台湾ヤマハ
マジェスティS

単独評価
 長所: 1価格
 短所: 1着座位置 2足着き性
PCX150と比較して
 長所: 1標準タイヤ 2乗り心地 3高速安定性 4ヘルメット収納力
 短所: 1足着き性 2取り回し 3燃費 4航続距離

 2013年8月、ヤマハは台湾で生産されるSMAXマジェスティSとして国内販売することにした。今回は2015年製2LD2に試乗した。見るからに足着きも足置きも悪そうな外観だが、その予想はそう裏切られることはなかった。

 足着き性シグナスXより更に悪い。170cmない私の場合、かなり前に着座すれば両足共にべったり接地できるが、足元の狭さをなるべく感じないように深く腰をかけて片足をべったり接地させると反対側の足はつま先すら地面に届かなかった。その位置では両足共につま先が接地するのがやっとである。

 運転席。フロアが高くて足元が広くないので、シートに深く腰を掛けて両足とケツの3点で踏ん張って操縦するしかないのはシグナスXと同じ。マジェスティSで、運転席の一番奥(=シートバックの麓)からフロアステップの傾斜角度が変わる所までを測ると約80cmしかない。ステップの幅が最大となるもう少し浮いた位置で測ると約77cmしかない。一方、3型4型シグナスXで、運転席と後席との境界点とフロアステップの傾斜角度が変わる所までを測ると約90cmあった。シグナスXの運転席は尻上がりでシートバックと呼べる部分がないので同じ測り方になっていないが、少なくともマジェスティSシグナスXより広大な足元を提供しているとは言えない。それでも3型4型シグナスXよりまだ踏ん張りやすかったのは次の理由と思われる。
 1、運転席と後席との高い段差が背もたれとして機能する。
 2、足を伸ばした先のフロア傾斜角度が3型4型シグナスXより緩い。
 3、足を伸ばした位置のフロア幅が4型シグナスXより約9?、3型シグナスXより約7?広い。
 ハンドル幅(グリップエンド先端)が3型4型シグナスXより約7?広いことも操縦性を補っていると思う。結果として4型シグナスXよりマシな着座姿勢で、長時間走行で肉体的に疲労した箇所も特になかった。

 それでも試乗期間中ずっと違和感が拭えなかったのが、着座位置である。マジェスティSシグナスXより更に20cmほど高く20cmほど前に着座しているような感覚があるのだ。初代マジェスティ250のコンセプトはスポーツセダンだったはず。シグナスXでさえセダンを通り越してSUVのような着座位置なのに、マジェスティSはそのSUVすら通り越してもはやミニバンのような着座位置だ。シグナスXよりエンジン出力が高いから危なげなく操縦できているが、本音としてはもっとロー&ロングなポジションで運転できるソファスクーターにして欲しかった。このハイト&タイト&フォワードなポジションはどちらかと言うとシグナスXの延長である。フレームだって過去のどの150〜250ccヤマハスクーターよりも4型シグナスXに近い設計をしているように見える。車名もXC155だし。

 後席。センタースタンドを立てた状態で後席は運転席より約17cmも高い。一見すると大きく見えるシートだが、山が盛り上がったような形状をしていてフラットな登頂部は長さが28cm、幅が23cm(前)〜14cm(後)しかない。それでもシート表皮のグリップやシートクッションに問題なく、スタンディングハンドルも同乗者がちゃんと握れる位置にあるので後席居住性や座り心地に問題はない。タンデムフットレストは使うときも格納するときも格納方向に押し込むタイプだが、ときどき出にくいことがあった。この取り付け位置は、同乗者にとっては着座している時には良いが、乗降の際は高さと前後のぐらつきが気になった。運転者にとっては信号停止の際の足着きで同乗者の足と接触しにくいのが良い。シグナスXだと足着きの度に脛が同乗者のつま先に当たるのが密かなストレスだった。

 85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にすると100mで71km/h、200mで86km/h、300mで95km/h、400mで99km/h、500mで101km/h、600 mで104km/h、700mで105km/h、800mで106km/h、900〜1,000mで107km/h、1,100mで108km/h、1,200m〜1,500mで109km/h、1,600mで平地最高速110km/hを確認した。(全てメーター読み、以下同じ)。仮に速度計に+10%の誤差があるとするならば平地で100 km/hまでしか出ないように抑えていると思われる。これはPCX150も同じである。登坂は勾配にもよるが90〜105km/h、下りは128km/hまでは確認できた。動力性能は歴代シグナスX最強と思われる2型台湾仕様より少し上回る程度である。

