ヤマハ・XTZ125E SEROW250FI
ヤマハ・XTZ125E

 長所: 1安心感 2オンロードでの旋回性 3航続距離
 短所: 1オフロードでのグリップ 2ヘッドライト光量

 ヤマハ・XTZ125Eはブラジルで生産されるデュアルパーパスコミューターである。今回試乗したのはプレストコーポレーションが輸入した2008年式モデルである。

 平地でアクセルを全開にすると約100mで60km/h、250mで80km/h、450mで90km/hまで加速する。ギアごとの最高速は1速=30km/h、2速=50km/h、3速=70km/h、4速=90km/h、5速=96km/h(全てメーター読み、以下同じ)まで確認したが、そこまで引っ張らずに20、40、60、80km/hあたりでシフトアップを済ませたほうが快適である。100km/hを見たのは下り坂だけだった。ノッキング耐性は2速10 km/h、3速20 km/h、4速30 km/h、5速40 km/hを下回るとノッキングする。

 動力性能スーパーカブ110に近い。低中速域はKLX125よりもっさりしているし、同様のエンジンを積むYBR125に比べても全域で若干の力不足を感じる。キャブレーターで吸気すること、車体が大柄であること、オン・オフ双方を考慮したタイヤであることが、YBR125との違いを生むのだろうか。回せばソコソコ太い排気音が出る。振動はアイドリング時と全開でそれなりに認めるが、常用域ではほとんど気にならない。バランサーシャフトの存在が大きいのだろう。全体的には振動を減らし、安心感を増したカブ110という感じである。

 比較対象区間304.7kmを走行したらオドメーターは313.7kmを指した。距離計に+2.9%の誤差があるとするならば、その区間の平均燃費40.5km/Lに修正される。市街地区間の燃費は条件が同じではないものの38.8km/Lという数値が出た。

 1速は平地と下り坂ならばクラッチレバー握らなくてもノッキングしない。林道走行は1速と2速が活躍する。21インチのフロントタイヤは直進性が高く、少々岩に当たったところでビクともしない。19インチモデルより明らかに踏破性が高かった。しかしオフロードでは砂利を掴み損ねてリアホイールごとサイドに弾かれることもしばしばあった。シフトアップもせいぜい3速までにして速度を抑えたい気持ちになった。サスペンションはカブ110やCT110などと比べると弾力に満ちているが、XR100モタードやXR100Rなどと比べると若干固いというか渋いという印象を持った。

   外見も車格もセロー225を髣髴とさせる。いざ跨ってみると着座位置が高くて見晴しが良い。着座姿勢はオフ車らしく背筋がまっすぐに伸びるが、足の折り畳み角度はオンロードモデルより若干キツイ。ロードクリアランスを高く取るためだから仕方ない。シート幅は2011年式までのKLX125/Dトラッカー125より広くてまだケツが置きやすいが、クッションがセロー250ほど厚くないので、2時間も座っているとケツが痛くなる。170cmない私だと、片足をベッタリ接地させると、もう片方はつま先立ちになる。なおフットレストを左右ともに格納すると両足ともにベッタリ接地する。信号停止中に立ち上がっても尻が浮かないので、休憩時は降車せざるを得ない。長時間走行で疲労したのは腰と内股(特に右側)だった。XTZ125Eにもせめてセロー250ぐらい快適なシートを与えて欲しいと思う。

 ハンドル幅やミラーtoミラーも広いが、縁石にひっかからないホイールサイズとスリムな車体、そしてハンドルの高さがセダン系乗用車のミラーよりも高い位置にくるおかげで、すりぬけも思ったほど苦にならなかった。

 意外にも舗装路での旋回性が良かった。大抵のオフ車はコーナリングで寝かせていくとリアが耐え切れずに滑り出してしまうか、滑らないにしてもオンロードモデルよりその不安が大きいのだが、XTZ125Eはまるでオンロードモデルのようにタイヤの端まで使えそうな実感があった。標準タイヤ:ピレリMT60はどちらかというとオン志向のタイヤと言えるだろう。オールラウンダーとして使うならこのままのタイヤでもいいと思うが、林道に行く機会が多いのならもう少しオフ向きのタイヤに換えた方がいいかも知れない。

