ヤマハ
NMAX155ABS

 長所:1走行性能
 短所:1使い勝手 2ヘッドライト

 今回は試乗したのはヤマハ・NMAX155 ABSの初期型=2017年モデルで以下BV43という。前回試乗した125ccの姉妹車NMAX ABSの初期型=2016年モデルを以下2DS2といい、両者を含めてNMAXと呼ぶ。ABSは全車が標準装備なので、車名としては省略する。

 2DS2と比べてちょっと気になるのは、トルクが大きいせいかハンドルバーエンドに伝わる振動がやや大きいのと、スロットルの遊びが少ないのか、微速前進したいときに出足がやや唐突すぎると思う事である。前回乗ったプジョー・シティスターRSと比べると軽い。取り回しもハンドリングも出足もとにかく何もかも軽い。

 BV43発進加速。85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にするとGPSは100mで57km/h、200mで76km/h、300mで88km/h、400mで94km/h、500mで99km/h、600mで101km/h、700mで103km/h、800mで104km/h、900〜1,000mで105km/h、1,100〜1,300mで106km/h、1,400〜1,600mで107km/h、1,700〜1,800mで108km/h、1,900〜2,000mで109km/h、2,100〜2,200mで110km/h、2,300〜2,400mで111km/h、2,500mで平地最高速112km/h を示した。このとき本体の速度計は119km/hを表示していたので、速度計の誤差は(119-112)/112=約+6.3%と推定できる。
 尚、下り勾配ではメーター読みで122km/hまでは見ている。中央高速談合坂付近の単独登坂ではメーター読みで100km/hが精一杯である。

 メーター読みどうしの比較だと、300mまでの加速は155ccのBV43よりも前回試乗した125ccの2DS2(平成28年規制適合前)の方が速いという信じがたい結果となっている。これは動画撮影に使用したカメラが異なることも原因ではないかと思う。2DS2に使用したのはGPSの無いアクションカムで、速度も進行距離もバイク本体の数字をそのまま使用していたが、BV43では10Hzで測位するGPS付きアクションカムの速度と進行距離を使用している。

 比較対象区間307.4kmを走行したところオドメーターは305.8kmを示した。距離計の誤差は−0.5%と推定する。その区間の燃費は満タン法で48.0km/Lになった。平均燃費計は49.8km/Lと表示し、満タン法よりわずかに盛っている。比較対象区間の平均燃費が前回試乗した2DS2よりわずかに良かったのは、トルクに余裕があってスロットルを回さなくても走れるからだと思う。

 高速道路での燃費。単独乗車で高速道路を流れに合わせて走行したところ、実燃費は往路が28.9km/L(平均燃費計は28.3km/L)、復路は53.1km/L(平均燃費計は48.1km/L)になった。ちなみにマジェスティS の実燃費は往路29.7km/L、復路は41.3km/Lだった。流れに合わせると言っても15psしかないBV43での往路はアクセル常時ほぼ全開となる。しかも約800mの標高差を一気に駆け登っている。高速道路での燃費をマジェスティSと比べると、往路でわずかに負け、復路でかなり勝るという結果になった。可変バルブ機構を採用するBV43は巡航状態の2バルブ領域で燃費を稼いでいるようだ。

 特に走り方を意識しないで市街地走行をしたところBV43の実燃費は(平均燃費計の数字よりわずかに良く)39.3km/Lになった。ちなみに同時期・同区間のスーパーカブ110(JA44)の市街地燃費は55km/Lだった。BV43の機敏性と快適性を考慮すれば、むしろBV43を褒めたいと思う。

 燃料タンク容量6.6L。航続距離は高速使用で200km、下道ツーリングで300km弱が目安となろう。マジェスティSより0.8L少ない容量は燃費差でカバーできるものの、PCX150より1.4L少ない容量は、どうあがいてもカバーできるものではない。

 着座姿勢を比較する。PCX150(KF30。JF81、JF84も同じ)はハンドルが近くて足着き性が良い。股下77cmの私だと深く腰を掛けて片足はべったり、もう片方はわずかにカカトが浮く程度である。手足の長さは皆違うので一概には言えないが、身長165cm位までの人はPCX150(KF30)の方がドンピシャだと思う。NMAX155(BV43。125も同じ)で深く腰を掛けると若干ハンドルが遠くて高くて開き気味に感じるし、カカトは両足ともに少し浮いてしまう。少し前に着座すれば両足共にべったり接地してハンドルは丁度良い距離になるが、ハンドルの高さについてはより高く感じるようになる。NMAX155(125も)は足の置き場が前後に長いので、身長170cm以上の人に向いていると思う。

