トリシティ125
SEC1J

SEC1J単独評価
 長所:1 運動性能 2 制動力 3 乗降性 4 着座姿勢
 短所:1 取り回し 2 左集中スイッチ 3 アシストグリップ 4 照射力
SE82Jと比較して
 長所:1 機敏性 2 航続距離 3 メットホルダー新設 4 DCジャック新設
 短所:1 ハイビームの照射力

 前回、トリシティ125タイ現地仕様の後に国内仕様にも試乗していたが、違いがほとんど分からなかったので更新を放置していた。
 トリシティ155(SG37J)の登場に合わせてトリシティ125も新型になり、このたび走行約8,000kmの2018年モデル(BU54。以下SEC1Jという)と走行約30,000kmの初期型2015年モデル(2CM9。以下SE82Jという)に比較試乗することができたので久々に更新する。
 なお、2018年モデルから2020年モデルにかけてはカラー以外の仕様変更はない。

 

動力性能について

 まずはSE82J。85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にすると、GPSは以下の速度を示した。100m=51.4km/h、200m=65.6km/h、300m=71.7km/h、400m=76.9km/h、500m=79.2km/h、600m=81.0km/h、700m=81.9km/h、800m=82.5km/h、900m=83.1km/h、1,000m=83.2km/h、1,100m=83.3km/h、1,200m=83.4km/h、1,300m=83.6km/h、1,400m=83.8km/h、1,500m=84.0km/h、1,600m=84.4km/h、1,700〜1,800m=84.8km/h、1,900m=84.9km/h、2,000mで平地最高速85.0km/hを確認した。このとき本体のデジタルメーターは91km/hを示していた。勾配の非常に緩い下り坂ではGPS表示で92.3km/h、本体表示で99km/hまでは見ている。速度計の誤差は(99-92.3)÷92.3=+7.3%程度と推定する。
 前回のタイ仕様に比べメーター表示で4km/h落ちている。走行約30,000kmの車体ということで各所がくたびれている可能性がある。トリシティ125ってこんなに遅かったっけ?というのが正直な気持ちである。長時間走行で最も疲労したのはスロットルグリップを雑巾のように絞り続ける右手首であった。

 次にSEC1J。85kgの負荷をかけて平地でアクセルを全開にすると、GPSは以下の速度を示した。100m=52.6km/h、200m=65.4km/h、300m=76.4km/h、400m=83.3km/h、500m=86.1km/h、600m=88.3km/h、700m=89.6km/h、800m=91.6km/h、900m=91.7km/h、1,000m=92.0km/h、1,100m=92.7km/h、1,200m=93.1km/h、1,300m=94.1km/h、1,400m=94.5km/h、1,500m=95.2km/h、1,600m=95.3km/h、1,700mで平地最高速95.4km/hを確認した。このとき本体のデジタルメーターは101km/hを示していた。勾配の非常に緩い下り坂ではGPS表示で100.4km/h、本体表示で107km/hまでは見ている。速度計の誤差は(107-100.4)÷100.4=+6.6%程度と推定する。
 数字だけ見るとSE82Jに比べて目覚ましく速くなったわけではないが、スロットルレスポンスが向上してストレスが減った。スロットルグリップの回し方が穏やかになり右手首も疲れなくなった。

燃費について

 SE82Jは、比較対象区間(臨)310.8kmを走行したところオドメーターは318.8kmを表示した。距離計の誤差は+2.6%と推定する。その区間の平均燃費43.8km/Lとなった。

 SEC1Jは、比較対象区間(臨)310.8kmを走行したところオドメーターは315.1kmを表示した。距離計の誤差は+1.4%と推定する。その区間の平均燃費45.8km/Lとなった。

 燃費についてはやはりBLUECOREエンジンを搭載したSEC1Jに分があるようだ。ただし、どちらも満タンの位置がわかり辛かった。燃料がいつまでもチビチビ給油できるので、もっと長いあいだ測定し続けないと正確な燃費は分からないと思う。

