シグナスX-FI
台湾FI仕様

 長所:1ライト 2運動性能 3演出力 4操作性
 短所:1着座姿勢 2タンデム居住性 3タンデム操縦性

 2003年の発売以来人気の高いシグナスXが2007年11月にモデルチェンジした。ロボットアニメ世代に受けそうな威喝い外観で、これの赤い奴は私はナマハゲを連想した。ヤマハのホームページによれば次のように改良したという。

1 フューエルインジェクションを採用して19年排ガス規制に適合
2 駆動系のセッティングを変更して中低速域の加速性を向上
3 シートを厚くし、フットボード前面の傾斜角度を緩めて着座姿勢を向上

 今回試乗したシグナスX・FIは2007年式の台湾現地モデルである。慣らし運転直後と16,000km走行の2台に試乗した。ヤマハが正規に輸入する日本向けのシグナスX・SR(FI)と比べると、ウェイトローラーの違いで加速が良く、CDIによる回転リミッターがなくて速度も伸びると言われている。そしてメーターパネルにはタコメーターを装備している。

 イグニッションをONにするとチャージ音が聞こえ、準備が整う。セルボタンを押すと一発で始動する。ストトトトトというリズム感のあるアイドリングはあまり静かとは言えない。音質も品が悪くなる一歩手前だが、その気にさせるリズムで、私はけっこう気に入った。日本の騒音規制はパスしないが、自車の存在を歩行者にアピールするには低速からこれくらいの音量があってもいいと思う。速度を上げるほどに振動が減る。クオォォ〜〜ンンというエンジン音はなかなか心地よい。

 アクセルを捻って思わずニヤリ。キャブ仕様のあの重さから開放されているではないか。さすがにアドレスV125の発進加速には及ばないが、それでもリード110より速い。16,000km走行車で平地でアクセルを全開にすると、約100mで63km/h、約200mで79km/h、約300mで89km/h、約400mで96km/h、約500mで100km/h、約1,000mで105km/hを表示した(全てメーター読み、以下同じ)。慣らし運転直後の車体で平地最高速110km/hを確認した。この速度から断続的なリミッター現象が生じ、下り坂でも110〜111km/hより先は伸びなかった。比較対象区間304.7kmを走行したところオドメーターは310kmを表示していた。100m単位での表示をしないので正確ではないが、距離計に+1.7%の誤差があるとするならば平均燃費は慣らし運転直後の車体で37.6km/Lに修正される。(16,000km走行車で36.9km/L)

 最高速巡航でも恐怖はない。バンクしてもフレームが捩れる様子はなく安心して走ることができる。もう少しパワーのあるエンジンでも車体は音を上げないだろう。

 国内向けキャブ仕様でも安定性旋回性のバランスが良かったが、フロントサスが硬く、瞬発力に欠けるエンジンだったので、剛性感があっても車体性能を持て余しているように感じた。今度のシグナスXはフロントサスがいくらかソフトで、2本のリアサスも相変わらず踏ん張りが良く、挙動は一切乱れない。ユニットスイング式なので路面が粗いと多少はバタつくが、その衝撃のひとつひとつ、全て角が取れているかのようだ。例えばアドレスV125で段差を通過すると、ガタン(前サス)→ガタン(後サス)という2回の大きな衝撃が来るが、台湾シグナスX・FIだと、カタン(前サス)→コトコトン(後サス)という3回の小さな振動が来る。

 ブレーキは握れば握った分だけ、速度も落ちて、フロントサスもしなやかに動作する。ブレーキの“効き”とフロントサスの“沈み”がうまく調和し、スポーツバイクのようだ。前回はブレーキがまだ馴染んでいなかったせいかシーシー鳴るばかりで期待するほどの初期制動力はなかったが、16,000km走行車ではシーシー音がなくなっていた。ローターも波打っているにもかかわらず効きは慣らし直後の車体よりも良かった。

 機敏性が向上したエンジン、柔軟性のあるサスペンション、剛性感のあるフレーム、これらがうまく調和して、すばらしい運動性能を獲得している。あとは操縦性快適性に直結する着座姿勢を改善することで立派なスポーツスクーターになれるだろう。