 着座位置運転姿勢・居住性が良いために操縦性も良く、タイヤ形状の前後比やホイールベースなどのディメンションも良いし、エンジンのレスポンスも良い。動力性能・運動性能の両面において機敏さと鷹揚さを高い次元でバランスさせている。

 前輪が変に堪えたり立ち上がったりしない。後輪を主体としつつも前後一体に向きを変える。高くて広めなハンドルはほとんど意識することなく、下半身を左右に振るだけでスパっと向きを変える。シャープなデザインと長めのホイールベース、軽快な身のこなしでなぜか紙飛行機MSZ-006:ウェイブライダーとイメージが重なるのだ。

 高速領域でも乗り心地重心の変化が少ない点も褒めておきたい。マジェスティSのリアサスペンションは基本的には乗り心地がいいのだが、大きくバウンドするときがあり、もともと高い着座位置が余計に高く感じて特に高速走行で怖くなる瞬間があった。BV43のリアサスペンションは硬めで多少跳ねる傾向はあると感じたものの、高速領域で大きくバウンドすることがなく、市街地走行と変わらない緊張感で乗っていることができた。

 制動力。前後輪ともにディスクブレーキとABSを奢るところは2DS2と同じである。だがチューニングを詰めたのだろうか?ABSの手応えが変わっていた。乾燥路面で片方ずつフルブレーキをしたところ、前後どちらもABSの作動が早まったように感じた。そしてフロント側もリアと同じようなタッチになった。まずは小刻みな振動で断続的にブレーキレバーを緩め、それでもブレーキレバーを強く握り続けているとブレーキレバーを強制送還する。乾燥路面でも前後ともにABSの作動を体感できるようになった。2DS2のときに“制動力において125cc2輪スクーターでかつてない安心感”とコメントしたが、プジョー・シティスター125RSの方が緻密である。ブレーキレバーを握る手に対するキックバックもソフトだし、ABS作動中の制動抜けも少ないと感じた。

 2DS2のときに、走ることに関しては欠点が全く見当たらない、とコメントしたが、路面によっては気になる点も出てきた。

 凍結防止のために縦に溝が掘ってある路面では、前後タイヤが異なる溝を噛んだ際に若干車体がヨレる傾向がある。これについて思うのは、はじめは前輪からの影響を受けて、その後に後輪からの影響も受けるが、エンジンと一体となった後輪の影響の方が重量的に大きいのだが、なまじ高剛性なフレームを与えたために、前輪からの影響もしっかり残っていて、前後対決がシャープに伝わってくるからではないか?

 そしてスーパーカブ110(JA07)ほどではないが、砂利道でフロントが捕らわれやすいとも感じた。凍結路面でもおそらく似たような傾向になると思う。これについて思うのは、足を前に投げ出した運転姿勢、ロングホイールベース、そして前後比で細めなフロントタイヤが相乗して、前輪荷重が軽くなっているからではないか?WET路面でも砂利道でもフロントブレーキを強く掛けるとDRY路面より早くABSが作動する。砂利道ではPCX(KF30)の方が走りやすかったし、ADV150にも負けるだろう。

 路面によっては多少跳ねやすいので、乗り心地を更に追及して欲しい点、上記した路面での影響を改善できたら、舗装路向けスクーターとしては神の領域ではなかろうか。そう褒めておきながらコミューター・オブ・ザ・イヤーに選定しないのは、後発モデルのくせに使い勝手が劣る点が目立つからだ。

 収納力
 ヘルメットの収納力は、Mサイズ4個のヘルメットで試してみた。OGK:ASAGI=A、OGK:RT-33=R、Arai:MZ=M、Arai:Quantum-J=Qと略する。収納結果は〇△×で略する。シート裏に全くと言っていいほど干渉しないでシートを完全に閉じることが出来た場合は〇、軽く干渉する程度でシートを閉じることができた場合は〇△、上から押さえつければシートを閉じることが出来た場合は△、上から強く押さえつけてやっとシートを閉じることが出来た場合は△×、強く押さえつけてもシートを閉じることが出来なかった場合は×とする。結果は収納しやすい順に以下の通りとなった。

