カワサキ
KLX230

CT125と比較して
 長所:1 直視安定性 2 走破性 3 乗り心地 4 ヘッドライト
 短所:1 乗降性 2 足着き性 3 座り心地 4 航続距離 5 積載性 6 燃費

 国内正規モデルとしてオフ車志向のものを探すとCT125(税抜400,000円)の周辺にはKLX230(税抜450,000円)とCRF250L(税抜461,000円)しかない(2020年10月現在)。オフ車というジャンルに限定すればKLX230が最も安価で最も小排気量なリーガルモデルになってしまった。今回試乗したのは2019年にインドネシアで生産されたKLX230である。オフ車でフルサイズと言われるF21、R18インチホイールを履いているが、フレームの上半分はKLX125と良く似ているので、KLX125/150をベースにしてKLX250とラインアップを統合するモデルに仕立てたのだろうか?

エンジンについて

 アイドリングは1,800回転前後とのことだが、暖機運転中のキャブ車を思い出すほど騒々しい。まるで自分のすぐ脇でお祭りの屋台で発電機が回っているようだ。速度を測定する際に撮っていた動画でKLX125とかなり似たエンジン音を発しているのが分かった。やっぱりボアストロークを目一杯拡大したエンジンなのでは。

 ギアを1速に入れてゆっくりとクラッチを繋ぐと、アクセルを全く回さなくてもバイクは動き出す。半クラッチで発進するなら2速でも余裕がある。クラッチを繋いで走り出すとエンジンの振動も騒音もだいぶ下がる。市街地走行で静かなエンジン音をキープしようとしたら、だいたいメーター読みで〜19km/hまでは1速、20km/h台は2速、30km/h台は3速、40km/h台は4速、50km/h台は5速、60km/h台は6速を使っている事が多かった。各速度域で一段高いギアを用いるとノッキングしやすく、各速度域で一段低いギアを用いると加速しやすくなるが騒音も大きくなる傾向がある。ギアの配置は全体的に低めで各段が接近しているように思う。

 変速操作はラクである。クラッチレバーが非常に軽くて遊びも少ない。ギアの間隔が近いのと、シフトペダルのストロークが短いためか、クラッチレバーを使わない緊急シフトも容易だった。シフトダウンならスロットルそのままでも素早く確実に変速する。シフトアップならスロットルを戻した方が変速しやすかった。一方でクラッチレバー使用の有無を問わずニュートラルは非常に出しにくかった。普通の感覚でシフトすると必ずと言っていいほどニュートラルを通り越してしまう。手を伸ばしてシフトチェンジしたくなるほど微妙なタッチを要求するので、1速と2速の間を4往復することも珍しくなかった。

 中回転域は回すほどに騒音も加速も増してくる。125ccクラスには無いパンチ力に酔いしれるのも束の間、高回転域に入るとすぐにレブリミッターにブチ当たって回転が落とされてしまう。リミッターが効く直前までは回転はスムーズだ。

加速力燃費について

 85kgの負荷を掛けて平地でアクセルを全開にすると、GPSは次の速度を示した。100mで55.3km/h、200mで81.6km/h、300mで91.3km/h、400mで101.6km/h、500mで104.1km/h、600mで107.8km/h、700mで112.2km/h、その直後に平地最高速の112.5km/hを見た。その時KLX230のデジタルメーターは122km/hを表示していたので、速度計の誤差は(122-112.5)÷112.5=+8.4%と推定する。わずか700mちょいでリミッターにブチ当たるので、舗装路では加速性を、非舗装路では走破性に効果のある設定と言える。

 エンジン特性をまとめると、低回転域は125cc並みの低振動とノック耐性(粘り強さ)を持ち、中回転域は250cc並みの加速力と引き換えに高騒音とガス喰い、高回転域はリミッターで抑えられて150cc並みの速度しか出ないというエンジンである。まあオフ車に最高速なんて必要ないので気にはならないが。

 比較対象区間308.8km(臨時)を走行したところ距離計は313.1kmを示した。距離計の誤差は+1.4%と推定する。その区間の平均燃費は308.8km÷10.02L=30.8km/Lになった。市街地走行でもそれぐらいの燃費になった。ちなみにいつもの高速道路では、流れに合わせた昇り区間29.5km/L、メーター読み85km/h以下に抑えた下り区間43.7km/Lになった。おとなしく走っても極上の低燃費にはならない。H・Y・S社のeSP・SEP・BLUECOREエンジンよりフリクションロスの大きい旧世代エンジンだと思う。

