ヤマハ
アクシストリート

 長所: 1価格 2静寂性 3目立たないこと
 短所: 1発進加速 2剛性感 3後席乗降性 4質感 5航続距離

 2009年8月に発売された4st125ccスクーター:アクシス・トリートは、台湾ヤマハ・勁風光BSにフロントディスクブレーキとリアキャリアを与え、日本国内の規制に対応させた輸入車である。かつて日本でも販売されていた新風光(先代シグナスSV/Si)の末裔であり、先代アクシス(アクシス90、グランドアクシス100)との繋がりは安価な点だけである。もはやアクシスとはヤスモノの代名詞なのか。

 外観はジョグを太らせたような感じ。街中ですれ違ってもよほど興味のある人でないと気付かないかも知れない。10インチながらも太めのタイヤを履かせ、安定感は平均的な50ccスクーターよりもいい。車重は110kgあるがコンパクトで取り回しに苦労することはない。スタンドがけの時にちょっと重さを感じる程度である。

 小柄な人でも足が付きやすいようフロア後方が絞ってある。170cmない私でもべったりと地面に足が付く。フロアステップはもう少し低く、先端にもう少し幅があれば尚良かったが、ステップ先端の傾斜角度もきつくないので、グランドアクシスやシグナスXよりも着座姿勢は良くなっている。私の身長(体型)だとフロアステップの広さ・高さ・傾斜角度だけでほぼ優劣が決まる。このクラスのスクーターで足元の広さに優劣を付けると、
(←狭い)シグナス?<リード110<グランドアクシス<トリート<スペイシー100<アドレスV125<スペイシー125(広い→)になる。
 背の高い人や足の長い人だとインナーラックやハンドルに膝が当たるか否かという基準も出てこよう。

 シートはグランドアクシス同様にケツ当たりは優しいがコシがなく、時間が経つほど疲れてくるタイプである。フロアステップは後方になるほど高くなっていく。こういうスクーターは足を前に投げ出した位置でしか姿勢が落ち着かないことが多い。トリートも例外ではなかった。長時間走行の際、リアステップをバックステップ代わりにしようと足を移してみたが、ちょっと位置が高過ぎた。まあトリートにとって長時間走行は想定外だろうから日常的には我慢できる運転席、ということにしておこう。

 後席は必要十分なシートスペースとどこでも掴めるキャリア一体型のグリップは評価するが、リアステップに難がある。運転席のフロアの延長線上についでに付けたようなステップは幅こそグランドアクシスより広くなったが、位置が高くて前方に寄っている点は変わらない。しかも材質がプラスチックだから同乗者の靴と天候しだいでは足を掛けたとたんに滑りかねないし、滑らないにしても常に不自然な姿勢での乗降を強いられる。短時間とはいえ“自分よりも大切”な人を後席に乗せる機会が多いならリード110を選ぶべきである。
 リアキャリアにBOXを付けていたり、小柄な人を後席に乗せるなら、スタンドを掛けた状態でまず運転席に座ってもらい、そこからヨイショと後席に移動してもらう。そして同乗者を乗せた状態でセンタースタンドを解除して運転者が後から着座する。そんな配慮が必要になるかも知れない。

 装備は必要最低限のものが一応揃っている。
 シャッター付きメインキーはシグナスXに準ずる。シート下収納スペースをカギの差し替えなしで開けられるのは今更ながら便利だと思う。給油口はシート下にあるので、給油の際もシートオープンの操作をすればいい。メインキー操作が過度に複雑にならず好感がもてる。シグナスXだとシートと給油でキーの回転方向が違うので複雑であるが、給油口が独立しているので、後席にまたがった荷物を卸さなくても給油できるという利点がある。どちらも一長一短である。

 2stだったグランドアクシスに比べれば向上しているものの、毎日通勤で使うにはちょっと物足りない航続距離である。だけど給油口は真上を向いていて、燃料タンク内が銀色(ステンレス?)なのでガソリン(赤茶色)はとても給油しやすかった。そしてタイヤのバルブに90度の角度がついていてガソリンスタンドに置いてあるセルフポンプでも空気が入れやすい。