運動性能について

 SEC1Jになって直進性・旋回性ともに向上している。
 もともとトリシティ125は、いかなるスロットル量においても3輪の方向性に一体感があり、ライダーの操縦に素直に従ってくれるバイクだったが、三輪は個別の角度とサスペンションで取り付けられていて、しかも路面の凹凸も接地点によって異なるので、極低速時は二輪車より左右の安定性に欠くときがあった。赤信号で停止直前まで速度を落とした際に足を接地しようかどうか迷ったとき、すぐに信号が青に変わることがある。こんなときSE82Jだと一旦足を接地してバランスを回復させることが多かったが、SEC1Jだとフロアステップに足を乗せたまま再発進できることが多くなった。二輪車に比べて苦手だった直進すり抜けSE82Jより行いやすい。
 右へ左へとタイトコーナーが連続するときSE82Jでは外輪(右カーブでは左前輪、左カーブでは右前輪)を意識していたが、SEC1Jではその意識が減った。むしろ左右の前輪の間にあるはずもない中央の車輪を意識してコーナリングするようになった。峠道の下りは本当に頼もしい。

 SEC1Jでリアホイールサイズを12→13インチに変更したことに伴い後輪が直径で0.94cm、幅で2cm拡大している。これによって後輪の主体性が一段と高まったのだろう。

制動力について

 相変わらず素晴らしい。3輪ともディスク。制動時に荷重が移動する方向である前側に2つの車輪とディスクブレーキがあるのが大きい。試乗車はどちらも左ブレーキレバーを握ると後輪だけでなく前輪にも半分強の制動力がかかるUBS(ユニファイドブレーキシステム)仕様だった。標準タイヤはSE82JMAXXIS:M6231(90/80-14)、M6232(110/90-12)から、SEC1JIRC:SCT-003(90/80-14)、SCT-003(130/70-13)に変更されていた。
 ちなみにABS仕様を選択するとUBSに加えて3輪独立で制御するABSも架装される。重量は5kg、お値段は税抜35,000円アップする。

乗り心地について

 SE82Jのサスがヘタってきているのか、SEC1Jのシートクッションが薄くなったのか、原因は分からないが、SE82Jの方が若干良かったかも知れない。いずれもフロントはしなやかなのに、リアは路面からの衝撃を受けやすい。エンジンと駆動系と後輪が一体となったユニットスイング式ならではの重さを感じる。ただ重心バランスの関係で、トリシティ125はフロント側も結構重くて、いくらか衝撃が分散されているようでNMAXなど同クラスの二輪スクーターより後輪からの衝撃は和らいでいると感じた。

居住性について

 足着きは実感できる差はなかった。
 シートSE82Jより薄くて硬くなったような気がするが、SEC1Jでも私のケツなら3時間位の連続乗車に耐えられる。このシート形状の変更によって着座点を後方にずらして居住性を改善したのかもしれない。インナーカウルと膝までの距離が伸びて圧迫感が減ったような気がするし、ハンドルもわずかに遠くなって、着座姿勢も改善しているように感じる。試乗日程が開いていたら両者の違いに気付かなかっただろう。

 この着座姿勢は、“椅子”として座っているときの姿勢が良いということであって、“操縦”しやすい姿勢とは別物である。前回も指摘したとおり、トリシティ125は足元の前後長に余裕が無く、車で言うところのタイヤハウスが邪魔で、(フロア)ステップ荷重が掛けにくい。これが運動性能乗降性着座姿勢も長所に挙げておきながら、操縦性を長所に挙げない理由である。

 後席はタンデムステップの形状が変更されている。アシストグリップは、降車時に取り回しハンドルとして使用するには溝が深くなって握りやすくなったが、同乗者のタンデムグリップとしてはSE82J同様に褒めることはできない。後席に着座したとき外側から四指しか入らないと“持ち上げる”ことはできても、内側から親指が入らないと“掴む”ことはできない。現状ではバウンド→ダウンした際に同乗者の手がアシストグリップから外れてしまう恐れがある。PCXのダッグテイルも同様だが、親指も使って“掴める”物に改善して欲しい。

