タイヤマハ・XSR155

 長所:1運動性能 2燃費
 短所:1着座姿勢 2タイヤ 3後方視界 4照射力

 XSR155MT-15をベースにネオクラシカルなデザインを与えられたスポーツバイクである。そのMT-15自体もYZF-R15をベースにしているだけにXSR155も中身はスーパースポーツと言えよう。

 まず乗降性が良くない。画像のように後席に箱を載せようものなら、ステップに立ち上がってから回し蹴り降車したくなるが、サイドスタンドの傾斜角度が大きいので、ステップに立ち上がる乗降を繰り返すとスタンド取り付け部分の耐久性が心配になる。

 そして足着き性も良くない。身長170cm未満・股下(両足を肩幅まで広げた状態の股下から地面までの垂直距離)77cmの私が腰を掛けると両足ともにつま先しか接地しない。シートは高いし、シート形状も先端でも絞り込まれてないからだ。そして走行時には干渉しないサイドパネルの膨らみが、足を下に伸ばした際に股を広げるように邪魔をする。

 着座姿勢も私の体形だと良くない。オフ車のように大きく開いた幅広ハンドル(約81cm)が遠い位置に取り付けられている。このため、私の体形だと上体が前傾したうえで肩甲骨の裏側辺りの筋肉が引っ張られて疲労する。XSR155はどちらかというとXSR900に似ているが、個人的にはXSR700を再現して欲しかった。そうすれば手前に引いたハンドル形状になり小柄な私でも着座姿勢が良くなったと思う。私の体格を棚に上げてもこのハンドル形状と取り付け位置はおかしい。125DUKEも幅広で開いたハンドルだが、もっと高くて手前にセットしていて着座姿勢操縦性も良かった。

 座り心地も見た目ほど良くない。そのクッションにタックロールシートらしい肉厚さがない。それでもシート面積は広いのでケツそのものが痛くなることはなかった。シート幅は後端で24cmほどある。信号停止の多い市街地走行では、足着きの妨げとなるサイドパネルのせいで内股が痛くなる。

 ブレーキレバークラッチレバーもかなり遠い。足・腕・指・あらゆる長さが私に不足している。標準体型で175cm以上の身長がないとXSR155で快適な長時間走行はできないと思う。

 タンクやタイヤの太さ、高いシートで意外とボリューミーな車体で250〜400ccクラスの車格がある。見た目の質感もかなり高く、ジクサーに比べればハッタリの効くバイクである。それでいて取り回しは非常に軽い。

 

 後席は座面長が24cm、座面幅が前端で24cm、後端が17cmくらいあって運転席との間にシートバンドがあるため小排気量のネイキッドとしては平均以上の居住性はある。後席についての些細な不満は2点ある。後席の後方にも掴めるものが欲しいのだが、何を設置するにも現状ではテールランプの高さが邪魔になるだろう。また、前後席のステップが近いので、運転者と足がぶつかりやすい。

 ダブルシートはGROM等と違って妙な引っかかりが無くあっさりと脱着できる。シート裏面は前方から順に書類を固定するゴム、工具、そして見落としていたがメットホルダーも左右両方にある。シート下はごく薄い空間しか残されておらず、せいぜいETC車載器を仕込むくらいだろう。吸気口があるから本当は何も入れない方がいいのだろうが。シートと本体を固定するストライカーやテールライトの位置関係で、後席に手持ちの箱やシートバッグを置こうとすると画像のような位置に限定されてしまった。リアキャリア(GTR-Evolution:xsr155-rear-rack)は是非とも欲しいところだ。乗降性や作業性を向上させるためにセンタースタンド(xsr155-center-stand)も欲しい。

 乗り心地は良い意味で硬い。高速道路を走行しているときが最もフラット感が高い。市街地走行で路面の凹凸で後輪が跳ねた際にとても腰高に感じるのはYZF-R125YBR250にも似ている。リンク機構を持ったリアサスを後輪に採用しているが調節機構は持たない。

 リアに比べるとフロントサスは柔らかめで、制動時に結構ダイブする。そして停止寸前にハンドルは不安定になる(WETでは特に)。街乗りメインのバイクなら、キャスター角はもう少し寝かせて、リアとのバランスでフロントサスはもう少し硬めでもいいかなと思った。あるいはリアサスのスプリング・プリロード調整ができたなら市街地走行はもっと快適になったかもしれない。

 制動力。絶対的な制動力に不満はないが、前後バランスでいうともう少しフロントが強くてもいいかなと思う。そしてフロントサスの沈み加減をフロントブレーキの効き加減でもっとコントロールしやすくして欲しいと思った。現状では、フロントブレーキの効きに対してフロントサスの沈みの方がだいぶ早く感じる。それにはやっぱりもっとフロントをガツンと効くようにした方がいいのでは?と思う。