 比較対象区間304.7kmを走行したところオドメーターは309.3kmを示した。距離計の誤差は+1.5%と推定する。その区間の平均燃費36.0km/Lになった。燃費はシグナスXよりわずかに劣る程度である。次に、PCX150と同様に単独乗車で高速道路を流れに合わせて走行したところ、実燃費は29.7km/L(復路は41.3km/L)になった。流れに合わせると言っても15psしかないSG28Jではアクセル常時ほぼ全開である。しかも約800mの標高差を一気に駆け登っている。燃費でPCX150に負けることは予想していたが、全開どうしでは思っていたより差が少なくて安心した。燃料タンク容量は3型シグナスXより300cc、4型シグナスX より900cc多いだけの7.4Lである。航続距離は高速使用で200km、下道ツーリングで250kmが目安となろう。軽二輪ならもう少し容量が欲しかった。PCX/150は8Lも入るので燃費と掛け合わせた航続距離の差は少なくない。

 運動性能。ホイールベースが長くホイールサイズも大きいので走り出せばなかなかの安定性である。直立直進状態で発進すればふらつくこともないし、常識的な旋回であれば無難にこなすことができる。ただし、ハンドルを目いっぱい切った状態で発進したり、コーナーを攻め込むとやはり違和感を覚えるのだ。狭い運転席の割に着座位置が前すぎないか、高すぎないかと。操縦性重視のスポーツスクーターにしたいならもう少し後ろに着座したい。快適性重視のコンフォートスクーター(ソファスクーター)にしたいならもう少し足元を広げたい。足着きの良いシティスクーターにしたいならもう少し低く着座したい。こんな所にライダーを座らせて一体何をさせたいのかが伝わって来ない。

 車体が250ccクラスのスクーターよりスリムなのですりぬけ戦闘力は250ccクラスのスクーターより良い。シグナスXとはどっこい。フロアステップが傾斜する直前の幅はシグナスXと同等の40cm程度に抑えられている。伸ばした足を置く所より幅が狭いのは、すりぬけを考慮していると思われる。シグナスXより有利なのは着座姿勢+動力性能+ホイールサイズ=安定性。不利なのは着座位置+車体の長さ+ハンドル幅=小回り。

 タンデムして思うのは、後方に移動した重心が直進時の印象を良くしたが、上方に移動した重心がコーナリングでの倒し込みを怖くしていること。必要な加速を得るためというより安定性を確保するために低速域ではついついスロットルを多めに回してしまう。タンデムすりぬけもマジェスティ125ビッグスクーター勢より気を遣う。

 市街地メインならシグナスXの12インチホイールで十分だが、この13インチホイールは高速走行で大きく差が出た。PCX/150の細すぎる14インチよりいい。PCX/150は速度を上げるほどに直進性が高まるのだが、同時に腰高感まで増していく。一方、マジェスティSはフロアをもう少し下げて欲しいと感じたが、市街地走行でも高速走行でも腰高感に大きな変化がないのは好印象だった。それゆえ、PCX150マジェスティSのどちらがいいか?と問われれば、市街地メインなら取り回しが軽くて足が着きやすいPCX150がいい、週一回でも自動車専用道路を通るならマジェスティSがいい、と答える。

 では維持費のことを抜きにして、PCXPCX150のどちらがいいか?と問われれば、同じサイズで余裕の増すPCX150の方が絶対いい、と断言するが、シグナスXマジェスティSのどちらがいいか?と問われれば、車体がかなり大きくなるので話はそう簡単ではない。マジェスティSシグナスXより一段と足着きが悪く、取り回しも重くなる。それでいて運転席の居住性や動力性能の上積みはわずかである。その一方で値段も燃費もシグナスXとあまり変わらない。自動車専用道路を通行する頻度や収納したいヘルメットで選択が分かれるだろう。

 快適性
 まず乗り心地。前後サス共にやや固めの印象を受けるが、3型シグナスXのようにフロントサスからコツコツ路面の凹凸を拾う傾向はない。マジェスティ(250)と同様に1本のリアサスを水平方向に寝かせて取り付けた効果だろうか?後輪から受ける衝撃もシグナスXと比べるとかなり少ないと思う。高速走行時の安心感はPCX/150より高いので、週一回でも自動車専用道路を通行するのならマジェスティSをお勧めしたい。
 そして防風効果。標準状態ではシグナスXPCX/150に劣るかもしれない。前方投影面積が狭く、スクリーンレスなボディは雨のなかで極めて不快になる。ボディから伸びた鶏冠(とさか)みたいな突起では当然高さが足りるわけがなく、雨が下腹部を直撃する。フロアが高くて水平の高さまで膝が持ち上がるからカッパの水滴がよく股間に滴ってくる。傾斜のあるシートバックも水滴を上手くケツに落としてくれる。シートがだんだん湖のようになってくる。このスクーターに湖マジェ(コマジェ)という愛称を進呈しよう。ボディマウントタイプのウインドシールドQ5K-YSK-080-R05(税抜19,000円)を付けて少しでも風防風貌を向上させたい。