  

収納力について

 収納箇所はフロントトランクシート下トランクの二箇所にある。

 フロントトランクSEC1Jで新設された。プッシュボタンで常時開けることができる反面、施錠はできない。12V・DCジャックを内蔵した密閉空間だが、高さも奥行きも足りなくてペットボトルは280mlすら入らない。型落ち5.84インチスマホも入らなかった。トリシティ155用のETC車載器取り付け空間としても狭いと思う。無いよりマシな空間で、フロント“トランク”と言うよりミニポケットと呼ぶに相応しい。

 シート下トランクの収納力を、Mサイズ4個のヘルメットで試してみた。
 OGK:ASAGI=A、OGK:RT-33=R、Arai:MZ=M、Arai:Quantum-J=Qと略する。収納結果〇△×で略する。シート裏に全くと言っていいほど干渉しないでシートを完全に閉じることが出来た場合は、軽く干渉する程度でシートを閉じることができた場合は〇△、上から押さえつければシートを閉じることが出来た場合は、上から強く押さえつけてやっとシートを閉じることが出来た場合は△×、強く押さえつけてもシートを閉じることが出来なかった場合は×とする。

 

まずはSE82J
 A=○△、R=○△、M=○、Q=○
 ヘルメットはいずれも専用収納カバーを掛けた状態で後ろに向けている。ARの○△は何も収納しないでシートを閉じた場合に比べてやや接触抵抗がある程度でほとんど○に近いが、収納した状態で着座して欲しくないので○△にしておいた。

つぎにSEC1J
 シート下トランク内にLED照明とシートヒンジ付近に左右のヘルメットホルダーが追加された。
 トランク内の見た目はSE82Jより深くなったが、ヘルメットによって収納方向を変える必要が出てきた。
 A=前向きで○、後ろ向きで○△、後ろ向きで寝かせて○△、左右どちらのメットホルダーにも引っ掛けられるが、右側はシート開閉が困難な中間点がある。
 R=前向きで○、後ろ向きで△、後ろ向きで寝かせて△×、左右のメットホルダーへの取り付けは一番楽だった。
 M=後ろ向きで○△、後ろ向きで寝かせて○△、左右どちらのメットホルダーにも引っ掛けられるが、多少ヒンジが苦しい。
 Q=後ろ向きで○、後ろ向きで寝かせて○△、左右どちらのメットホルダーにも引っ掛けられるが、多少ヒンジが苦しい。

 メットホルダーは針金を太くしたような簡易な造りである。このことでDリングを引っ掛けた際にあごひもが引っ張られても何とかシートを開け閉めできるようにした。

 

積載性について

 収納力の不足を補おうとすると何かを付けるしかない。
 リアシートの上にDEGNER NB-145を載せてシートの裏側にバックルすることはできた。若干シートが閉まり辛くはなるが。バックルした状態でシートを持ち上げてもハンドルには干渉しなかった。NB-145をSE82JからSEC1Jに載せ替える際にバックルの長さを更に絞める必要があったので、SEC1Jになって後席でもシートのボリュームは減ったようだ。
 ミニキャリア(税抜9,000円)はあまりに面積が狭くて心もとない。
 最も利便性の高そうな39LユーロBOXにワンキータイプのキーシリンダーバックレストまで取り付けると工賃・消費税抜きで45,500円(※)もして驚くが、このキーシリンダーは複数のタンブラーを同梱しているので、車両変更しても組みなおして再利用できるのは嬉しい。

(※)https://www.ysgear.co.jp/Products/List/top/model/1205/class3/11600/disp/std

 使わない時は格納できる回転式コンビニフックのアイデアは良いが、フロアから約40cmしか高さがない。シート下トランクに収納できないデイパックはここにも引っ掛けられないので、フロアから約66cmの高さにあるメインスイッチに挿入したカギをコンビニフック代わりに利用した。コンビニフックメインスイッチの位置に移動して、メインスイッチは右脇にでも移動してくれた方が便利だと思う。

