駆動系を弄る必要を感じない。4型シグナスX台湾仕様とマジェスティSの間にNMAXの動力性能を並べるとすれば、2台の中央よりだいぶマジェスティSに近いような気がする。NMAX155なら容易にマジェスティSを引き離すだろう。
 NMAXは飛ばすだけでなく、クラッチが完全に繋がるかどうかという微速域でもストレスを感じない。 PCXがアイドリング時に車体を左右に揺らすよう振動するのはオフセットシリンダーを採用しているからだと思っていたが、同じくオフセットシリンダーを採用するNMAXにその傾向はなかった。

 比較対象区間304.7kmを走行したところオドメーターは304.4kmを示した。距離計の誤差は-0.09%と推定する。その区間の平均燃費45.9km/Lになった。平均燃費計も45 km/Lという正確な表示をした。燃費は4型シグナスX台湾仕様より10%以上良いが、さすがにアイドリングストップモードを持つeSP軍団には及ばない。燃料タンク容量が6.6Lなので航続距離もPCXに少し負ける。

 運動性能着座姿勢、単独乗車での着座位置操縦性、どれもが私がこれまで取り上げてきた4st125ccスクーターのなかでベストである。取り回しの際は若干大きく感じるかもしれないが、動き出してからはむしろコンパクトに感じる。軽快ながらも安定性も高く、下駄バイクとしての機敏性・すりぬけ、スポーツスクーターとしての旋回性・制動力、コンフォートスクーターとしての安定性・快適性などをバランスよく盛り込んでいて、NMAX1台でほとんどカバーできてしまう。走ることに関しては欠点が全く見当たらない。

 乗り心地は4型シグナスXと同等でマジェスティSに負ける。リアがバタつく傾向があり、ある程度スピードを出していた方が後輪からのショックが和らぐのは、13インチならではの踏破性か。もしも何かをカスタマイズするとしたら、私ならまずリアサスだろう。

 制動力。前後にディスクブレーキとABSまで奢る。なんとかして滑らせてやろうと意地悪な制動を試みたが、乾燥路面でもWET路面でもそれはかなわなかった。おそらく凍結路面でもない限り滑らせることは容易ではなかろう。
 後輪にABSが作動するときは左ブレーキレバーに小刻みな振動が起きてレバーが断続的に戻される。前輪にABSが作動するときは右ブレーキレバーが振動する間もなく一気に戻される。前後で感触は異なるがどちらも作動直後にメーター下あたりでウィィィィ〜ンというチャージ音が聞こえる。リアブレーキレバーを思いっきり握ればリアはいつでもABSが作動するが、フロントはWET路面での停止寸前でしかABSの作動を体験できなかった。サスストロークとタイヤのグリップでほとんど受け止めてしまうからだと思う。フロントディスクローターを押し込むピストンは1ポッドなのでディスクブレーキ自体の制動力はトップクラスではない。
 前後タイヤはDUNLOP:ScootSmart、サイズはF:110/70-13、R:130/70-13。リアがマジェスティSと同じサイズでフロントがひとつ細い。凍結防止のための縦溝が彫ってあるWET路面でも危なげなく通過することができた。タイヤを含めたトータルでの制動力において125cc2輪スクーターでかつてない安心感である。

 着座姿勢PCXも着座姿勢はいいが、ジャストフィットする足の置き場は前に投げ出した位置にほぼ限定される。一方のNMAXは前に投げ出した位置での自由度が高く、傾斜角度が変わる手前に足を下ろしても膝が水平まで上がらない。シートに腰を深く掛けて片足を地面にべったり着けると、もう片方はつま先が触れる程度の足着きになってしまうが、この位置で足を前に投げ出せば、足首から尻にかけて両足の内側全てを車体に密着させてニーグリップに劣らない下半身での操縦性が約束される。ヤマハもやっときちんと座れる125ccスクーターを用意してくれた。

 運転席。シートはステッチもないしクッションも厚くないが、表皮のグリップはいいし、着座姿勢が良いために問題なく座れる。2時間も座っていたらさすがにケツが少々不快になってきたが、座る位置や足を置く位置を時おり変えることで疲労を回避できた。ちなみにNMAXのフロアステップの傾斜角度変更点から前後席の境界点までの距離は約92cmで、マジェスティ125のフロアステップの傾斜角度変更点からシートバック手前までの距離は約85cmである。

 足着き性シグナスXと同等なので、BOXを取り付けた後は乗降に気をつけたい。回し蹴りができなければ、高いフロアトンネルを避けて足を通さなければならないので、センタースタンドで駐輪する場合にもいったんサイドスタンドに車体を預けて乗降してはいかがだろう。足着き性は深く腰を掛けても両足共にべったり接地できたマジェスティ125に劣るが、着座位置の高いNMAXの方が操縦性に優れている。

 後席。ピリオンステップはスポーツバイクによくあるタイプで、開くか閉じるかというシンプルな操作方法である。開いたときボディから左右に10cmずつ幅が広がって約64cm(マジェスティ125は約55cm)の車幅になるが、ハンドル幅は72cm(マジェスティ125も約72cm)、左右ミラー幅は82cm(マジェスティ125は約89cm)あるからすりぬけには影響しない。後席(前端幅:約23cm、後端幅:約18cm)はそれほど大きくない。長さ(約27cm、PCXは約30cm、マジェスティ125は約35cmで更に後席シートバック付き!)と弾力もPCXに負けるが、標準装備するスタンディングハンドルはPCXと違ってなんとか掴めるし、後席とスタンディングハンドルの谷間にケツを落とした方がむしろケツが安定するようだ。NMAXはパンチ力があるので2ケツしても動力性能の不満は少ないが、車体の大きさの多くを運転者の居住性に割いている感がある。2ケツ居住性はシグナスXと同等である。同乗者は後軸の真上に着座し、密着度の高さも重心を駆動輪付近に集めたようで、2ケツ操縦性はなかなか優秀である。