 標準装着タイヤはKENDA(台湾製)のK703(F)を採用。サイズはF:120/70-13、R:130/70-13である。前後で幅は異なるが、同一インチ、同一扁平率を採用するのもシグナスXと同じ手法である。グリップはPCX/150の標準タイヤより良いが、シグナスXには劣るのではないか?というのも、乾燥路面でフロントのみの短制動でフロントタイヤを滑らせることができるほど強い制動力を持っているから。そもそもフロントディスクローターがPCX/150よりかなり大きい。雨天時は後輪を強めに掛けると後輪が滑って車体が右に左にテールスライドすることが多いので、後輪は添える程度に制動したほうがいいだろう。着座位置が前方寄りで唯一長所になり得るのが、後輪が滑ってしまったときに恐怖感が減ること。前輪を円心にして後輪がカーブを描くとき、より円心に近い位置に自分がいるからだ。上手く制動できるかは路面状態と貴方のコントロールに任せられている。

 積載性収納力
 シートヒンジにはスプリングが仕込んであり、メインスイッチでシートを開くとゆっくりとシートが持ち上がって落ちてこない。ダンパーを用いるよりコスパもいいし、場所を取らない。トランク内の前半部分は深さ不足で半キャップすら入らない。後半部分は3型4型シグナスXに勝る。Mサイズのアライ:MZ、Quantum-J、RX-7RRVのいずれでもシートを閉じることができた。ということは一般的な形状ならばどんなフルフェイスでも収納できる可能性が高い。後席がラクダのコブのように隆起してしまったのは、この収納力を確保するためなのか。メットホルダーはプラスチックの突起が2本生えているだけだが、実用上は問題ないだろう。

 右ひざ付近にフロントポケット(インナーラック)がある。ペットボトルは1,000mlまでのものが収納できた。底面が角型のタイプであれば更に280ml程度のペットボトルを同時に置きことができる。コンビニフックは3型シグナスXと同じもので、走行振動で荷物が外れることもあるのでご注意を。

 スタンディングハンドル(グラブレール)との交換装着品である純正オプションのリアキャリア(Q5K-YSK-080-E01税抜15,000円)はタンデムグリップ、取り回しハンドルを兼ねるのはいいが、荷掛フックを後端4か所だけでなく、中央と先端にも付けて後席から荷台にかけて大きな荷物を載せられるようにして欲しかった。中央と先端に付けると同乗者の手が荷掛フックに触れてケガするのを警戒したのか?それなら“付ける”ではなく“穴を開ける”という手法もある。15,000円も取るならもう少し考えて欲しい。

 操作性
 メインスイッチはシグナスXと同じ。国内仕様なので、左ひざ付近にある給油口へのアクセスは鍵の刺し替えが必要であり、シートオープンできる位置も限られている。
 左集中スイッチはシグナスXとは別物で、合図とキャンセルを同じスイッチで操作するオーソドックスなウインカースイッチである。ライトスイッチにパッシング機能を付属するが、ハザードランプは装備していない。
 アヴェニスPCXもそうだったが、ハンドルの向こう側にあるメーターパネルは、視界に入ってくるというよりは覗き込むようにして見なければならない。回転、燃料計、時間、速度、距離は全て同時に視認できる。セレクトボタンでODO→TRIP→OILCHANGE、それぞれの距離をループ表示し、リセットボタンはODOで時間調整、TRIPで区間距離リセット、OILCHANGEでオイル交換距離のリセットを行う分かりやすい設計である。なお、4型シグナスXより前に登場したせいか、TRIP計は1つしかない。燃料計の目盛りが7つあり、最初の7つが6つに減るのに約50km走行、そのあとは15〜25km毎に減っていく。比較的正確な燃料計と言えよう。

 バックミラーは4型シグナスXと同じもの。もう少し視認性を上げたければ3型のもの、更には社外品に代えよう。

 55/60Wハロゲンバルブをマルチリフレクトしたヘッドライトは夜間、雨天時は頼りになるし、LEDポジションランプも装備して前方からの被視認性はよろしいが、スクリーンレスだと前から見る車格感がシグナスXよりショボいのが残念である。発光部を共用するテール/ストップライトは制動時に光の強さが変わるだけで変化に乏しい。ライトの表面積を大きくするなり、ストップライトを独立するなりして後方からの被視認性をもっと向上させたい。

 タンデムや高速ではいささか力不足で街中ではいささか大きい。機能も性能も中途半端だが、用途を限定しなければ大きな不満も出ないスクーターだ。なんと言っても値段が安い。Save satisfaction, save money abject xanthous.(意訳:これで我慢したまえ、これで倹約したまえ、惨めな日本人よ。)頭文字を拾ってSMAXってところか?わざわざ日本名を付けるならマジェスティSではなくシグナスSでもシグナスGT(再)でも良かったと思う。Sはストレッチの略。13インチにしたら後輪は後ろに伸びて着座位置も上に伸びてしまいました、という意味で。

2016.3.13 一部訂正/2016.2.22 記述

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