 

 

取り扱いその他の装備について

 トリシティ125は初心者や女性にお勧めしたいバイクであるが、価格重量がネックになる。独自の構造を見れば価格についてはむしろ安いと私は思うが、およそ半額で買える原付二種スクーターがあるなかで、初めてバイクに乗る人が敢えてこれを選ぶのか?という疑問を抱く。高齢者や女性に乗ってもらいたいなら、この取り回しの重さは致命的な欠点とも言える。底の薄い靴でセンタースタンド掛けしようとすると土踏まずが痛い。GEARパーキングスタンド機構をトリシティ125に流用してみてはどうか?お値段アップで更に売れなくなる?ブレーキレバーも女性には少し遠いと思う。

 左集中スイッチSE82JSEC1Jも継続してヤマハの古いタイプのスイッチを採用している。すなわちウインカースイッチはスライドスイッチの中央にプッシュキャンセルスイッチを内蔵したタイプである。どのスイッチも小ぶりで予め構えていれば操作に支障はないが、スイッチボックスに厚みがありすぎてハンドルグリップからスイッチまでが遠い。よってホーンスイッチブレーキレバーの同時操作が難しい。

 メーターパネルはほとんど同じだが、インジゲーターにecoランプが追加された。スロットル量が少ないと緑色で点灯するだけだが、経済運転を推奨するギミックを設けないと駄目な時代なのだろうか?ここまで時計を大きく表示してくれるバイクはそうそうない。燃料タンク容量が6.6Lから7.2Lに増量されたのは地味に嬉しい。45km/L×7.2L=324km。最近はガソリンスタンドの数が徐々に減っているので300kmくらい航続できないと下道ツーリングも危うい。外気温計は道路案内板より2〜5℃は高く表示するのは今回も同じだった。エンジン回転数は表示されないけど、欲しいと思わない。

 バックミラーも変更されている。SE82Jは関節がゴムラバーで覆われている。映りは立体感が強め。SEC1Jは角が取れた形状になり関節部分は覆われていない。若干ではあるが立体感より視野の広さを感じる映りである。個人的な好みで言えばSEC1J。このクラスのスクーターで関節をゴムラバーで覆ったミラーは長時間走行していると関節が徐々に動いてしまうものが多いし、ミラーの先端形状を尖らせても視界的なメリットは何もないからだ。

 ヘッドライトの光源はSE82Jは55/60Wのハロゲンバルブを採用していたが、SEC1JでLEDに変更された。ヘッドライトの新旧照射比較を見て頂くと、SE82Jもロービームかハイビームで照射範囲に随分とメリハリを付けていたことが分かる。ロービームどうしで比べれば、SEC1JのLEDが一概に劣るとは言わないが、ハイビームに切り替えると、照射範囲、照射距離、見やすさ、眩惑しにくさ、などいずれの面でもSE82Jが圧倒的に有利である。シグナスXマジェスティSに続きトリシティ125まで55/60Wのハロゲンバルブを外されてしまったのは残念だ。

 SE82JからSEC1Jになって機敏性使い勝手が改善された。しかしハイビーム時の照射力は劣化したし、トリシティ155とは一部の部品が差別化されているのが悔しい。
 トリシティ155のスイッチボックスは無駄に膨らんでなくてホーンスイッチも押しやすいし、ウインカースイッチもプッシュキャンセルスイッチを一体化したものであるし、ヘッドライトの上下を切り替えるディマスイッチもシーソー式になっている。しかもパーキングブレーキ(専用レバー、ブレーキワイヤー、ブレーキシュー)も装備している。つまりトリシティ155のリアブレーキは走行時に使用するディスクブレーキと駐車時に使用するドラムブレーキの二重構造になっているのである。操作性動力性能も向上してトリシティ125 ABS仕様の税抜2万円増しというのはお買い得である。なぜかバックミラーはSE82Jのものを継続使用している。

記述 2020.12.15

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