 

制動力について

 オフ車だけあって舗装路で普通にブレーキしてもフロントサスは大げさに沈む。
 ABSは前後輪とも機能する。フロントは220mmのサスストロークをたっぷり使って、それでも受け止めきれなかったときにABSが作動する。前輪が滑る直前、あるいは前輪がわずかに滑った直後に制動をリリースするのを実感できた。制動とリリースが一回のブレーキングで連続することもあったので、かなり細かく制御していると思う。なおブレーキレバーへのキックバックはほとんど感じなかった。リアはフロントより長めに滑ってから制動がリリースされた。ブレーキペダルへのキックバックも体感できなかった。ABSが付いていて邪魔になる印象は一切なかった。
 なお標準タイヤはサイズが2.75-21/4.10-18 で銘柄がIRC TRAIL S GP-21F/GP-22Rだった。

運動性能について

 ホイール径はフロントの方が大きく、寝るのが遅く立ちが早いのを感じる。セロー250よりアンダーステアが強い(大回りしやすい)ように思う。そしてリアタイヤの溝が中央部分を中心に減り始めてタイヤ的に旬を過ぎていたのと、試乗する日に限って雨に降られたためにコーナリングはあまり楽しいものではなかった。その一方で直進性は素晴らしい。極低速域からビシッと安定している。赤信号で停止してもしばらく足を着かずにバランスを保つことが出来た。

  

乗降性足着き性について。

 KLX230セロー250もびっくりするほど足着き性が悪い。肩幅開脚時・股下77cmの私が跨って被服込み70kgの体重でサスを沈めても両足共につま先しか地面に届かない。なので乗降時も停止中も不安定になるのでブレーキペダルを踏むことができない。乗降時は手ブレーキとギアインで安全を確保するしかない。

 乗降はかなり緊張する。サイドスタンドを立てた状態で左ステップに足を載せると、サスペンションの沈み込みでサイドスタンドが突っ張って車体が右に倒れそうになる。乗車する際は、意識的に左ステップに重心を掛けて車体を右に倒さないように跨ってから、今度はサイドスタンドを払いやすくするために右足接地で車体を右に傾ける。降車する際も右手ブレーキしつつサイドスタンドを出すかクラッチを繋いでエンストさせてしまう方が安全に左に体重を掛けられる。このサイドスタンドは空車状態に合わせた長さなので、乗降時はかなりの長物になる。路面が左右に傾斜しているところで乗降する際は更に注意が必要になる。

座り心地乗り心地について

 三角木馬と私が呼んでいた初期型KLX125の拷問まな板シートほど尻は痛くならないが、それでも30分くらい座っていると徐々に尻が痛み出してくる。ステップ付近で約12cm、シートバンド付近で約16cmのシート幅は2012年式で改良された後のKLX125のシートに近似した値であり、座り心地もそれに良く似ている。お肉たっぷりな私のケツでも座りっぱなしでは2時間が限度。立ち上がる際には尾てい骨に激痛が走る。スタンディングが正常位と言わんばかりのスパルタンな奴だ。セロー250のシートが恋しい。

 反対に乗り心地はすごく良い。リンク式のリアサスがいい仕事している。サスの前後バランスも良いために、路面の凹凸を通過して強い衝撃を喰らった記憶が全く無い。これだけ足回りに柔軟性がありながら高速道路での直進やレーンチェンジの挙動に不安を感じないのは大したものだと思う。D-TRACKER230を作ったら面白いバイクになると思う。KLX230はリアサスの柔軟性=路面追従性がシートの硬さを補っている。この点はCT125と正反対だ。CT125はシートの弾力がリアサスの硬さを和らげている。

 

収納性積載性について

 リアキャリア(税抜15,800円)にビルトインしたETC2.0車載器キット(税抜41,800円)の中に書類程度なら収納することができる。このキットは車体の鍵で開閉することができるが、天面が開く構造なのでキャリアに荷物を載せているときはETCカードの脱着ができない。ということは、このキットとBOXは同時設置できないことになる。

 このキャリアは全体的に角が取れていて荷物を安定させるための有効面積が見た目より小さい。荷掛けフックは4個あるものの、フック付きゴムロープでRV BOX400の固定を試みたが、不安定なので諦めた。DEGNER NB-145なら付属スナップで固定する事はできた。KLX125時代のキャリアよりも剛性が高くて取り回しハンドルとしても有効だが、デイパック類をゴム・ロープで固定する使い方を想定しているようだ。

