ヤマハ・シグナスX-SR
台湾仕様

 長所: 1ヘッドライト 2運動性能 3制動フィーリング
 短所: 1タンデム操縦性 2ストップライト

 2015年11月にシグナスXの4型が輸入されるようになった。デザインは従来の直線基調からYZFシリーズに通じる流体基調を加味したものへと変わった。3型は男性的だが4型は女性にも似合うと思う。今回は慣らし運転直後の台湾現地仕様に乗ることができた。

 85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にすると100mで69km/h、200mで80km/h、300mで86km/h、400mで89km/h、500mで91km/h、600〜700mで92km/h、800mで93km/h、900〜1,300mで94km/h、1,400mで平地最高速95km/hを確認した。(全てメーター読み、以下同じ)。
 3型国内仕様よりも軽快な出足でストレスを感じない。だが、700m以降の伸びと最高速は3型国内仕様に負けてしまう。持てる性能をスタートダッシュに振っただけなのか?

 比較対象区間304.7kmを走行したところオドメーターは307.3kmを示した。距離計の誤差は+0.85%と推定する。その区間の平均燃費40.0km/Lになった。燃費は3型国内仕様よりも少し良かった。にもかかわらず、燃料計の減りが早いのは、燃料タンク容量が7.1Lから6.5Lに減ったからである。計算上の航続距離はほぼ変わっていない。

 3型までと同様、バイク単体での運動性能は相変わらず良い。だがそれを完全に発揮するにはパッケージにもう少し改善が要る。

 乗り心地は3型国内仕様よりも向上していた。3型までは路面の細かい凹凸を特にフロントサスからコツコツ拾う傾向があったが、4型台湾仕様ではそれがだいぶソフトになったようで、これならPCXと比べてもほとんど遜色ないだろう。

 制動力は3型の“強さ”に加え、“扱いやすさ”が向上した。リアブレーキをドラムからディスクに替えたからである。このクラスのスクーターなんぞにリアディスクなんぞ必要ない、という意見もあろう。確かに前後左右から何も飛び出してこない安全な乾燥路面のみを終始マイペースで走れるなら、リアブレーキはドラムで十分だろう。でも前後連動でないからこそ、咄嗟のときリアブレーキレバーしか間に合わないことがあるからこそ、そして、前後同時に制動できたとしても相対的に滑りやすいリアだからこそ、効くのが早く、抜くのも早いディスクの威力を、今回の雨天走行や暗黒の峠道で体感することができた。

 後輪のみの短制動では悪く使えばドラムより早く滑らせることができるが、良く使えば強力なフロントブレーキを上手くサポートして制動時の姿勢を安定させることができる。それは乾燥路面でもWET路面でも同じだった。ブレーキレバーを握るのに必要なのは握力ではなく平常心。ひとたびグリップを失えばスポーツバイクより安定性の劣るスクーターだからこそ、リアディスクの恩恵を受けたような気がする。
 標準装着タイヤはMAXXIS(台湾製)のF:M-6219、R:M-6220を継続採用している。おだやかに滑るタイヤなので、コントロールしやすい新たなリアブレーキと相まって雨天時の安心感は高い。

 着座姿勢を決めるフロア形状やシートが3型からわずかに変わっている。
 運転席。着座位置が高くて見晴らしはいいのは同じ。フロア形状は、フロア先端の幅は数?狭くなったし、足を投げ出すところの傾斜角度もわずかにきつくなった。その一方で、足を投げ出すところ自体が前方に移動して(車体を右側面から見た“く”の字のでっぱりが減って)土踏まずからケツまでの長さがほんのわずかに伸びた。また、3型に比べシートが若干柔らかくなり全体的に丸みを帯びた。シート表皮もわずかにグリップが落ちた。ボディカラーによってはシート表皮そのものも違うしステッチも目立たず質感が落ちた。これらの結果、足を延ばしやすくなった反面、ケツのホールド力が落ちたのだろうか、長時間走行での疲労箇所は内股ではなくケツに移った。単独の短時間乗車であれば、糾弾するほどの着座姿勢ではなくなったが、アドレスV125シリーズPCXに座ってから4型の購入を検討することをお勧めしたい。

