ヤマハ・BW’S125

 長所: 1個性的なルックス 2合理的なメーターパネル
 短所: 1足置き性 2足着き性 3ヘルメット収納力

 BW’S と書いてBe Withと読む。オンでもオフでもいつもいっしょという意味が込められているのだろうか。CW50、YW50、YW50Fとこれまで国内販売してきたビーウィズは全て原付一種であったが、2016年2月からやっと原付二種のBW’S125が正規に輸入されることになった。シグナスXとの共用度が高く、ホンダ・ズーマーXも輸入中止された今がチャンス!というノリで登場したのだろうか?

 発進加速。85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にしたところデジタルメーターは100mで68km/h、200mで80km/h、300mで86km/h、400mで89 km/h、500mで91km/h、600mで93 km/h、700mで平地最高速94km/hを示した。この時、GPSは89 km/hを示していた。GPSを基準にすると速度計の誤差は(94-89)/89=+5.6%ということになる。尚、下り坂ではメーター読みで103km/hまで見たが、もう少し伸びそうだった。

 加速の仕方はシグナスX・4型台湾仕様に似ている。3型までのシグナスX国内仕様のような中間域でのもたつきがなく、スロットルを目一杯絞れば、煩くない程度のエンジン音と共にどんな場面でもまずまずの動力性能を得ることが出来る。

 比較対象区間304.7kmを走行したところメーターは304.0kmを示した。距離計にマイナス0.2%の誤差があるとするならば、その区間の平均燃費40.9km/Lに修正される。燃費もシグナスX・4型台湾仕様とほぼ同じだった。

 乗り心地はこれまたシグナスX・4型台湾仕様によく似ていて、通常の走行では前後共に張りがあるというか、少々硬いなという印象を受ける。リアクッションのプリロードは3段階の調整ができるものの、ユニットスイング式を採用している以上は段差を通過した際にリアから硬い衝撃が来るのは致し方がないところか。短制動時にはフロントサスが深く沈み込むが、底が付くような感覚はない。

 運動性能もこれまたシグナスX・4型台湾仕様に似ている。タイヤ・ホイールサイズとホイールベース、そして着座位置との関係が良好で車体そのものが持っている直進性旋回性はとても良い。ワイド&アップなバーハンドルは特に旋回時の操舵安定性をシグナスXより向上させているが、シグナスX同様にフロアステップが高いこと、更にはシグナスXよりフロアステップから先の傾斜角度がかなりきつくて、足が伸ばせない。ステップ荷重による操縦性が犠牲になっているのが残念だ。
 すりぬけではハンドルがガードレールに当たりにくい高さを持っているにもかかわらず、両足をステップからはみ出さないような踏ん張りにくい体勢を維持するのが辛く、極低速域で車体を安定させるのが難しい。1:ステップ先端の角に踵を引っ掛けてツマ先を出してしまうか、2:ステップ中央付近で両足の靴裏を合掌するか、3:フロアステップの外に両足を完全に垂らしてしまうか、長時間走行では1から3をローテーションしてやり過ごし、次の赤信号停止が待ち遠しかった。推奨できるのは片道30分までの移動手段。それを越えると内股が疲労するので、インナーサイ・トレーニングマシンと割り切ること。間違ってもこんなスクーターでゲロアタックなどしないように。

 標準装着されていたブロックパターン調のタイヤはKENDA:K761(A)という銘柄で、サイズはF:120/70-12、R:130/70-12である。前後ともにディスクブレーキのためコントロールしやすい。フロントを強めにリアを添える程度にすれば乾燥路面では非常に短い距離で停止させることができる。その一方でフロントブレーキレバーのみ握力全開で握ると大きな音とともにフロントタイヤは滑り出した。意識的に強くリアブレーキレバーのみ握ればやはり音とともにリアタイヤは滑り出す。どちらかというとタイヤのグリップがブレーキに負けているように思うが、この外見だと滑らせて遊びたい向きもあるだろうから、あえて批判しないでおこう。乾燥路面でこれだから濡れた路面ではより慎重なブレーキ操作が必要になる。なお、凍結防止のための縦溝が彫ってある路面でも危なげなく走行できた。やはりこれ位の太さのタイヤが欲しい。

 短制動時にフレームが捻じれるような感覚はなく、クラス平均以上の剛性感は持っていると思う。

 足着き性。170cmない私が運転席に腰を深くかけると両足共につま先立ちになってしまう。両足共にべったり接地したいならシートの先端付近に座ることになってしまう。シート表皮のグリップがかなり良いため、どこに着座しても滑り落ちることはないが、この足着き性はオフ車の雰囲気を出したかったのだろうか。実用車として評価するならば足置き性足着き性どちらもBW’S 125の短所に挙げなければならない。フロアステップの先端・外側にバータイプの格納式ステップが欲しい。それなら足元も窮屈しないし、操縦性も向上するし、フロアステップを純粋な積載スペースに転換することもできよう。