 収納力
 一見すると深そうなトランクだが、ヘルメットを逆さにして後ろに向けないと入らない。フルフェイスのアライ:Quantum-J(L)とショウエイ:Z7(L)は収納できたが、アライ:RX-7V(L)とジェットのアライ:MZ(L)は上からシートを押さえつけても閉まる感じがしなかった。エアインテーク付のヘルメットはジェットかフルフェイスにかかわらず相性が悪いようだ。メットインできないのなら、ヘルメットホルダーに引っ掛けようと探したが、ない。え?最新モデルなのにヘルメットホルダーが付いてない!?コンビニフックも付いてない。仕方ないので給油口のカバーを立ててヘルメットのDリングを引っ掛けた。どうりでヘルメットワイヤープレゼントキャンペーンをやるわけだ。
 ハンドル左下のフロントポケットは650mlまでのペットボトルが収納できた。標準状態での収納箇所はこの2か所のみである。スタンディングハンドルにも、その交換装着品である純正リアキャリア(Q5KYSK090E01:税抜16,500円)にも荷掛けフックが付いてない。気の利いた社外品が出るまでは39Lトップケース(Q5KYSK069P01:税抜23,000円)まで追加装備しないとロクな積載性を得られない。

 操作性、装備など。
 給油口はフロアトンネルにある。カギの差し替えを要し、燃料キャップも本体から外れる。これなら給油中はエンジン始動ができないし、その場を離れることもできない。
 ウインカースイッチは一般的なプッシュキャンセルスイッチで使いやすい。ブレーキレバーとホーンの同時操作も容易である。

 メーターパネルの形状はトリシティに似ている。白いバックライトで日中もよく見える。常時表示するのは、上に時計、中央に速度、下に距離、左に燃料残量バーグラフ、右に瞬間燃費バーグラフである。セレクトボタンを押すごとに距離計の内容が変わる。累計距離ODO→区間距離TRIP1→同2→オイル交換時期OILTRIP→VBELT交換時期→瞬間燃費計F/ECO→平均燃費計AVE F/ECO。それぞれの位置でリセットボタンを長押しすると数字がゼロに戻る。燃料残量バーグラフは6目盛りあり、満タンから約90km走行して5目盛りに、約120km走行して4目盛りに、約150km走行して3目盛りに、約180km走行して2目盛りになった。だいたい30km刻みで減っていくようだ。瞬間燃費バーグラフも6目盛りで燃費が良い状態ほど目盛りが多い。惰性走行中は6、下り坂で5、巡航中で4〜3、登坂や高速域全開で2、発進直後が1、停止中と全開発進で0という感じである。数字による瞬間燃費では惰性走行中に99km/Lを示すことがあり、この数値が本当ならクルマと同じく燃料カットをしているのだろうか。

 ミラーPCXは5角形、NMAXは6角形(笑)。カタチは似ているが、鏡面積は狭く、淵は歪曲もしているため、後方視認性はあまり褒められたものではない。個人的にはここも交換したいところ。

 ヘッドライトPCX同様LEDを採用。ロービームで左右2灯、ハイビームで中央1灯も追加点灯するのもPCXと同じ。異なるのは色違いのポジションランプが眉毛のごとく飾って被視認性が少し良いこと。照射力は全然ダメ。日が落ちてかなり周囲が暗くならないと白く照射していることすら分からない。照射範囲も狭く、ロービームは左右に約60度、上下は3〜15m位先しか照射しない。さすがにハイビームは青看に反射するが、左右に約45度しか照射しないので、3灯をもってしても暗黒の峠道ではクリッピングポイントを全く照射してくれず、危うくコースアウトするところだった。目も疲れた。LEDは照射した特定の範囲だけ景色を白くするだけで、照射していないところとの輝度差が大きく対象物の発見が遅れてしまう。また相手からも気づかれにくいようで、夜間に左右から割り込みを何度か受けた。ヘッドライトはハロゲン55/60Wに戻してほしい。

 PCXにあってNMAXにないのが、メットホルダー、アクセサリーソケット、ハザードランプ、前後連動ブレーキ、アイドリングストップ機構。NMAXにあってPCXにないのが、瞬間燃費計、ABS、可変バルブ機構。装備面ではなんとなくPCXに負けているようだ。
 ”Next To The MAX ひとつ上の、グローバル・スタンダードへ”ということでNMAXとのことだが、”Global Prestige City Commuter of MAX series”を略すればPCXになる。確かに走行性能が良くて使い勝手が悪い設計はPCXに似ている。安全性操作性で勝り、燃費装備で負ける、ヤマハ版PCXというわけか。後出しじゃんけんと言われようが、目つきの悪さが魔人ブウに似ていようが、走りやすさで選ぶならNMAXだ。シグナスXマジェスティSはヘッドライトだけをNMAX125,155に残して引退したらいい。

2016.3.13 追記/2016.3.9 記述

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