 

操作性その他について

 プッシュキャンセル式ウインカースイッチにちょっとクセがある。スイッチを押し込んだ状態で左右に倒して再び合図できるのはいいのだが、キャンセルする際にも左右にグラついてしまうのが残念だ。もう少ししっかりした操作感が欲しい。
 燃料タンクキャップはヒンジ式で開くのでキャップ置き場を探さなくていい。
 バックミラーKLX125と同じもの。鏡面積も広くないし、アームも短いし、取付位置も内側寄りなので後方視界はあまり宜しくない。すりぬけの邪魔にならないが、ここまで足着きの悪いバイクで私はすり抜けようと思わない。

 メーター。距離計はオドのほかトリップ計が2つ付いている。時計は付いているがエンジン回転計は付いていない。速度計の横に枠があるのでギアポジションの表示を期待したが装備していなかった。燃料計のセグメントは6個あり、35km程度走行して5個になり、以降は20〜30km毎にセグメントが減って行き、満タンから145km走行して最後のひとセグメントが点滅した。燃料は7.4L入るので、平均燃費から逆算するとその時点で2.7L程度は残っていた計算になる。ガス欠まで粘っても航続距離は30km/L×7.4L≒228kmしかない。軽二輪としては短い。

 

 

ヘッドライトについて

 巷ではボンバーマンとかレゴブロックヘルメットなどと呼ばれるヘッドライトだが、画像のとおり雨天でもかなり明るくて見やすい。さすが55/60Wハロゲンバルブ。ロービームとハイビームで照射範囲にかなりメリハリを付けている。(CT125と照射比較) 

純正オプションについて

 リアキャリアを付けないと積載や取り回しに苦労するしETCも装着できないので、多くの人が取り付けることになるだろう。
 今回の試乗車に付いていたスキッドプレート(税抜1,470円)やフレームカバー左右セット(税抜2,180円)は樹脂製だった。交換を前提として簡易なものにしているのか。
 標準装着するハンドルはブレース付きで通常使用でも十分な剛性を感じる。オプションではブレース無しで中央付近が太いハンドルも用意している。

KLX230Rとの違いについて

 KLX230には姉妹車:KLX230Rが存在する。KLX230=A、KLX230R=Rと略してパーツリストから調べた主要な相違点をメモする。
 フロントスプロケット(A14、R13)+リアスプロケ(A45、R46)=二次減速比(A45/14=3.214、R46/13=3.538)
 リアスイングアーム(A=スチール、R=アルミ)
 燃料タンク(A=スチール製7.4L、R=プラ製6.5L)
 ブレーキ(A=前後ABS装備、R=なし)
 フロントディスクローター径(A=265mm、R=240mm)
 標準タイヤ(A=上記参照、R=ダンロップD952、F80/100-21 51M、R100/100-18 59M)
 エンジン出力(略)  重量(A=134kg、R=115kg)

KLX230の立ち位置について

 生産終了となったセロー250とは車格や排気量のうえでは同一クラスと言えようが、結構性格が異なるように思う。乗降性足着き性セロー250の方が良かったが、着座して膝の折り畳みがキツくないのはKLX230の方だった。更に座るためのシートとしてはセロー250の方が快適だが、スタンディング走行中にボディが内股に干渉しにくいのはKLX230である。セロー250の5速はロングな設定でゆったりと走ることが出来るが、KLX230の6速はショートな設定で適切なギアを選んでキビキビ走らせると楽しかった。以上からセロー250は林道までの高速移動も重視したオールラウンドなデュアルパーパスツアラーで、一方のKLX230はモトクロッサー入門モデルKLX230Rを公道でも乗りやすくしたリーガルバージョンという印象を抱いた。

 KLX230は本格的なオフ車をベースに持つバイクだが、毎日の下駄として使うには仰々しい乗降性である。KLX230に乗り回してからCT125に乗ると静粛性と足着きの良さに感動する。その反面、CT125のニーグリップできない点や軽すぎるハンドルは不整地での安定性を大きく削いでいると感じた。足回りやパワーの不足で踏破性が低いなら、せめて車体がもっと軽ければもっと踏み込めるだろうに、と歯痒く思う。CT125の日常性とKLX230の走破性には隔たりが大きいので、両者の間を埋めるような1台があると面白いと思う。

2020.10.25 記述

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