 台湾シグナスXは運動性能と元気なビートサウンド、そしてアナログ式タコメーターで、走る楽しさを演出している。メーター内照明も凝っていて、タコメーターの目盛りは青く光り、針はオレンジに光る。デジタルメーターの方もバックライトで常時照らされていて、距離計(オド・トリップ)、速度計、時計、燃料計、オイル交換時期警告、の情報が得られる。タコメーターを見ると、アクセルを少しでも捻っているとエンジンは常に6,000回転も回っている。エンジン回転数と速度の関係が絶えず変化するCVT車の回転計は見ていてなかなか楽しい。

 操作性。イグニッションにキーを差し込んだまま、ハンドルロック、シートオープン、そして給油口を開けることができて便利だった。特にツーリングで後席からリアスポイラーにかけて載せた荷物を降ろさないでも給油できるのは良かった。ウインカースイッチは左右スライドスイッチの中にプッシュキャンセラーを内蔵するスイッチである。以前は使いにくいと思っていたが、同じスイッチでも今回は動きの滑らかな個体に当たった。防寒防水の厚手グローブを使用した今回の試乗では、逆に使いやすかった。左右スライド操作中にプッシュ操作が出来ない構造なので誤操作しないからである。スキーグローブでもなんとか操作できるだろう。ホンダ・スズキのプッシュキャンセル式ウインカースイッチだと左右操作と押し込む操作が同軸にあるので厚手のグローブを使用したときは誤操作することがある。ハイビーム・ロービーム切換えスイッチもハンドルグリップから遠すぎず、ホンダ車よりも操作しやすかった。

 積載性は旧モデルと同様である。給油口の関係でインナーラックは右側部分しかない。フロアはフラットではあるが、この着座姿勢ではフロアに荷物を置くべきでない。コンビニフック、メットイン、オプションのリアキャリアをフル活用すべし。収納性。シグナスX・FIもヘルメット2個収納を謳っているが、底が浅いので、1個プラスアルファと割り切るべきである。ジェットヘルメット:SZ-RAM3は後半部分に前向きで収納することができた。残ったスペースは高さが極端に低いので収納できる半キャップなんてあるのだろうか?

 旧型シグナスXに比べてシートが厚くなり、フットボード前面の傾斜角度が緩くなったのを実感できたが、それでも着座姿勢は依然として褒められたものではない。シートはただ柔らかいというだけでコシというものがない。サスペンションの硬さとのバランスも悪い。シート表皮もパンツによっては滑りかねない素材である。しかしシート以前の問題としてそもそもフロア(フットボード)の位置が高すぎる。足で踏ん張りきれない姿勢はケツへの負担が増す。実際2時間くらいでケツが痛くなる。

 2ケツ居住性(タンデム)。シートスペース以外は不親切な設計だ。グラブバーとシートの隙間をもう少し広げれば、同乗者は厚手のグローブを付けていても内側からグラブバーを掴むことができるようになる。また、運転者が足を接地する時に同乗者の足に接触するのは勿論だが、走行時もフロアに足を置いていると同乗者のクツと接触しそうでイライラする。

 ガソリンタンクをフロア下に設けつつ、フラットなフロアにこだわるから、フロアが底上げされて着座姿勢に無理が生じるのである。車体サイズを拡大せずに着座姿勢、2ケツ居住性、2ケツ操縦性、収納力を向上させるなら、フラットなフロアなど捨ててしまい、むしろニーグリップできるほど股の前の空間を埋めてしまってはどうだろう?

 埋めた空間の下部は燃料タンクを立てて中央に配置して、両脇のフロアステップを深く掘り下げる。これによって着座姿勢を改善する。燃料タンクの上部はもうひとつのメットインスペースを設置する。これによってシート下と合わせてフルフェイスが2個収納でき、なおかつニーグリップもできれば、操縦性も高まるだろう。スポーツスクーターとしての個性を高めるために、シグナスXにフラットステップよりもニーグリップを与えるという方法もあると思う。