R=○△、Q=○△、A=△、M=△×。

 フルフェイスのRが最も収納しやすかったのは意外で、○△にしたものの、ほとんど○に近い感覚だった。但し、シートを閉じる最中にヘルメット天辺と収納箇所底部が互いに滑りながらベストポジションを探している感触があったので、両者はぴったり接触していると思う。ヘルメットを収納した状態で着座するのはお勧めできない。
 エアインテーク付のヘルメットはジェットかフルフェイスにかかわらず相性が悪いようだ。加えてヘルメットホルダーを装備していないので、収納できないヘルメットや同乗者のヘルメットはヘルメットワイヤーを併用しなければならない。これは後発モデルとして許される短所ではない。PCX(KF30、JF81、JF84)はヘルメットホルダーワイヤーを併用しないでもヘルメットをホルダーに引っ掛けられるように改善されている。

 ウインカースイッチは一般的なプッシュキャンセルスイッチで使いやすい。コンパクトでブレーキレバーとホーンの同時操作も容易である。

 

 メーターパネルの数値は白いバックライトで日中もよく見える。常時表示するのは、上に時計、中央に速度、下に距離、左に燃料残量バーグラフ、右に瞬間燃費バーグラフである。セレクトボタンを押すごとに距離計の内容が変わる。累計距離ODO→区間距離TRIP1→同2→オイル交換時期OILTRIP→VBELT交換時期→瞬間燃費計F/ECO→平均燃費計AVE F/ECO。それぞれの位置でリセットボタンを長押しすると数字がゼロに戻る。燃料残量バーグラフは6目盛りあり、満タンから95km走行して5目盛りに、127km走行して4目盛りに、150km走行して3目盛りに、175km走行して2目盛りに、223km走行して最後の1目盛りに、255/270km走行して最後の1目盛りが点滅した。平均して32km刻みで燃料計が減っていくようだ。255と270と2つの距離を記入したのは走行中に目盛りがひとつ回復することがあるからである。どの目盛り位置でも起こることなので、仕様である。なお、燃料計が点滅を開始すると区間距離が表示されなくなってしまう。これは非常に迷惑である。

 瞬間燃費バーグラフも6目盛りで、km/L(ガソリン1Lで走行できる距離)を選択しているときは燃費効率が良い状態ほど目盛りが多い。惰性走行中は6、下り坂で5、巡航中で4〜3、登坂や高速域全開で2、発進直後が1、停止中と全開発進で0という感じである。なおL/100km(100km走るのに必要なガソリンの)を選択しているときは燃料消費が多い状態ほど目盛りが多くなる。

 ヘッドライトPCX同様に光源にLEDを採用。ロービームで左右2灯、ハイビームで中央1灯も追加点灯するのもPCXと同じ。異なるのは色違いのポジションランプが眉毛のごとく飾ってあり、色彩的には先代PCX(JF56/KF18)より目立つかも知れないが、左右灯の間隔が狭くて対向車に距離感を見誤られやすいので、被視認性は先代PCX(JF56/KF18)とどっこい。現行PCX(F81/JF84/KF30)には負けている。
 NMAX照射力は全然ダメ。日が落ちてかなり周囲が暗くならないと白く照射していることすら分からない。暗くなってからは照射している狭い範囲だけはやたらと白い。照射しているところと照射していないところとの輝度差が大きく運転していて非常に目が疲れる。配光特性が悪くて照射範囲も狭く、ハイビームに切り替えてもコーナー先を照射しない。今回は暗黒の峠道で鹿11頭、瓜坊3匹、他の小動物1匹に遭遇したが、鹿3頭は素手で捕獲できる距離に接近するまで互いの存在に気付かなかった。法定速度が30km/hの乗り物じゃあるまいし、こんなヘッドライトが軽二輪として許されるはずがない。

 走行性能では依然としてNMAXがわずかに有利だが、グラブバーの握りやすさとウインカースイッチの操作性を除き使い勝手でPCXに勝る要素はない。ヘッドライト、メットホルダー、燃料タンクは早急に改善するべきである。それとクランプの邪魔になるからハンドルカバーも撤去したほうがいい。ボケッとしてると125〜150ccもホンダ車にヤマハのバッジを付ける時代がやってくる。

記述 2020.1.1

表紙に戻る