 ジョグと良く似た形状のヘッドライトは40Wのマルチリフレクターで峠道の輪郭は掴めたが、照射力は強くない。被視認性も50ccクラスのもので、シグナスXとの格差が最も大きい点だと思う。

 トリートのバックミラーは中国製のコピーバイクに次ぐ出来の悪さである。周辺が糸巻型に歪曲していて後方視認に使える面積が外寸より狭い。しかも左右で品質に差があり、私が試乗した個体では特に左ミラーの視界が悪かった。ボディカバーを固定するネジも固定箇所と色を統一していなかったりと、細かく見ていくと質感は価格なりである。なぜかホイールだけはアルミキャストを奢っている。

 メインキーをONにするとチャージ音が聞こえる。ブレーキレバーを握ってセルボタンを押すとすぐにエンジンが始動する。キックスターターも装備されているので、バッテリーが弱ってきても安心である。バルブ数やボア×ストローク比は異なるが同じメーカーだけあってシグナスXにエンジン音は似ているところがある。静寂な中にもささやかな鼓動感があり、私は好きである。

 平地でアクセルを全開にしてみたところ、約100mで60km/h、200mで70km/h、300mで80km/h、400mで85km/h、600mで90km/h、約1,000mで95km/hを指していた(全てメーター読み)。平地最高速はそのあたりだと思う。緩い下り坂では105km/hぐらいまで伸びるのを見たが、スピードメーターは多少大げさな気がした。体感的には55km/hくらいでもメーターは既に60km/hを指している。

 発進がやたらトロイくせに、その後はしぶとく伸びていく。本来の性能が殺された感が強い。加速の谷はないが、メリハリもない。スタートダッシュはクラス最下位でほぼ間違いないだろう。しばらく乗っていたら私はこのトロさに慣れたが、周囲が許してくれるかどうかは別問題である。幹線道路ではアクセル全開で発進してもしばらくの間は後続車両がぴったりと付いて来て追越しの機会を伺っていることが多かった。
 『ゆとり通勤』とは良く言ったものだ。本当は“ゆとりーと”が名前の由来なんじゃないのか。
 ただし誤解のないように言っておく。トリートの走りにゆとりがあるのではなく、周りのゆとりがあってトリートが走れるのだと。好奇心が先行する短い付き合いだからいいものの、これから毎日このスローな加速に付き合えと言われたら、我慢できるほど私は人間が出来ていない、と思う、たぶん。
 リード110のように最高速はほどほどに抑え、発進加速を軽くしたほうが街乗りでは使いやすいと思う。

 比較対象区間304.7kmを走行したところメーターは310.6kmを指した。+1.9%の誤差を修正すると、その区間の平均燃費44.0km/Lになった。市街地区間は修正後で38.2km/Lになった。動力性能はスペイシー100、燃費はリード110にそれぞれ近い。
 このクラスはもともと余裕がなく、出力を抑えたからといって燃費が劇的に向上するわけではない。トリートがその良い例となった。わずかな燃費差よりもアドレスV125のようにストレスのない加速をするほうが交通安全にもかなうのではないか。

 運動性能。落ち着いたハンドリングで動き出せばけっこう安定している。適度に重いのと着座姿勢に無理がないことも安定感に寄与している。どちらかというと直進の方が得意のようだが、旋回性もけっこうイケる。ハンドルを目いっぱい切った位置でクルクル回ると遠心力でだんだん円が膨らんでくる。もっと倒し込んでしまえばいいのだろうが、そこから先に踏み込むにはもっと低速トルクが欲しい。それがかなえばアドレスV125よりも旋回性が良くなるかもしれない。

 ブレーキレバーを前だけ、後ろだけ、前後同時に、握って乾燥路面で短制動を試みたが、いずれの場合でもロックしやすかった。それでもタイヤの鳴り出しが良く聞こえるので、滑り出すタイミングが分かりやすかった。シグナスXよりローター径もポッド数も劣るフロントディスクブレーキだが、タイヤのグリップ力とのバランスはそう悪くないと思う。乾燥路面で常識的な走りをする限り不満のない制動力と言っておこう。