 後席もシート表皮のグリップがいいし、座面もそれほど大きくはないが、後端に着座すれば運転者との距離は取れ、暑苦しくない。スタンディングハンドル一体型のリアキャリアはグラブバーとしても使いやすい。グラブバーの両側面を掴むのもいいが、後方を掴むのもいい。後席の後端に着座し、両手を逆手にして自らの手に深く腰を掛けると上体は安定する。後席で残念なのはタンデムフットレストの位置が前すぎて、信号停止などで運転者がフロアから足を移動するたびに同乗者の足と激しくぶつかることである。高さもありすぎて乗降性も良くない。このタンデムフットレストをバックステップ代わりに運転者が使う場合、その位置に合わせて運転者もかなり後方に着座することになる。そのとき走行中は足元の狭さから解放されるが、ハンドルが遠くなって上体が前かがみになることと、足着き性が更に悪化してしまうことを覚悟しなければならない。ただ単に足が接地しにくいだけでなく、接地の度にタンデムフットレストにスネを攻撃されるのだ。運転者・同乗者双方の居住性を改善するには双方の足の置き場をもっと引き離すしかない。

 積載性。スタンディングハンドルを兼ねるリアキャリアはキャリア部分の4隅にフックが4つ付いているし、後席をアンダーラインするかのようにスタンディングハンドルが伸びている。スタンディングハンドルとボディを取り付けている先端側のボルトを気の利いたモノに換えれば後席からリアキャリアにかけて大きな荷物を固定することが出来るだろう。
 メインスイッチに取り付け位置を奪われたおかげでコンビニフックは下方移動しあまり大きなものが引っ掛けられない。

 収納力。右膝付近にあるフロントポケットには伊藤園の670mlペットボトルを置くことが出来た。
 トランクはヘルメットをかなり選ぶ。フルフェイスはQuantum-J(L)でもZ7(L)でもシートが閉じなかったし、ジェットのMZ(L)でもシートが閉じなかった。ではではとエアインテークもチークガードも小さいSZ-G(L)も試したが、これもシートが閉じなかった。シグナスXに形状が似ているシート下収納空間だが、収納力は明らかに劣っている。ほとんどのスクーターで収納が不可能な鍔が付いたオフ車用ヘルメットをファッションで被り、駐車時はメットホルダーに引っ掛けて“魅せる”なら短所にならないが、シート下への完全収納に拘るなら、わざわざ安全性の低いヘルメットへの買い替えも考えなければならない。なお開口面積が広いトランクなので、中身がそれほど入っていない30L登山用バックなら押し込むことができた。

 メットホルダーはシートヒンジ付近にあるプラスチックの突起が左右に1個ずつある。左右どちらのホルダーも、アライ:MZ(L)のDリングを上にして引っ掛けることができた。

 操作性その他。
 メインスイッチはシグナスXと同じものが中央に付いている。シートオープンはOFFの位置からでもハンドルロックの位置からでも可能である。なお、ハンドルを微妙に切らないとハンドルロックの位置がなかなか定まらない。また、給油の際には給油口へのカギの差し替えを要する。

 ウインカースイッチは左右スライドスイッチの中にプッシュキャンセルボタンを内蔵する従来からの仕様。ホーンボタンは咄嗟の時にブレーキレバーと同時操作できる左下に設置されている。

 バックミラーは鏡面が丸型なうえに淵に近くなるほど歪んで見えるので有効視界が狭い。文句あるなら社外品に換えろということか。

 このマルチインフォメーションディスプレイは小振りながらも必要な情報が盛り込まれているし、操作も分かりやすいので非常に好感が持てる。上からエンジン回転バーグラフ、時計、速度計、距離計、右下に燃料計。SELECTボタンで距離計の表示がODO→TRIP→OIL交換に変わり、ODO位置でRESETボタンとSELECTボタンで時間調整もできる。燃料計の目盛りが5つあって5つが4つになるのに走行した距離は約70km、それ以降は約30km毎に目盛りがひとつずつ減っていった。燃料タンク容量は6.5L。ツーリングでの航続距離は250km位が目安となろう。

 ヘッドライト は少々くせ者である。右側のプロジェクターレンズからロービームが照射され、左側のマルチリフレクターレンズからハイビームが照射される。双方とも55Wとのことだが、ロービームの光量は40W程度、照射範囲は左右に80度程度にしか感じない。照射される光のカタチも本来は円形なものが上部を覆ってお椀型に修正されている。それでも一般的なスクーターのロービームより高く照射し、先行車の車高が低いとルームミラーを眩惑させてしまう。一方のハイビームは若干ながら照射範囲が左側に偏ってはいるものの、上下左右ともにロービームより広く明るく照らしてくれるので、暗黒の峠道では専らハイビームが重宝した。眉間の上部にメインスイッチのONで点灯するポジションランプも装備して被視認性もまずまずだ。ウインカーはスモークレンズで昼夜・順逆光を問わずよく見える。テール・ストップランプも2灯で存在感がある。ライトに関してはプロジェクターレンズだけが“お遊び”になってしまったようだ。

 シグナスXより操舵安定性に優れるが、足の置き場に困るのでトータルでの操縦性はイーブンである。トランクに入るヘルメットも限られるので、このデザインに惚れ込み、インナーサイを鍛えたい人にお勧めしたい。YW50F(上の画像は海外仕様)の方が着座姿勢も足着き性も良いので、これをベースにしたBW’S125を出して欲しい。スクーターの操縦性は着座姿勢でほぼ決まる。“ハンドリングのヤマハ”を自称するなら分かると思うのだが。

2016.5.16 記述

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