 操作性。ブレーキレバーもクラッチレバーも軽い。プッシュキャンセル式ウインカー、イグニッションでのハンドルロック等、通常のバイクと同様。XTZ125Eの『E』はエレクトロニックスターター=セル。足場の悪い所でスタックしたらセルスタートが重宝するだろう。キック始動もできるから多少電圧が落ちても安心だ。メーターパネルはウインカーの点滅灯がニュートラルと同じ緑色なのはご愛嬌。アナログ表示の速度計は体感的に誤差が少ないように感じた。燃料計はないので、トリップメーターと燃料コックを用いて給油管理を行う。標準バッテリーはめずらしく補水が必要なタイプだった。メットホルダーがないので社外品を取り付けるか錠前を見つけるしかない。どちらも用意していなかったので、とりあえずキックスターターペダルの先端にヘルメットを引っかけた。見た目がセロー225に似ているから期待したのだが、ヘッドライトは55/60Wではなく35Wハロゲンバルブ止まり。照射力が弱く、光軸も下にずれている(未調整?)ハイビームに切り替えてやっと30Wハロゲンをマルチリフレクトしたような明るさになる。夜間は常時ハイビームで運行したいところだ。燃料は10.6L入るのでツーリングでは約400kmも巡航できる。

 積載性。オフ車に限らずMT車は基本的に後席にしか荷物が積めないので海外純正オプションのリアキャリアは是非とも付けたい。タンデムベルトがないので、タンデムグリップにフックしないと荷物を固定できない。車体左側面のカバーを外すと工具・書類を収納する空間が現れるが、余剰スペースはない。

2013.1.4 記述


ヤマハ・SEROW250FI

 長所:汎用性
 短所:なし。全てはライダーのスキルでカバーできる。

 XTZ125Eの立ち位置を知りたくてSEROWにも試乗してみた。250ccでFI初期型モデルである。結論から言うと、セローは1台で何でもできる。取り回しに苦労するほど大きくないし、高速道路で都会を瞬間移動して、そのままオフロードに乗り込める。戦闘力はWR等に譲るが、低中回転域にパンチがあるので腕に覚えがあればアタックすることもできる。舗装路では400ccのマルチなんかよりよっぽど出足が力強く市街地戦闘力も侮れない。

 ギアごとの平地最高速は1速=42km/h、2速=70km/h、3速=94km/h、4速=120km/h、5速=135km/hを確認した。全てメーター読み。ノッキングしない限界最低速度は1速=7km/h、2速=11km/h、3速=22km/h、4速=35km/h、5速=50km/h。一方で再加速するには1速=7km/h、2速=15km/h、3速=25km/h、4速=37km/h、5速=50km/hは最低でも出していたい。1速はクラッチをゆっくり繋げばエンストしないで動き出せる。2速発進もカタカタ言いながらもなんとかクラッチを繋ぐだけで発進できたが、少しダルい。3速はクラッチワークだけで発進するのは不可能だった。燃費は市街地・高速・そしてオフロードを少々あわせて33.9km/Lになった。

 1気筒あたりの爆発が大きいのと、よりオフ志向の強いタイヤを履いているためだろうか、オンロードではXTZ125Eより全域で音も振動も大きいが、そのぶん力の差も歴然としている。非舗装路ではXTZ125Eが1速でないとできないことをセローなら2速でこなせてしまう。XTZ125Eが2速でないとできないことをセローなら3速のままこなしてしまう。維持費も駐輪場の問題もクリアーできて、しかもバイクは1台しか所有できないという方にはXTZ125Eよりもセロー250をお勧めしたい。しかしXTZ125Eがセローに勝る状況もある。

 セローは全体的にローギアな印象を受ける。オフロードでは1速は唐突すぎる場面がある。例えば後輪が斜面のガレ場に捕われた場合、体勢を立て直しつつ登って行きたいのだが、とにかく後輪が滑っていく状況。トルクが細くて微妙なアクセルワークが可能なXTZ125EやKLX125ではこの場を切り抜けることができたが、セローでは車体の重さで斜面を滑り続け、トルクも太すぎて微妙なスロットル操作ができず後輪をガレ場に噛み合わせることができなかった。転倒させないで車体を少しずつズルズル後退させるのが精一杯だった。

 また、スタンディングで急斜面を垂直降下する場面では慣性のほか重力も加算するので少しでも軽いほうが望ましい。加えて前輪が小さいとすぐにハンドルが捕られてしまうので、車体は大きい方が望ましい。軽くて大きいXTZ125Eの操縦性はKLX125やセローよりも圧倒的に良かった。セローとの約20?差は登りよりも下りで大きな差が出た。このように状況によってはセローよりもXTZ125Eの方が頼りになることもある。長距離ツーリングを含めて全てを1台でこなしたいのなら足が伸ばせるセローの方が何かと楽だろうが、生活圏に林道があって高速はまず使わないというのならXTZ125Eを指名するのもアリだと思う。

2013.1.4 記述

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