 エンジンは優秀。低中回転域ではジクサー(150)の扱いやすさ、高回転域はGSX-R/S125の伸び、両者のいいところだけを合わせたような感じ。最新のエンジンだからスロットルワークに対してレスポンスは良いし振動もとても少ない。それでいて回せば適度にウルサくて乾燥した排気音はレトロっぽさも感じる。デザイン的にもエンジン的にもネオレトロとはこういう事なのかと勝手に解釈した。7,000回転付近でバルブタイミングが高回転向きに切り替わるVVAを採用しているが、意外にもNMAXほど切り替わりの変化は感じなかった。

 単独乗車で一般道の比較対象区間(臨時改)297.4kmを走行したところ、オドメーターは303.0kmを示した。距離計の誤差は+1.9%と推定する。この区間の満タン法による実燃費は距離計誤差を反映して49.2km/L(平均燃費計は48.8km/L)だった。
 単独乗車で高速道路を流れに合わせて走行したところ、満タン法による実燃費は往路が28.4km/L(平均燃費計は29.8km/L)、復路は51.5km/L(平均燃費計は51.9km/L)になった。今回の往路も強い向かい風が吹き荒れるなかで約800mの標高差を一気に駆け登るアクセルほぼ常時全開の走行になった。復路は下り坂をメーター読みで85km/h以上出ないように気を付けた低負荷走行である。

 XSR155に85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にするとGPSは次の速度を表示した。100mで56km/h、200mで78km/h、300mで90km/h、400mで98km/h、500mで101km/h、600mで103km/h、700mで106km/h、800mで107km/h、900mで108km/h、1,000mで110km/h、1,100mで112km/h、1,200mで114km/h、1,300mで平地最高速の115km/hを表示した。エンジンがレッドゾーンに入るとリミッターが発動する。4速までは体感できたが5速以降はそこまで回らない。特に6速はほとんど巡航用のギアで、5速で伸ばした速度を更に伸ばす力はほとんど期待できない。GPSが115km/hを示した時XSR155の速度計は124km/hを表示していたので、速度計の誤差は(124-115)/115=+7.8%と推定する。

 

 タイヤの銘柄はIRC:TRAIL WINNER GP-211F/RでサイズはF:110/70-17、R:140/70-17である。空気圧は乗車人数を問わず前輪225kPa後輪250kPaと指定している。前回試乗したADV150と同様のタイヤパターンであり、連続して乗ることでより強く印象に残った。このタイヤの特徴は、溝が斜めに走っていることと、ブロック一枚一枚の表面積が広いことにある。
良かった点は、
 凍結防止の為に縦に溝が入った路面を走行しても路面の溝にタイヤが捕らわれにくい。
 DRY路面の直立直進や浅い旋回であれば、とてもグリップは高い。
悪かった点は、
 コーナリング中に後輪の接地点が左右に小刻みに変化するような感覚がXSR155でもADV150でもあった。
 DRY路面とWET路面でグリップが変わる(普通はそうだが)。同じ縦溝路面を走行しても雨天時はDRY状態ほど直進安定性が高くなかったし、XSR155は停止寸前にハンドルが不安定になりやすいが、雨天時は特にその傾向が強まった。コーナリング時に後輪が砂利や枝に乗ってしまうと路面とタイヤの間で砂利や枝が転がってしまい、いとも簡単に後輪がスライドすることも今回の悪天候下で頻発して怖かった。
 たかが悪天候のツーリングで怖い思いをするくらいだから、IRC:TRAIL WINNERはSUVの雰囲気を持たせたファッションタイヤに過ぎないと個人的には思う。

 

 バイク本体が持っている運動性能は実に素晴らしい。スチールフレームもアルミリアスイングアームもこのクラスとしては贅沢な造りで見ていて惚れ惚れする。シートが高いのも見晴らしの良さや倒し込みの素早さに繋がっている。車体が素晴らしいだけにこの中途半端な着座姿勢タイヤが本来のポテンシャルを台無しにしている。

 操作性その他について

 シフトチェンジは快適。軽い操作で確実にギアが移動するし、スロットルを回さなくても(エンジン回転で合わせなくても)1速からも2速からも一発でニュートラルに入るし、逆に1〜2速間の変速でニュートラルに抜ける事も皆無だった。慣らし直後でこんなに確実にシフトが決まる小排気量車はカワサキ・Dトラッカー125と同・Z125PRO以来である。シフトペダルとエンジンまでのリンクに変なガタつきや遊びがなくて精度の高さを感じる。XSR155がスーパースポーツに由来することもあるだろうが、同じヤマハブランドでも中国製のYB125SPとはレベルが全く違う。

 エンジンスイッチが特徴的である。従来のバイクだと始動はセルボタン、強制停止はキルスイッチとして独立しているのだが、XSR155はキルスイッチと一体化している。下にスライドすればリターンスプリング付きのセルスイッチとなりエンジンを始動させ、上にスライドするとノッチ付きのキルスイッチになってエンジンを強制停止させる。