 足着き性は3型同様改善していない。両足の踵をべったり接地したければかなり前に着座し、窮屈なのが嫌であれば後方に着座して両足ともにつま先立ちになる。大きくない車体なのに、発進直後に着座位置を後方にずらす作業が人によっては必要になる。

 後席。シート幅は前端が広く後端が狭くなった。クッションも薄くなったようで座り心地は下がったように思う。また、後席とスタンディングハンドルの谷間にケツを落とす座り方も3型の方がホールドしやすかった。

 積載性収納力
 3型に比べ、ヘルメットに関してはわずかに収納力が落ちている。前半部分は深さ不足で半キャップすら入らないのは同じ。後半部分にはMサイズのアライ:MZ、Quantum-Jのいずれの場合でも上からシートを押さえつけても閉じることができなかった。フルフェイスのなかでは比較的帽体が小さいと言われるショウエイ:Z7(Lサイズ)ならなんとか閉じることができた。

 メットホルダーはプラスチックの突起が2本生えているだけ。この手の耐久性は不明だが実用上は問題ない。

 右ひざ付近にフロントポケット(インナーラック)がある。深さ高さに余裕がありペットボトルは1,000mlまでのものが収納できた。しかも無駄に暴れないような絶妙な開口部になった。コンビニフックは従来、走行振動で荷物が外れやすかったものから仕様変更されている。

 純正オプションのリアキャリア(税抜12,000円で据え置き)がスタンディングハンドル(グラブレール)との交換装着品になり、タンデムグリップ、取り回しハンドルを兼ねるようになった。従来品は走行中にキャリア上のBOXが上下にブレるのが分かるほど頼りないものだったが、やっと純正品として相応しいものが用意された。

 操作性
 給油口は左ひざ付近にある。この4型は台湾仕様なので給油口もメインスイッチの操作で開く。燃料キャップはヒンジ式で本体に繋がっているのは国内仕様と同じ。
 3型で配置の良かったウインカースイッチが少々内側に移動してしまったのは残念だ。

 メーターパネルは改善した。パネルの角度を運転者向きに上げて日中でも反射しにくくなった。右にはアナログ式のタコメーターが、左には青いバックライトの上に白い文字で燃料、時計、速度を常時表示するのも3型と同じだが、時計と距離計が見やすい位置に移動している。TRIP計は2つ表示できるようになった。燃料計の目盛りが5つあるのは3型と同じだが、目盛りが減るのが早い。5つが4つに減るのに90km以上走行したが、そのあとは20〜30km毎に減っていく。

 ミラー。鏡面積も狭くなったし、ミラーアームも短くなって視線移動量が若干増えたし、ミラーアームのカバーも関節部分と付け根だけの簡易なものになった。後方視認性は明らかに3型の方が良かった。

 55/60Wハロゲンバルブをマルチリフレクトしたヘッドライトは夜間、雨天時は相変わらず頼りになる。テールライトは光りなのか着色なのか一瞬わからない面白い光り方をする。上の画像はハザードランプを点灯させた状態だが、ブレーキレバーを握っていても握らなくても後方からの視認性があまり変わらない。テールライトが出しゃばり過ぎていて、肝心のストップライトが目立たないのだ。追突防止のためストップライトの表面積を広げるべきだ。

 フルノーマルのままでも我慢できる出力特性になったから最高速の伸びについて文句を言うつもりはない。でもどうせフレームを新調するのなら思い切ってフロアは広く低くして操縦性と居住性を劇的に改善して欲しかった。エンジンも古いままだし、シグナスXNMAXを普及させるまでの繋ぎなのだろうか。

2016.1.18 記述

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