 そこまで大げさな事が出来ないというのなら、せめて5cmでも運転席を後方にずらせればだいぶ良くなるのだが、、、そうするとフルフェイスが収納できなくなるだろうか。

 ヘッドライトはロービームかハイビームかで随分と明るさが異なるように感じた。ハイビームにすれば文句ない照射力である。ヘッドライト左右に2灯のポジションランプがあって個性的だが、被視認性を高めるならスペイシー100/125やリード110/EXのようにウインカーをポジションランプとして常時点灯させた方が色彩的にも目立つと思う。勿論全部点灯していればなお安全だろう。画像はハザードを点滅させた状態である。

 前回の試乗は最悪の条件だった。ほとんど雨が降っていて、夜間の峠道にあっては雲の中にどっぷり浸かって数m先が見えないほどだった。それにもかかわらず、55/60Wマルチリフレクターヘッドライトによる照射力と優れた運動性能でツーリングを楽しませてくれた。今回の試乗は晴天で路面が濡れている所は少なかった。照射力+運動性能がモノを言う暗黒の峠道では、今まで取り上げた原付二種スクーターの中で最もハイペースで走れたような気がする。(昼間ならアドレス110か)着座姿勢だけでこんなに損したゲンツーも珍しい。

2010.5 追記/2008.8.21 記述

シグナスX
国内キャブ仕様

 長所: 1デザイン 2取り回し 3運動性 4経済性 5収納力
 短所: 1着座姿勢 2機敏性 3衝撃吸収力

 ヤマハはシグナスと呼称する4st125ccスクーターを何度か入れ替えているが、どれもオッサン臭くて存在感に欠けていた。2003年5月に発売されたこのシグナスXはシャープな外装をまとい、初めて若者にも注目されるマシンとなった。今回試乗したのは2005年式シグナス?(標準モデル)のフルノーマル車(日本向けキャブ仕様)。尚2003年式から2006年式まで諸元に変更はない。

 取り回しが軽い。ずっしりと重いホンダ・@125と8kgしか差がないのに、車体を左右に振った時のこの軽さは何だろう。低重心設計に成功したのだろうか。

 試乗前から危惧していたが、やはり着座姿勢が悪い。燃料タンクをフロア下に設置したせいもあって、フロアステップの位置が高すぎる。あと5cmは下げないと足で踏ん張れない。シート前後に段差があり、最低限のコシもあるから、グランドアクシスよりいくぶん改善したものの、長時間走行では確実に腰に負担がくる。短時間走行でもストレスを感じるし、すりぬける際にもフラつきやすい。

 エンジンをスタートする。スペイシー100は静か過ぎてつまらないが、シグナスXは静寂な中にも独特のビートを刻む。適度なこの鼓動音、私は好きだ。振動はアイドリング時に実感するが走り出せばほとんど気にならなくなる。騒音も全域に渡って気にならない程度に抑えられている。

 アクセルが重い。スロットルケーブルを戻すスプリングも強いのだが、加速も付いてこない。全域でスムーズに変速しエンジンもフラットトルクだが、アグレッシブな外観から想像するほどの加速性能ではない。体感加速はスペイシー100より速いがアドレスV125@125より遅い。アクセルを全開にしてみた。約100mで60km/hに、約300mで80km/hに到達した(全てメーター読み。以下同じ)。そして1,500mの直線区間で98km/hの最高速を確認した。延々と直線が続けばいずれ100km/hには達するかも知れないが、80km/hから先はかなりゆっくりである。夜間の主要国道では多少力不足を感じるだろう。

 燃費はさすがに良い。一般国道を単独乗車で250km走ったところ39.8km/Lになった。半分は渋滞ぎみで、道が開けばアクセルを絞っていたし、峠区間では常時全開である。それでこの数字だから、50km/h一定で平地を流そうものなら45km/Lは堅いだろう。

 前後12インチホイールで車体そのものの直進性は良い。制動時は車体が完全に停止してから足を地面に移せば足りる。そして旋回性はもっと良い。ハンドリングはシャープだし旋回時に車体がねじれるような感覚もない。腰の振りひとつで向きを変えられ、正にオン・ザ・レールのごとく狙ったラインを正確にトレースすることが出来る。この直進性と旋回性のバランスの良さは同クラスではスズキ・アドレス110(2st絶版車)に次ぐのではないか。少なくともグランドアクシスとは全然モノが違う。これでもっとエンジンにパワーがあり、フロアステップが低ければ、かなりのスポーツスクーターに化けるだろう。