 乗り心地。ほどよい重量感があるので、“路面が良ければ”アドレスV125よりも快適である。フロアは広いとは言えないが、シグナスX、グランドアクシス、リード110よりも足を伸ばせるので“路面が良ければ”これらよりも快適である。しかししばらく走っていると、その快適性に疑問が浮かび上がる。
 段差を通過するとフロントは強く突き上げる。はじめはフロントサスかと思ったが、それ以前にフレームがだらしないようだ。アイドリング時からしてハンドルは前後に数ミリぶれている。足元からハンドルポストへと伸びるフレームが、パイプ1本だけの古いスクーターにありがちな弱さである。
 シグナスSiでは左片持ちの後輪だったが、トリートでは右にも補助アームが取り付けてある。リアサスは左側1本のままだが、1本のアクスルで後輪を左右から挟みこむようになっている。この補助アームはマフラーを支持したり、リアフェンダーを取り付ける役割も担ってる。騒音・振動対策だと思うが、後輪周りの剛性は最高速付近でも不満はなかった。

 このようにトリートは車体前半と後半で剛性感が異なる。全く初めてスクーターに乗る人だったら、こんなものだろうと割り切れるだろうが、トリートよりも剛性感のあるスクーターに乗ったことのある人(がほとんどだと思う)だったら終始違和感を覚えるだろう。

 公式サイトでは『シート下のヘルメットボックスには、A4サイズのファイルも収納可能。仕事に必要な資料やツールを持ち運ぶ際に便利です。』という宣伝文句を展開している。ヘルメットボックスの表面はスクエアに近い形状なので、確かにA4サイズのプラスチックケースくらいならすっぽり入る。しかし内部形状はデコボコなので、A4コピー用紙2冊(1,000枚)を飲み込むアタッシェケース:ゼロハリバートンDZM1・LMA4が入るか?などという過剰な期待は抱かない方がいい。あくまで開口部がA4より広いだけと考えたほうがいい。

 ヘルメットについては内部の窪みとシート裏面の繰り抜きに合わせて斜めに傾けることで、Mサイズのジェットヘルメット:SZ-RAM3がなんとかギリギリぴったりと収まった。(頬パッドを多少圧迫しているようだが)この窪み方だとジェットだからといっても何でも入るかどうかは分からない。それでもヘルメットを1個いれても左側方にまだ空間が余るので、アドレスV125よりは収納力はありそうだ。

 このリアキャリアは取り回しハンドルや同乗者のグリップを兼ねていて便利だが、肝心のキャリア部分は狭い。それでもヤマハは『ヘルメットボックスに収納しにくい荷物をしっかり積載できます』(耐重3kg)と謳っている。私の感覚ではしっかりとしたリアキャリアを持つ普及クラスのスクーターは国内では1台もない。フラットで使いやすいだろうという意味ではリード110、スクーターではないが剛性まで期待できるのが、スーパーカブ110、同110プロ。リアキャリアで選ぶとすればこの3台くらいだ。あとのはBOX付けてナンボである。トリートのいうしっかりとは樹脂チックなアルミ製リアキャリアのグランドアクシスやオプションで1万円もぼったくるシグナスXに対してしっかりという意味だろう。当社比という言葉が抜けている。

 コンビニフックは大きめで『薄型のビジネスバッグ』はブラ下げることはできよう。しかし耐重1kgに収まるビジネスバックってほとんど何も入ってない状態だと思うのだが。
 それでも、フロントインナーラックはメインキーの下にも空間があるし、前カゴも装着できる。ほとんど足の置き場がなくなるが、2Lペットボトル6本入りの段ボールがフロアに載るので、日常的な買い物には苦労しない。

 機敏性のドレス、後席のード、値段のクシス・トリート。今回のアリア戦はうまく住み分け出来たと思う。不景気な今、少しでも節約したい人にとってトリートは強い味方となる。運転席の着座姿勢がやっと平均並みになり、いずれの機能も最低条件はクリアーしているが、やはり亀のような出足が、、、、、後で駆動系を弄るなら、、、、、通勤快速仕様として販売するヤマハの販売店で、、、、、えっその値段だったらアドレスとほとんど価格差がなくなっちゃうんじゃ、、、、、。

2009.10.23 記述

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