 左集中スイッチも特殊である。ウインカースイッチは下の近く(外側)に、ホーンスイッチは上の遠く(内側)に配置されている。クラッチレバーホーンスイッチを同時に操作することは考えにくいので、制動時にホーンを鳴らせない事はないだろうが、ハンドルグリップからかなり遠いことに変わりない。
 もしも左レバーがブレーキだとすると左ブレーキレバーホーンスイッチの同時操作が難しくなるので、スクーターに採用するのは絶対に辞めて欲しい。ホンダの轍を踏まぬよう今のうち牽制しておきたい。

 

 バックミラーも癖が強い。ミラーtoミラーは約83cm。ハンドル幅に対して片側わずか1cmほどしか張り出してないうえに、ハンドルグリップからわずか約11cmの高さにミラーが取り付けられているために、鏡面の視界の4割以上を自分の腕や肩を占めていてほとんど後方が確認できない。車線変更の都度、直接目視で安全確認する必要がある。

 ヘッドライトはダメダメ。NMAXと同様に照射された部分だけは照度が高いものの、上下にも左右にも照射範囲が絶望的に狭い。ハイビームに切り替えるとレンズの上半分も点灯して、左右に極端に狭い範囲だけ照射距離が伸びるものの、それでも全然物足りないので、光軸のズレを疑ってみたが、ライトユニットは左右だけでなく下からも固定しているので動かせなかった。コーナリングで必要となる左右両脇下側の照射はさっぱりダメで、街燈に恵まれた大都市専用のLED提灯である。

 

 メーターは小ぶりなサイズだが表示内容は充実している。エンジン回転でメーター内を円で囲い、その中を上からギアポジション速度計マルチファンクションメーター燃料計常時表示している。メーターユニットの左右両脇にボタンがあり、左脇のセレクトボタンを押すとマルチファンクションメーターの表示内容が次の順番に変わる。累計距離ODO→区間距離TRIP 1→区間距離TRIP 2→(※TRIP F)→時計clock→平均燃費km/L→平均速度km/h→バックライト照度bL→ODO。それぞれの内容を表示した状態でメーター右脇のリセットボタンを押すと表示内容のリセット/表示方法の変更が出来る。平均燃費であればL/100kmに、バックライト照度であれば弱bL-01〜中bL-02〜強bL-03という具合に。

 燃料計の目盛り(=セグメント)は6つある。目盛りが5個→4個→3個へは約20kmごとに変化して分かりやすかったが、6個の目盛りが5個に減るまでに走行する距離と3個の目盛りが2個に減るまでに走行する距離がともに110km以上とやたらと長かった。燃料タンク容量は10Lなので最大で500km航続できよう。ちなみに燃料残が1.8Lになると最後の目盛り1個が点滅し、そこからの走行距離を示すTRIP Fがマルチファンクションメーターに乱入する。50km/Lペースで走行すればあと90km航続できるからTRIP Fを差し引いた距離以内に給油しなければならないことが分かる。燃料計はあまり当てにならないが、TRIP Fは重宝しそうだ。なおTRIP Fが登場しても表示内容は他のものを選択できるし、再給油してしばらくするとTRIP Fは選択表示から消える。

 面白いことにセレクトボタンリセットボタンは互換性があり、右脇のボタンをセレクトボタンとして押すと先とは逆の順番に表示内容が切り替わり、左脇のボタンをリセットボタンとして使う事ができる。つまり左右はじめに押したものがセレクトボタンで後に押したものがリセットボタンになるのである。多機能なメーターだが、信号停止中にちょっと確認したいだけでもセレクトボタンを7〜8回も押さなきゃならないのは面倒だ。とりあえず時計を独立表示して操作の迅速性を図って欲しい。

 メーターパネルに太陽光が当たるとbL-03でも速度・ギアポジション以外は見えやすいと言えない。そもそもメーターユニットに対して表示する部分が全体的に小さすぎると思う。雨あがりの翌日にメーターパネル内が結露したが、それが解消するのに半日もかかった。タンク上部の【XSR】立体ロゴがどうしてもトランスフォーマーの顔に見えてしまう私ごときに言われたくはないだろうが、細かく見ていくと純日本製のクオリティに及ばない部分はありそうだ。

 海外モデルらしいなと思ったのは、サイドスタンドを出してもエンジンが自動停止しないことと、多少ガタつきが大きいものの左右どちらでもハンドルロックが掛かること。タイ仲間のスーパーカブC125でも出来ないのに。

 走りがいいのは大いに結構なのだが、中身が同じバイクをYZF-R15、MT-15、XSR155と3台も用意するのなら、もっともネイキッド寄りのXSR155にはもっと多くの乗り手に優しく使い勝手の良いバイクにして欲しかった。現状では乗り手のファッションセンスと体格を選ぶバイクになっている。

2020.5.5 記述

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