 4stにしてはエンジンブレーキが弱めである。2stほどではないがすばやく再加速できるこの特性は私の好みである。フロントディスクもリアドラムも十分に効くので急制動でも落ち着いていられる。

 衝撃吸収力。グランドアクシスにも共通するが段差を通過した時の衝撃が強い。路面によってはブレーキレバーに指を移すことすら怖くなるほどハンドルに強い衝撃が伝わる。自ら高性能を謡うフロントサスペンションだが、その性能を相対的に引き出せてないような気がする。シグナスXの上級モデルとしてシグナスX-SRがある。リアサスが3段階調整可能になり、これによっていくらか乗り心地が良くなるのならSRの方をお勧めしたい。

 収納性ヘルメット2個収納(フルフェイスとハーフサイズ)を謳っているが、このメットインスペースは底が浅いので2個入るか大いに疑問である。アライ製ジェットヘルメットSZ−M(Mサイズ)を普通に入れたら半キャップがマトモに入らなかった。今度はシールドを全開にして半キャップを絶妙な位置に重ね合わせ、無理矢理シートを押し付けて何とかトランクを閉じることが出来た。おいおいMサイズのジェットでさえこんなでは、フルフェイスと組み合わせて収納できるハーフサイズヘルメットって自転車用のことか〜?2個収納を期待する人は必ず手持ちのヘルメットで確認しよう。
 まあマトモに2個入らなかったとしても1個のヘルメットにプラスアルファのスペースがあることは事実なので、収納力はアドレスV125、スペイシー100、スペイシー125より上である。

 積載性。コンビニフックとメットインだけが頼り。フロアはフラットではあるが、着座姿勢の苦しさからしてフロアに荷物を置くことはお勧めしない。リアキャリアはオプションで1万円もボッタくる。

   2ケツ居住性。シートは運転席部分と同乗席部分にきちんと段差があるので同乗者が運転者に押しやられることがない。狭すぎず広すぎず適度な密着度がある。リアスポイラーのようなタンデムグリップがとても掴みやすい。横でも後ろでも好きな位置を掴めるので、彼氏(彼女)にしがみつく必要がない。ここまではまあいいが、後席のステップはボディ一体式で、運転者が足を接地する際にしばしば同乗者の足にぶつかる。ボディ一体式を採用するにせよマジェスティ125のような空間的なゆとりはない。

 2ケツ操縦性。後輪の車軸が同乗者のヒップポイントより後方にあるので2ケツしても相変わらず直進性が高い、車体そのものはね。ただし運転席のフロアステップの高さがここでも欠点として目立ってくる。足で踏ん張れず、荷重移動がし辛い。比較的コンパクトなボディにもかかわらず2ケツしてのすりぬけが苦手である。

 操作性。ハンドルロックは勿論のことシートオープンまでイグニッションにキーを差し込んだままの状態で出来る。アドレスV125もスペイシー100も同様ではあるが。ガソリン給油口がフロントカウル内側にある。シートを開けなくてもいいのでシート後方からリアキャリアに跨って大きな荷物を載せている時は便利である。が、コンビニフックをフル活用する方は給油ノズルをしまう際にコンビニフックに引っ掛けたビニール袋の中の食品にガソリンを垂らさないよう気をつけよう。

 ウインカースイッチがしょぼい。左右スライドスイッチの中にキャンセラーを内蔵するスイッチだが、精度が低くて小気味よい操作ができない。頻繁に手に触れる部分なのでこの辺りの質感と操作性はすぐにでも高めて欲しい。左右バックミラーは張り出しが大きくすりぬけには気を使うが2ケツしても後方を確認しやすい。ヘッドライトは夜間走行に安心な55/60Wマルチリフレクター。始動はセルの他、キックでも可能なのは通勤スクーターとして当然である。アドレスV125やスペイシー100もキックが付いている。

 デザインも運動性も燃費も良く、なかなかの力作だと思うが詰めが甘い。そもそも適正な運転姿勢なくして安全も快適も得られない。ヤマハの設計者は自らこのスクーターで毎日通勤してみるがいい。そうすれば私の言いたいことは分かるはずだ。

2006.8.6 記述

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